#6
姉の方の雪菜がいた。
靴を履いたまま玄関に仰向けで倒れ込んでいる。
天井を向いた虚な目が俺の方を見た。
早すぎる帰宅やその目から大体の状況は察せてしまう。
要は、アナザーディメンションに迷い込んだのは俺たちではなく姉の方だった、ということだろう。
まだ確証はないけど、今までのことはこれで全て説明がつく。
俺たちの当たり前が、姉にとっての当たり前では無かった。
もう不審者なんて言葉は微塵も出てこない。
今の姉の様子は痛々しくて、なんていうか、とてもかわいそうだった。
さっきまでそばにいた妹は何処かに行ってしまったが、今は目の前の問題が先だ。
俺は一歩家の中に入る。
「ただいま、お姉ちゃん。早かったね。」
「晴君…も私のこと覚えてないのよね。おかえりなさい。」
覚えてない、その言葉から姉がどんな体験をしたのかが伝わってくる。考えたくもない。
「お姉ちゃん、ごめん。僕、その…朝は気が動転してて…」
「ありがとう…晴君は優しいのね。無理してお姉ちゃんって呼ばなくてもいいのに…」
俺を見ていた目がまた何処かへ行ってしまう。
「無理なんてしてない!お姉ちゃんはお姉ちゃんだ!僕はお姉ちゃんの味方だから!」
あれ?俺は何でこんなこと言ってんだ。だって、目の前の女は誰とも知れない他人じゃないか。
「ありがとう。ありがとう。」
女の目から涙が溢れる。
なんだか俺も胸が一杯になって涙が出てきてしまった。どうして俺はこんな気持ちになっているんだろう。分からない。分からない…けど、俺はこの人を放っておけない。
体の制御が効かなかった。
「俺…好きだ。姉ちゃんの事が…好きだ!」
「えっ?」「いい加減にしろー!!」
「ぐはっ」
背後からに強い衝撃を受けた。
体のバランスを崩される。
まずい!倒れるぞ!
俺は咄嗟に姉を避ける。
ゴンッ
俺は妹のジャンプキックを受けて(それが原因で倒れた拍子に頭を強く打って)気絶した。