#3
妹の方の雪菜がいた。
「誰って、雪菜…だけど」
その雑な返事、兄を見る目、まさしく俺の妹の雪菜だ。
居なくなってしまった、もう二度と会えないのかと思っていた妹の姿。
俺はあまりの嬉しさに、思わず目の前の妹を抱きしめた。
「雪菜、お前…本当に良かった!」
「やてめよ晴人!離して!」
「嫌だ!もう絶対に離さない!もう絶対にお前のこといらないなんて言わない!」
腕の中でもがく妹の身体を俺は更に強く抱きしめた。絶対に離さないように。もう二度とどこかへ行ってしまわないように。
「いい加減にして!雪菜どこにも行ってないし!」
俺の腕は力づくで解かれ、そのまま部屋の中へ突き飛ばされた。
「ぐはっ」
「もう!なんなの!」
妹は涙目になっていた。
良かった。妹は消えてない。
妹のいつも通りの姿にこんなに救われるなんて思わなかった。本当に居てくれてありがとう。心の底からそう思った。
妹は不安そうな顔で俺を見ている。
急に冷静になった。何やってんだ俺は。
ゆっくりと立ち上がる。
「ごめん。俺に用があるんだよな。」
「うん。えっと…あれは、何なの?」
雪菜は恐る恐る訊いてきた。
「あれってお姉ちゃんのことだよな。」
妹はキョトンとしている。
「お姉ちゃん?雪菜たちにお姉ちゃんなんて居ないでしょ?」
「うん。でもさ、あの人が自分でそう言ったんだよ」
お姉ちゃん、居ない筈のもう1人の家族。
俺だって信じられないけど、あれはとても演技って感じでもなかった。
完全に、自分が姉だということを信じて疑わない、そんな感じ。
だとしたら、あいつはいったい何者なんだ?
俺は妹に朝起きてから起きたことを話した。
「雪菜…ってあの人が自分でそう名乗ったの?」
「うん。まあ、正確には違うんだけど。」
あれは、彼女の名前が雪菜だってことだと捉えるしかないよな。
「そっか。でも、晴人の言う自分がアナザーディメンションに迷い込んだんじゃないかっていうのは違うと思う。」
「そうも言い切れなくないか?俺たちが2人で別次元に飛ばされたという可能性だってあるだろう?」
あと、俺はそんなかっこいい言い方はしていない。
「いや、それもないと思う。着いてきて。」
妹はそう言うと俺を自分の部屋へと招いた。
妹の部屋に入った記憶は殆ど無いが、ドアが開いているときに中が見えるから中の様子は知っている。
部屋の中に特別な違和感は無かった。俺の知っている通り、というか本当にそのまま。
拍子抜けするくらい。
「これ見てよ」
妹は机の上から一冊の本を手に取る。
本、というか教科書。中学校の教科書だった。