#7
目が覚めると俺はベッドで寝ていた。
時刻は12時少し過ぎ。大寝坊だな。
今から学校行くのも気が引けるので今日は学校を休もう。
そう思ったら何だか頭が痛い気が…
「痛ってえ!」
とんでもない頭痛。いや、これは頭痛と言えば頭痛だけど、頭の内側ではなく外側が痛い。
何だこれは、寝てる間にできるような怪我じゃないぞ。
…待てよ。そうだ。
俺は妹と散歩に行って、家に帰ったらお姉ちゃんがいたんだ。それから…たしかお姉ちゃんに告白して…
いや?そんな事あるわけないか。
流石に夢かな。
夢?あれ、これ全部夢だったかな?そう言えば俺は夢から覚めるために夢の中で寝たんじゃなかったっけ。そうだそうだ。絶対そうだった。さっきまでのは全部夢だ。そうでなきゃあんなこと起きるわけ…
俺は1枚の書き置きを発見する。
置き、というか、それは壁に画鋲で留まっていた。
起きたらリビングに来てください。 雪菜
名前だけだとどっちの雪菜かわかんねえじゃん。字が綺麗だし姉の方だろうか。
あれ?
いやいや、そうじゃなくて!
画鋲!?
何で画鋲で留まってんだ!?テープでいいだろテープで!
俺の部屋の純白の壁に、まさかこんなどうでもいい理由で穴が開けられるとは思わなかった。
姉はおっとりしていそうに見えて意外に大胆な性格をしているようだ。
すっかり目が覚めた。
ベッドから体を起こす。
「守ってやれなくてごめん。お前の仇は俺がきっと討つからな。」
そう言って俺は壁から優しく画鋲を抜いてやった。
許せない。俺の部屋の壁に酷いことしやがって。
俺はドタバタと階段を降りて、リビングのドアを勢いよく開けた。
中には姉が一人だけだった。
「元気そうで安心した。びっくりしたよー。晴君気絶しちゃってさ。私、人が気絶するの見たの初めてかも。」
顔色はだいぶ良くなっている。テレビで昼のニュースを見ていたようだ。どうやら姉には手段①が使えるな、とそうじゃなかった。
俺は姉を睨む。俺の壁になんてことしてくれたんだ。
姉はキョトンとしている。しらばっくれても無駄だ。
「あのメモは姉ちゃんが書いたの?」
「そうだよ。よく分かったね。」
「字が綺麗だったから…そうかなって思って」
俺はポケットの画鋲を取り出す。
「これのことなんだけどさ…」
「それは雪菜がやった。」
いつの間にか背後に妹が立っていた。
「起きたら見て欲しいメモを部屋の外に置いても意味ないでしょ?バカなの?」
あのメモは元々あそこに留まっていたわけではないのか。やっぱり姉ちゃんがあんなことするわけないよな。
妹の判断は途中までは正しかったんだけど…
何で画鋲を使っちゃったかな。
「人にバカとか言わないの。」
「馴れ馴れしくしないでよ。あんたがお姉ちゃんなんて、雪菜認めないから。」
妹の態度は相変わらずだった。
「そうだ、紹介するよ。こいつが俺の妹の雪菜。中学二年生。」
「うん。さっき聞いた。名前、私と一緒なんだってね。」
俺が寝ていた間に姉妹でも話していたらしい。
「あ、でも中学二年生っていうのは初めて聞いた。じゃあ二人は…2歳差か、私たちの方が近いね。」
「ん?えっと、まあ時期によってはそうかな、今は3歳差だけど。」
「3歳差?晴君って1月生まれよね?雪菜ちゃんがそれより誕生日が遅いとしてもそれはおかしいんじゃない?」
「そうかな?俺が1月生まれで妹は8月生まれ、今俺が高二で16歳だから…」
「え、高二?晴君って高校二年生なの?一年生じゃなくて?」
「うん。そうだよ。姉ちゃんこそ高三だよね?」
「私は…二年生だよ。」
「…!!」
俺が二年だからその姉は三年なんだとばかり思っていた。
違っていたのは家族構成だけでは無かった。時間もズレていたのか。
「姉ちゃん、今何年の何月だと思う?」
「2021年の4月19日。」
「残念、正解は2022年の4月25日です。」
「んー。まあ実のところ察してはいたんだけどね。」
ヒントは至る所にあったのだろう。さっきニュース見てたしな。
「そっかー。私たち同級生かー。弟と同級生なんて何だか変な気持ち。」
俺にとっては姉がいるのも変な気持ちなんだけど。
「ところで姉ちゃんは何月生まれなの?」
「私も8月だよ。雪菜ちゃんと一緒。日付も一緒かな、多分。」
二人の雪菜は家族的役割は違えど、それ以外は同一人物ということなのだろうか。
妹も、もし姉として生まれていたら今の姉のようになったのだろうか。
今の二人は似ても似つかないけど。
いや、よく見たら顔は結構似てるな。