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レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか  作者: 宮崎世絆
幼少期編

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42/61

42 決意のち試練なんです

「……レティシア」

「私、魔術学園に入学する事をさっき決めたよ。だって後悔したくないから。特訓を受けるのは意味のない事かもしれない。けど私には多分、必要な事な気がするんだ」


 レティシアをじっと見つめていたルシータは不意に目を閉じると、膝に置いている肘から先を動かし、祈る様に両指を組むとその上に顎を乗せた。


 暫く沈黙が続き、シシリーがお茶を運びに来て部屋を出たタイミングで、ルシータは語りかけた。


「少し、昔話をしようか」


 ルシータはシシリーが置いた紅茶の入ったティーカップを口に運ぶと、意を決した様に目を開いた。


「私の母はね、ルシアを産んで産後間もないのに魔物と戦って、亡くなっているんだ。……ラシュリアータ辺境領はダンジョンが多くて、時にダンジョンから魔物が出てしまう事がある。母は辺境伯の妻になる位だ。私みたいに剛気で、魔力や剣技に秀でた人だった。多分油断したのだと思う」


 ゆっくりカップを皿に戻すと、疲れた様に溜息をついた。


「私は魔物を心底憎悪したよ。しかし、憎しみを抱く事は魔物を生み出してしまうことと同じ。憎しみの心でしか魔物と対峙出来ない自分を諭すのに、本当に苦労してね。結局私は、魔物を殺す事が、母の弔いになる。そう思うようにしたんだ」


「殺す事が……弔いになった……?」

「当初はね。しかし今は私も母だ。私は母として、今は少しでも子供達の平和のために。そう思い戦っているつもりさ」


 レティシアの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「だから、レティシア。自分を守る為に、今以上に強くなりたいなら私は協力しよう。だがもし、いつか冒険者の様に魔物と戦いたいと思うのなら、私が特訓させた事を後悔しなくていいように。私達が、悪意に囚われることにならないように。決して無理はしないと、どうか誓って欲しい」


「お母様……」


 ルシータの母としての想いに、真摯に向き合う必要がある。


「私ね、お父様とお母様の子供に生まれて、凄く幸せなんだ。ユリウス兄様とも家族になれて、私は世界一家族に恵まれた幸せ者だって、そう思ってる。だから、()()家族が悲しむ事はしない。私、レティシア・アームストロングは、誓うよ。決して、無理はしないから」




 ***




「ルルー、積み木が入ってるのは、左のおてて、右のおてて、どーっちだ?」

「ちゅ、み、きー!」


 ルドルフはレティシアの左手をペシペシ叩いた。


「せいかーい! ルルーすごーい! はいどうぞ」

「あーがとーっ」


 ルシータとの話し合いは、レオナルドと協議して今後の方針を決めるからと、一旦終了することとなり、話し合い後レティシアは愛しのルドルフと遊ぶことにしたのだ。


「ねーね、とーと」

「ん?」


 ルドルフが指差した先の扉が開いており、レオナルドが立っていた。


「お父様」

「レティ、少し話がある。ルディ、レティと話をして良いかな?」

「あーい」


 意味が分かっているのか、いないのか、ルドルフは積み木が置いてある方へヨチヨチ歩いて行った。因みにレティシア以外、ルドルフの愛称はルディだ。


(絶対、ルルーの方がルドルフも気に入ってくれている、と思うんだけどな)


 レティシアは床から立ち上がり、気持ちを切り替えてレオナルドに近づいた。


「……シータから話は聞いた。レティ。魔術学園に入学したい事やシータの訓練を受けたい意思は、変わらないのだな?」

「はい」

「なら、私から一つだけ、条件がある。ルディの相手が終わったら、執務室に来なさい」

「はい、分かりました」


 それだけを告げると、レオナルドは扉を閉めて去っていった。


 条件が何か分からないが、頑張るしかない。


「ルルー! お姉ちゃん、頑張るから応援してね!!」

「うー?」


 積み木を積み上げながら首を傾げるルドルフに、暫しの癒しを受け取るのであった。




 暫くしてルドルフがおねむになったので、シンリーとついでにシシリーに後のお世話を頼むと、一人で執務室に向かった。


 扉の前で一呼吸ついてから、意を決して扉をノックした。

 レオナルドの応答を待って部屋へと入った。執務室にはレオナルド一人しか居らず、ソファーに座っていた。


「座りなさい」

「失礼します」


 面接を受ける様で、やけに緊張する。やや硬くなりながら座った。



「……まず、ルシータに訓練を受ける事だが。これは特に問題はない。強くなる事に越した事はないからな。私が出す条件は、これから見せる魔導具を身に付けてもらう事だ」


 レオナルドは立ち上がると、執務机の引き出しから何かを取り出してくると、テーブルの上に置いた。


「これは腕輪?」


 以前アトランス宮殿に赴く際、身に付けたことのある銀色のブレスレットに少し似ている。ただ、これは完全に手枷の形状で、ストロングカレイドの模様は施されておらず、代わりに物凄く細かい術式が表面を埋め尽くしていて、何やら禍々しさを感じた。


「この腕輪は封印の腕輪と言って、身に付けた者の魔力を()()に封じる魔導具だ。外さない限り、一切の魔法が使えなくなる」

「一切使えない!?」

「そうだ。身に付けた自身では外せないのでかなり危険な魔導具だが、魔力の高いレティシアには、一度魔力を使えない経験が必要だと判断した」

「この腕輪を嵌めて、使えない経験をすれば良いの?」

「いや、それだけでは意味がない」


 レオナルドは腕輪を持ち上げると、レティシアに差し出した。


「この封印の腕輪を、『自身の力だけ』で外す、若しくは破壊することが出来れば、魔術学園の入学を許可する。期限は入学手続きの締切月までだ」

「!」

「この条件を承諾出来ないのであれば、魔術学園に通うのは断念しなさい。決めるのはレティだ」


 魔法が使えなくなる。

 

 それはつまり魔法以外満足に戦う術を知らないレティシアにとって、身を守る術を失くす事と同じ。

 郊外に出るなどの場合にはかなり危険ではあるが、近衛兵がいる屋敷の敷地内であれば特に問題はない筈。


 レティシアは前世と同じ状態になるだけだと腹を括った。


「お父様、私は封印の腕輪に挑戦します。私自身の力で、必ず外してみせるから!」

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