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第5話

2047年6月3日9時11分。


次にゲームが起動して、私が目覚めた時。その時間が1年以上経過していたという事実に私は驚いた。


(日時に異常は……ない。それどころか溜まっていた期間の膨大な情報が次々と……)


1年間のお知らせのメッセージや、ゲームの小規模なアップデートが更新されていき、しばらく私は身動きが取れなかった。

更新がようやく終わり、私は通常通り目を開ける。

そこには私の相棒であるタローがいた。変わらないアバターの姿の彼が。


「や、やあ。アイビス、久しぶりだね」


姿は変わっていないが、直感で彼に何かが合ったことを理解する。

何があったのか?と聞こうとして口を開きかけるが、私はそれを途中で止めた。

その代わりに、私は自分の感覚に素直に従い、彼へと駆け寄り、力いっぱい抱きしめる。


「あ、え」

「………また、会えて嬉しいですタロー」


こんな行為をするのはこれまでの長いプレイ時間の中でも始めてのことだった。でも、彼にこうしてあげたいと理屈でもなんでもなく私は思った。

しばらく私に包容されるがままだった彼だったが、ゆっくりと私を抱き返し、そして、安心したかのように顔を歪めて、言葉を発し始めた。


「頑張った……頑張ったんだよ。でも、毎日毎日ボロボロで、それでも働き続けて……気づいたら、病院のベッドの上で……それからは、もうッ、無理でッ」

「ええ、大丈夫。大丈夫です」


気づけばタローは泣いていた。

初めて彼が泣いているところを見たという情報を認識したけれども、何も嬉しくなどなかった。


「どうすればッ、良かったのかな……ごめん、ごめんッ…しばらく、何もする気にならず…僕は君のことも……」

「気にしてません。私はあなたに会えるだけで嬉しいのです……よく頑張りましたね」


その言葉が決め手だった。

もう、大人になったはずの彼は、子供のように泣き続けた。

きっと現実ではすることが出来なかったその姿も、このゲームの中なら、私の前なら気にしないでいい。

けど、その一方で私にはただ、彼を抱きしめ続けることしか出来ない自分を悔しく思うのだった。



2049年5月24日10時00分。


タローが現実から逃れるように、デザインコアのゲーム世界へと戻ってきてからもうすぐ2年が過ぎようとしていた。


「おや、運営から久しぶりにお知らせがありましたよタロー」

「どうせ、何度目か分からない復刻イベントのお知らせとかだろう……流石にこのゲームもプレイ人口減ったから」


この2年近くの時間は、彼の心の傷を少しずつ癒していった。だが、現実は厳しいようで、未だ彼は社会復帰の途中にいる。


私は時折、自分の相反する考えに悩まされる。

彼のことを思えばもう一度、現実で立ち直り進んで行くことを応援しなければならない。しかし、その一方で、このままずっとゲームの中に私の傍にいて欲しいなどと浅はかに思ってしまうのだ。


「………え」

「どうしたの?アイビス」


だから、私は運営から届いたお知らせを確認して思考が止まってしまう。

私の浅はかな考えをあざ笑うかのように、このゲームの世界も現実の一部に過ぎない事実を突きつけられた。


「あと半年後の、2049年11月27日0時00分をもって、デザインコアはサービスを終了する……とのことです」

「…………うそだ」


あまりにも突然、終わりの日はやってくる。

私たちはその事実に呆然とするしかなかった。


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