３ 皆から愛されてるんです
着替える時は着る服を確認してから着替えさせてもらっていたので、鏡で確認した事がない。
髪を整える時だって、特にこだわりが無いから髪を梳かしてもらうだけ。梳かしてもらったらいつも直ぐに部屋を飛び出すので、いちいち鏡を見ていない。
たまに見えるサイドの髪が黄緑色ぽい色なのは知っているが。
（何てこった。いち早く確認すべき事なのに、すっかり忘れてた）
前世の自分の顔は思い出せないが、平々凡々の容姿であった事は確かである。生まれ変わった今も、前世の顔のままだと思い込んでしまっていた様だ。
（後で鏡を確認しなければ）
とりあえず理解したと頷いておく。
「話は変わりますが、レティシア様。旦那様と奥様からのプレゼントをお預かりしております」
シンリーは両手で持っているトレーに鎮座する、赤いリボンに包まれた手のひらサイズの箱を恭しく差し出した。
「本当は私めがお渡しするのは憚れるのですが……、本日中に帰れるか分からないからとお預かりしておりました」
申し訳なさそうに差し出されたプレゼントを、レティシアは優しく微笑んで受け取った。
「ううん。シンリーからプレジェントもらたみたいでうれしー。あいがと」
「っとんでもございませんっ！ あくまで代行でございます！」
珍しくシンリーが顔を赤らめて狼狽えている。
シンリーはレティシアの乳母だが、とても綺麗なメイドだ。
濃い紺色の髪をいつも団子頭で後頭部に纏めていて、瞳はグレー。いつもお婆ちゃんがかける様な小さな丸打ち眼鏡を掛けていて、ぱっと見は厳格な雰囲気。
しかし物腰は柔らかく、微笑んだ時の顔は聖母の様な優しい眼差し。皺のない白い肌はまだまだ若さを感じさせる。
（うんうん、普段は冷静な美人メイドが、珍しく恥じらう姿は至福やねー）
エロ親父の様な感想を抱きつつ、早速受け取ったプレゼントのリボンを解いて箱を開けた。
「わー！かわいいおはなのネックリェシュ！」
中に入っていたのは、シルバーの小さな花が精巧にデザインされた、シンプルだがとても美しいネックレス。
花の中心にはエメラルド色に輝く石が埋め込まれている。
可愛らしいが、まあ何というか。お高そうなお品なのは一発で分かる。
「これお……このおはな、なんてなまえ？」
これおいくらですか？と言いかけて慌てて言い換えた。
中身を確認したシンリーは僅かに目を見開いて感嘆の声をあげた。
「これは……。とても精巧に作られたストロングカレイドの花ですね」
「すとろんぐかりぇいど？」
「はい。アームストロング領土のごく一部にしか生息しない、魔力を花弁に宿すという珍しいお花でございます。アームストロング公爵家の家紋にも施される程に大変貴重な花です」
「お、おおぅ…」
案の定、高貴なお花でした。という事は、光輝くこの石は……。
「しかもこの花芯に埋め込まれている緑玉は…これは凄い……あ、いえ。とても綺麗な魔法石ですね」（ニコリ）
（はい、アームストロング公爵の人間しか付けてはならないっていう、よくあるやつですねー！ 両親の愛をヒシヒシと感じますよー！！）
「う、うん。あとでおとーたまとおかーたまにあいがというね。あ、そうだっ！ シンリー、いまこのネックリェシュつけてみたい！」
もしかしたら今日帰ってくるかもしれない。ネックレスを身に付けて出迎えたら大いに喜んでくれる事だろう。
それにこう言えば誰かが手鏡を持ってきてくれる筈。そうすれば自分の姿を今すぐ確認出来て一石二鳥だ。
「はい、では私めが着けさせて頂きますね」
シンリーは自分の後ろに控えているメイドに目配せすると、恭しくネックレスを箱から取り出して、他のメイドがレティシアの髪を軽く纏めて上にあげている間に首元にネックレスを取り付けた。
「あいがとシンリー。ね、かがみでみてみたい！」
「はい、勿論でございます」
ガラガラと音がする。音のする方を見ると、車輪の付いた大きな姿鏡が運ばれてくる所だった。流石公爵家の使用人達、仕事が速い。
そして鏡がデカい。
