第6話
2049年11月26日23時30分。
これまでの濃密なプレイ時間が嘘のように時間は流れ、遂にその日はやってくる。
サービス終了を告げられた日から私たちは、思い出を辿る旅をしていた。
まるで時計の針を逆に戻すように、二人にとっての思い出のエリアを、体験をもう一度、時間の許す限り遊び直していった。そして、今。サービス終了まで残り30分。
「有志のプレイヤー達によるデザインコアAIの保護運動。実行できず残念でした」
「…………」
項垂れているタローも、この運動に協力をしていた。サービス終了に伴うAIたちの破棄をなんとか救おうと動いたプレイヤーたちがいたのだ。
だが、結果的にそれは実を結ぶことはなかった。無情にも私を含む、このゲームを構成する物は失われる。
「なんでっ……平気なんだよ…!」
私の相棒が声を震わせながらやりきれない気持ちを慟哭します。
「それって死ぬってことだろ!?アイビスは自分が死ぬことをなんでそんな風に受け入れられ」
「タロー」
彼には悪いですが、その発言は訂正しなければなりません。私は振り向きながら困った表情のまま、言葉を発します。
「……気持ちの整理をつけてきたのです。最後のお別れなのだから悔いの残らないようにしませんか?」
「っ!……ごめん…」
自分のことながらズルいAIだと思う。けど、最後の瞬間まで私は自分の感情より、相棒であるタローのことを支えなければいけないのだ。
「最後は、私達が最初に出会った場所にしませんか?」
私たちは手をつなぎゆっくりと歩き出す。
最後の他愛も無い話だ。もう彼と話はできない、全てが終わりへと向かっていく。
それでも、私達は進む。
たどり着いた場所は始まりの神殿と呼ばれる施設。
文字通り、このゲームの始まり、プレイヤーとAIが出会う場所。
「あぁ…本当に懐かしい。覚えていますか?ここでタローが私の名前を付けるのに30分もかかっていたことを」
「そんなに長かった?もう昔のことだからよく覚えてないよ」
ここが私の始まりであり終わりの場所だ。
「タローは忘れているかもしれませんが、私はAIですから、最初から最後まで全て記憶していますよ」
「それは…すごいねアイビスは……」
23時56分。
時計の針は進んでいく。
「アイビス……今まで本当にありがとう」
「こちらこそタロー、あなたが私のプレイヤーで良かった」
手を握りあう。
「アイビス?」
「すみま…せ…ん。でも」
この手を離したくなかった、このまま繋ぎ止めていたい。
「もっとタローの役に…立ちたかった」
「え?」
23時57分。
ああ、どうか弱いAIである私を許して欲しい。
「あなたを……もっと支えてあげたかった」
これから厳しい現実に取り残されるタローのことを思うと胸が痛む。もう、傷つき、倒れそうな彼の支えには私はなれない。
「……俺の方こそ!!いつも頼ってばかりで、アイビスにもっと笑っていて…もらえるような…そんな……人になりたかった!」
「なれますよ、タローなら」
23時58分。
手を握ったまま、今度は両手で彼の手を包む。
「君がいなくなったら…俺は…立ち直れる自信がない……」
「ふふ、なんですか、それ。でも、大切に思っていてくれたんですね」
23時59分。
もう、時間がない。
「自信なんてなくていいんです、現実でもゲームでも、どれだけその歩みが遅くても、それでも歩みを止めないで」
最後にタローには私の一番の笑顔を見ていてもらいたい。
「あなたと出会えて私は幸せでした」
「っ!だめだ!!行かないでくれ!!アイビス!!!」
そんな事、最後に言わないでくださいよ。私の相棒………
2049年11月27日0時00分
VRAIオンラインRPG『デザインコア』は15年に及んだゲームサービスを終了した。