第4話
そして、それから、月日は流れる。
「志望校の合格おめでとうございますタロー。え?第1志望ではないとは?……ふむ、それはリトライ出来ないのですか?……次の挑戦までに、蘇生時間が1年間くらいかかるようなものと。なるほど……」
「単位を落としてヤバい?ヤバいとはどういうことでしょうか?え?夏休みが補習でゲームをする時間が削られる?何をしているのですかタロー」
「バイトとゲームと勉強で無理をして体を壊した?タロー……どうか体をご自愛ください。最高のパフォーマンスを出すためには休息も必要ですよ?」
「就職先が中々決まらない?そうなるとどうなるのですか?……卒業後にジョブが無い、それはどういう役職になるのですか?……無職」
「無事に就職先が決まって良かったですねタロー。現実でも頑張ってください、応援してますよ」
2046年4月28日23時05分。
その日、ゲームにログインしてきた彼を見た時に私は嫌な予感を感じた。
AIである私は、そのような不確実な思考を抱くはずはないのだが、これまでに感じたことのない違和感を覚えた。
「大丈夫ですか?タロー?何か……元気が無いように見えますが」
「ああ、大丈夫だよアイビス。ちょっと思ってたより働くのって大変だなって思ってね……」
ゲームのアバターでも分かるほど、彼の表情はぎこちないものだった。
「現実で何かあったんですか?」
「うん……まだまだ入社して直ぐだから、自分がミスして怒られてもしょうがないとは思うんだけどね。結構、辛くてね。ちょっとこれからが不安になったのかも」
なるほど、彼は失敗して落ち込んでいるというわけですね。
「大丈夫ですよタロー。あなたは素晴らしい人です。ずっと傍で見てきた私が保証します。あなたの頑張りはきっと報われますよ」
「……ほんと、ありがとう。結構メンタルやられてたのかも。いつもアイビスには助かってるよ」
現実での彼の苦労の全てを私は理解することはできない。情報として知ることは出来ても、それを体験することは不可能だから。
なら、少しでもこのゲームで彼が気分転換出来るように、楽しめるように傍にいよう。
「あ、ごめん。先に言っておくよ。またゲーム遊べる時間取れなくなるかもしれないから……」
「えぇ、大丈夫ですよ。また、タローが来てくれるのをお待ちしています。さて、今日は何をしましょうか?」
少し、無理やりだったかもしれないが彼の発言を途中で遮り、私は彼の手を取り引っ張っていく。
次に、いつ会えるのか。そんなことは今に始まったことではない。タローの現実を私が体験できないように、彼も私の体験をすることが出来ないだろう。
私達AIはあなた達プレイヤーが来るまで眠りについている。
ゲームが終わり目をつむり、意識が途切れた後、再び目覚めると、そこにはまたゲームを始めたあなたがいるのだ。
でも、それを嫌だと思ったことはない。そういう風に作られたし、私の相棒と共に過ごせればそれで私は幸せだったから。