#1
俺は妹が好きだ。
妹は良い。兄にデレデレな妹もツンデレな妹も、義理の妹も全部好きだ。古今東西全ての妹を愛していると言ってもいい。
いや、愛している。
ただ、一人例外がいる。俺の妹。妄想とかじゃなくて本当の、ちゃんと血のつながった妹。あいつだけは天地がひっくり返ろうとも好きになったりしない。バカで生意気で、俺のことなんかちっとも慕っていない。運動は俺よりもできるようだがそれもなんか腹立つ。遊びに来た友達がかわいいとか言っていたけど、俺はちっともそんなこと思ったことがない。あいつと恋愛なんていうのは絶対に無理だ。生理的に受け付けない。本能があれを拒絶する。
つまり、妹キャラクターは大好きなのに、実際の妹だけ全然好きになれない。
「かわいい妹に起こされたいなー」
なんて言える訳もなく、(家族に聞かれたらどうするんだ)
俺は静かにベッドから起き上がると顔を洗ってダイニングに向かった。
もっと頭が良くて、めちゃくちゃかわいくて、俺のことが大好きな妹がいたなら…。そうしたら、絶対に大切にするのに。なんでもしてやるのに。なんであんな…。
いや、違うな。そもそも俺みたいな兄を好きになってくれる妹なんて居ない。前提が間違っていた。
ならばせめて、妹なんかいない方が良かった。妹の存在は幻想のままが良かった。
妹は2次元の中に居ればいい。俺の心の中に居ればいい。
そんなことを思っていた。あの時までは…
「晴君、おはよう。」
ダイニングには知らない女がいた。年は俺とほぼ変わらないくらい。俺の高校の制服を着て、テーブルでパンとヨーグルトを食べていた。
俺の名前を知っている?学校では見たことがないけど、俺も学校の人間全員を把握している訳じゃない。
誰かの友達か?
しかし、俺に何か用があるとしてもこんな訪問の仕方は普通じゃない。
「お前、誰だよ」
女は不思議そうな顔をしている。
やっぱり誰かの知り合いだろうか。それとも俺が忘れているだけで以前会ったことがあるのか。
「お姉ちゃんのこと忘れちゃった?」
「…?」
お姉ちゃん、確かに女はそう言った。
お姉ちゃんなんて…そんなもの俺には居ない。居るわけない。俺に居るのは…
「父さんと母さんはどこだ。」
「今日月曜日だから2人とももう家出たよ。いつもそうでしょう?それも忘れちゃったの?」
そういえばそうだった。
いやいや、そうじゃない。
なんでこの女がうちの事情を知っているのだ。
「じゃあ雪奈はどこだ。」
女のパンを食べる手が止まる。
父さんと母さんは居ないがこの時間ならまだあいつは、妹は家に居る筈だ。
そしていつもなら今この女の座っている席に座って…朝飯を…
女は少し恥ずかしそうに笑うと言った。
「雪菜って…私のこと?いつもはお姉ちゃんって呼ぶじゃない。今日は本当にどうしたの?」
どういう…ことだ?
雪菜は俺の妹の筈だ。
確かにいらないとか言っちゃったりもしたけど、だからってそんなことある訳が…。
「そうじゃ…なくて…妹の…」
「妹…?今朝は妹の夢を見たの?」
そうか、それを聞いて確信した。
「ごめんなさいお姉ちゃん。僕、もう一回寝てくる。」
そう言うと俺は自分の部屋へ逃げ帰った。
妹は姉になっていた。