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レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか  作者: 宮崎世絆
幼少期編

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34/61

34 天使なんです

 その後無事アームストロング領の屋敷に戻り、出迎えてくれたデュオにルシータの様子を聞くと、レオナルドが戻った後、直ぐに出産したらしい。

 それを聞いたレティシアは着替えも漫ろに疲れも忘れて、シシリーに案内を頼み、ユリウスより先にルシータの元へと急いだ。


 全身に浄化魔法を念入りに唱えた後、分娩室として使用している部屋に入ると、ベッドに横たわり少し疲れた顔のルシータが見えた。その直ぐ側の椅子に座るレオナルドと目があった。


「戻ったか、レティ」

「はい、ご心配をお掛けしました。……私も兄様も大丈夫だよ」


 レティシアが声を掛けると、レオナルドは安堵の表情を見せ、ルシータは穏やかな微笑みを浮かべた。


「レティ」

「はい、お母様」


 ルシータに呼ばれベッドに近づくと、レオナルドは椅子から立ち上がりレティシアに譲ってくれた。

 レティシアはレオナルドが座っていた椅子に腰掛けて、ルシータに優しく微笑み掛けた。


「お疲れ様、お母様」

「ふふ、レティもお疲れ様。何やら()()あったみたいだけど、無事戻って来てくれて良かった。もう少し落ち着いたら、後で聞かせてくれるかい?」

「はい。お母様、今はゆっくり休んで」

「そうだな、久しぶりに疲れた。レティ、隣の部屋に新しい家族がいるよ。見に行っておいで。レティの弟だ」

「弟!」


 レティシアは満面笑みで立ち上がると、急ぎ足で隣の部屋に急いだ。


 赤ちゃんの泣き声がしないので寝ているのだろう。静かに扉を開けると、ベビーベッドが置かれた部屋にシンリーが立っていた。レティシアは静かに扉を閉める。


 シンリーはレティシアに微笑みかけ、敬礼した。


「おかえりなさいませ、レティシアお嬢様」

「ただいま、シンリー。赤ちゃん寝ているのね。静かにするから顔見ても良い?」

「勿論でございます。可愛らしい弟君ですよ」


 頷いてゆっくりベビーベッドに近づくと、スヤスヤ眠る顔を覗き込んだ。


(…………か、か可愛いい良いいイィィ!!)


 産まれたての天使が眠っていた。


 少しレティシアに似た若草色の産毛が、申し訳程度に頭部に生えている。何処もかしこも小さくてぷにぷにな姿に、庇護力やベビースキーマがかき立てられる。


 小さいけれど確実に生きている命に、何とも言えない感動を覚えた。


 起こさないように、小さな小さな手を恐る恐る触ってみる。

 柔らかい感触にうっとりしていると、赤ちゃんの指が動いてレティシアの指を握りしめた。


(はううぅぅっっ!!)


 レティシアの胸に、矛先がハート型の見えない矢が突き刺さる。

 何なんだこの可愛い生き物は。レティシアは胸を押さえて悶絶した。


(……駄目だ。これはブラコンになる。こんな可愛い生き物(おとうと)を愛せない訳が無い!!)


「可愛いね」


 いきなり隣から声を掛けられ、レティシアは跳び上がる程驚いたが、何とか声を上げずに呑み込んだ。


「に、兄様……」


 いつの間にか隣に、ユリウスが同じ様に赤ちゃんを見つめていた。


「……びっくりした……。いつの間に隣に居たの?」

「レティが赤ちゃんに手を握られて、悶絶している所から」


(お兄様が悶絶とか言わないでーー!! 何かメチャクチャ恥ずかしくなるから!!)


「……仕方ないでしょ? こんなに可愛いんだから」


 顔を赤らめながら、ゆっくりと赤ちゃんに握りしめられた指を、心残りに思いながら外した。

 握りしめられていた指を自分の手で包み込んだ。


「本当に可愛い。……はじめまして、貴方の姉のレティシアよ。これから宜しくね」


 小さな声で赤ちゃんに挨拶した。ユリウスはそんなレティシアに優しく微笑むと、ユリウスも赤ちゃんに挨拶した。


「僕は兄のユリウスだ。宜しく『ルドルフ』」


 ルドルフ。


 赤ちゃんの名前であろうその名前を、レティシアは呟いた。


「ルドルフ……良い名前ね。……なら私はルルーって呼ぼうかな。ルルー……ふふっ、いい響き」

「……男の子は、嫌がるんじゃないかな。何だか女の子の愛称みたいだよ?」

「いいんですー。決めたんですー。ルルー、ルルー? お姉ちゃんですよー」


 ルドルフを呼びながらもう一度触ろうとしたら、急にずぐり出した。レティシアは慌てた。


「ほら、愛称嫌がってるんだよ」

「絶対違うって!」


 ちょっと声が大きかったのか、本格的に泣き出してしまった。レティシアも本格的に慌てた。


「ああっ泣かないでルルーっ」


 あわあわするレティシアを尻目に、シンリーはルドルフを優しく抱き上げて、慣れた手付きであやした。すると直ぐにルドルフは直ぐに泣き止んで、寝息を立てた。


「ルドルフ様は私が見ておりますので、お二人はお疲れでしょうから、少しお休みになられて下さい」

「……はい……」


 あからさまに落ち込んだレティシアを慰めるように、ユリウスはレティシアの肩を叩いた。レティシアは頭を垂れながらトボトボ部屋を出た。


 ルドルフのいた部屋から出てルシータを見ると、眠っているようだった。隣には案の定レオナルドが見守っている。


 起こさない様レティシアはレオナルドに目配せで退室の意を示すと、レオナルドは頷いた。


 ユリウスが静かに扉を開けてくれて部屋を出た。レティシアは少し歩いてから、大きく深呼吸した。


「あー可愛いかった! これから毎日会えると思うと、嬉しくて疲れなんか吹き飛んだわ!」

「……可愛いのは同感するけど、ルドルフに付きっきりになられると、僕が焼きもち焼きそうだ」

「あ、そうだね。兄様来年にはルルーに会えなくなってしまうもんね。じゃあ、毎日一緒に会いに行こうね!」

「ルドルフに会うのもそうなんだけど、レティ」


 ユリウスは、またもレティシアの腰を引き寄せた。


「僕は、ルドルフにレティを取られるのが嫌なんだよ? ルドルフだけではなくて。僕にも、今まで以上に構って欲しいな?」


 魅惑的な微笑みを向けられて、レティシアは顔を赤らめた。


(だからお兄様スキンシップ万斛です! 後ろには、シシリーの他にデュオも居るんだけどー!?)


「ぜ、善処します!!」

「うん」


 腰に回された状態でレティシアは歩かざるを得なくなった。レティシアは困った様にユリウスを見上げると、嬉しそうなユリウスの顔があった。


「ルドルフを見て思ったんだけど」

「うん?」

「レティの赤ちゃんも可愛いんだろうなって思って」


(へ?)


「将来の楽しみだね」


(???)


 何が言いたいのかよく分からなかったので「そうだね」と小さく応えておいた。


 部屋に帰るまで、ユリウスの腕は結局離れなかった。

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