第2話
2040年7月20日10時00分。
タローとゲームをプレイし始めてから3ヶ月目。
季節は夏。私達は港町の拠点に滞在していました。
「おや。タロー、イベントのお知らせがどうやらきたようですね」
「そうなんだ。どんなイベントなの?」
その時、我々AIに運営から情報が更新されました。ゲームに関する情報など、何かお知らせがあれば我々にも届くようになっているのです。
「どうやら、デザインコアの毎年恒例、夏イベントのようですね。イベント期間限定の島が用意され、そこのエリアでストーリーが進むようです」
更新された情報を処理し、タローに概要を説明します。
デザインコアがリリースされて、すでに5年目ということで既存のプレイヤーにとっては恒例となっているようですね。
「へー面白そう!夏休みで時間あるし、ガッツリやれそう。もらえる報酬とか情報もある?」
「まだ一部の情報だけ解禁されてます。特別な装備や衣装などが手に入るようですよ」
毎年行われている夏イベントですが、イベントの中身については年によって結構違いがあるようですね。昨年度はエリアが山で、ホラー的な要素もあったとのこと。
「ん?装備は分かるけど衣装?」
「はい、プレイヤーや我々AI用の水着衣装などが報酬に入っているとのことですよ」
今回の夏イベントはエリアが島ということもあり、それ用の衣装ということでしょう。
ステータスに影響せず、本当に見た目だけの変化しかありませんが、プレイヤーは欲しがるのでしょうか?確かに、見た目を変える衣装は通常のショップなどでは種類が少ないため、貴重といえば貴重ですが。
「水着………アイビス!それは頑張らないといけないな!」
「?そうですね」
私のプレイヤーであるタローは、イベント報酬の水着にやる気を出しているようですが、AIである私にはいまいち理解できませんでした。
2040年12月24日20時40分。
タローと過ごして初めてのクリスマスイベントに参加しています。
クリスマスの特別会場エリアがオープンされ、私達の他にも大勢のプレイヤー、AIが集まり、祭りを楽しんでいます。ですが、
「はぁ……クリスマスなのに、俺は彼女もいないでゲームかぁ」
タローは初めこそ楽しんでいたものの、現実の自分の状況を思い出したのか、項垂れています。
「クリスマスというイベントは理解していますが、別にいいのではないですか?楽しむことが出来れば」
「それはそうなんだけどさー、はぁアイビスには分からないよなぁ。このモヤモヤした気持ちは」
なんでしょう。中々複雑な感情をタローは抱いているようで、確かにAIである私には彼の悩みを完全に理解は出来ないのかもしれません。
「お聞きしますが、タローは彼女がいてクリスマスに何をしたかったのですか?」
「そりゃあ。デートして遊んだり、綺麗なイルミネーション見たり、あとは……き、キスしたり」
なるほど、具体的な情報が与えられると、やはりAIである私には理解しやすくなります。
このゲーム内でしか存在していない私と違い、ゲームと現実という二つの世界に存在しているタローはきっと受け取る情報、刺激が多いのでしょう。
「けれども、タローは既に私とデートしているのでは?」
「いやいやいや!アイビスはAIだし、これは一緒に遊んでいるだけだから!デートじゃないっていうか!!」
はぁ、そういうものなのですか。私の情報とタローの認識とでは齟齬が生じていますが、私のプレイヤーである彼の意見を尊重しましょう。
「そうですか…キスというのも経験してみたかったのですが残念です」
「え……」
困りました。タローに元気になって欲しいものですが、いったいどうすればいいのか……おや、どうしました?タロー?急に手を掴んで。
「続き!一緒にクリスマスイベント楽しもう!!」
「?ええ、勿論それはかまいませんが」
落ち込んでいたと思っていたのですが、急に彼は元気になって、私を引っ張っていきます。やはり、まだまだ人間は不思議です。




