詩について
僕の一番古い記憶は一歳半ごろになる。立ち上がってフェンスに掴まり数歩だけ歩いた事だ。
地面を這っている僕が立ちあがるためには、まず飛び上がる様に体を上に投げ出す必要があり、その落ちる前に手で何かを掴まなければならない。掴み損ねればバランスを崩して転ぶだろう。
その瞬間、先に言葉があった訳ではないから、およそ衝動的な欲求でそうしたのだとしか言いようがない。僕が言葉と全く無縁であったとは断言できないけれども、言葉は僕の周囲を公転する何かであり、フェンスよりもずっと後で掴む事になるであろう影でしかなかった。
詩がおよそ言葉の全てを包含するものだとすれば、その前段階である言葉のない世界には全ての詩が在る。あるいは逆に言葉が尽きた後の死後には一つに収斂した完全な詩がある事だろう。でもそれを詩だと認識できるのはいつも詩が生まれる瞬間か消える瞬間だけなのだ。