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駄能力研究部  作者: ローリング・J・K
駄能力研究部
2/24

台風の様な少女

「つまりだ。自分同士でジャンケンすれば良かったんだよ。」



昨夕の事件から一日が経ち、ボロボロだった校舎もどこかの修復系能力者が完全に修復していた。


昨日と変わらぬ教室に俺たちはまたダラダラと居座っていた。

ずり落ちたメガネを指で持ち上げながらコウジはつらつらと喋る。



「自分の両手でジャンケンをすれば、

どの組み合わせでも必ず自分が勝って、

必ず自分が負ける。アイコじゃなければね」



コウジは自身の両手でグーとチョキを表した。



「使用条件には『チョキにグーを出して負ける』としか指定されていなかった。

同時に勝っていたとしても、

同時に負けていれば条件を満たせたんだ。」



「なるほどな〜!

という事は俺の能力は矛盾条件じゃ無かったってわけか!?」


「そういうこと」


「でも俺、あの時ジャンケンなんかしてなかったぞ?あの()を掴んでて両手も塞がってたし...」



「...あの時だ。」



俺はハッと思い出した。


しばらく俺たちと不毛なジャンケン八百長を繰り返した羽柴は、半ば諦めた様子で自分の両手でグーとチョキを作って不貞腐れていた。



「あの瞬間、羽柴の能力の使用条件は満たされたんだ!」


「マジか!あの時1人ジャンケンしてなかったら死んでたのか...」



羽柴は少し青ざめて自分の軽率な行動に恐怖したが、その表情はすぐに疑問に変わった。


「でも、条件満たしてから随分とスパンが空いて発動したんだな。使用条件って時間経過でリセットされないのか?」


「いや、僕の能力の使用条件は『身長が182cmを越えている時』で自動発動だから分からないけど...」


「神楽はどうだ?」とコウジは俺に向き直った。



「...そうだな。

そう言われてみれば、俺も心の中で何となく『カタヒラレイコ』って呟いてしばらくしてからダンボール触ったら、いきなりパカッ!と箱が開いて小便漏らしたことはあったな。」


「なるほど。恐らく僕が考えるに、使用条件は満たされてから発動までの間は、永久に使用権は消えないんだろうな。」


「あーなるほどな!

条件を満たすとチケットが貰えて、発動すると切符が切られるって感じか!」



羽柴の例えは言い得て妙で分かりやすく、長年能力を使ってきた俺も、今まで言語化できなかった能力の仕様が改めて理解できた。


「そういう事か。」



その時、教室に1人の人間が飛び込んできた。

デジャブかと思ったが、昨日と違うのは、それがオッサンではなく女の子だった事だ。



「あ、どうも羽柴くん、昨日は本当にありがとうございました!!」



見るとそれは昨日空から落ちてきた少女だった。

少し茶髪がかったロングヘアーで、顔つきやその猫背から、何となくおっちょこちょいなんだな。とわかる。



「ああ、藤井さん!いやーあはは当たり前のことをしたまでですよ!」


「いえいえ!ズボンがびちゃびちゃになってたし、凄く怖かったと思います!

それなのに助けて頂いて、本当にありがとうございました!!」


「さっきから股間の緩いやつが多い」

「だから今日体操服なのか」


「やめろぉぉおおおおお!!!」


「お礼にこれ、あげます!!」


羽柴が受け取った紙袋の中には由緒正しき感じの最中が詰まっていた。

こういう事が無ければ一生食べなかっただろうな。


「おー!美味そー!サンキュー!!」

「じゃあ俺はこの抹茶だな。」

「僕はこしあんにしとこう。」


「何でおめぇらが食おうとしてんだよ!!」


「いや、だって僕達がジャンケン手伝わなかったら能力出なかったし。」

「死んでたし。」


「え、ああ、確かに...」



「それで、藤井さんは昨日どうしてあんなことになったんだい?」

コウジは五つのこしあん最中をポケットに突っ込んで訊ねた。


「ああ、それはこの子が...」


藤井さんは背負っていたリュックサックをよいしょと下ろした。


そのリュックサックにはドーム状の透明なカバーが前面に付いていた。

よく犬などを入れて運ぶ時に使うリュックだ。

しかし中には何も入っていない。

先程からビュービューと風切り音は鳴っているが。


彼女がカバンを開くと、そこからいきなり竜巻の渦が現れた。形こそ見えないが、周囲から巻き上げたプリントや筆記用具がその姿を擬似的に表している。



「この子が機嫌を悪くしちゃって」


「...この子?この竜巻...生きてんのか?」



俺がじっとその渦を見つめると、流れるプリント類の回転軸が傾いて表情を現したように見えた。



「はい、と言うかなんというか。

私の特殊効果は風を育てられる能力なんです。」



「風を...育てる?」


「はい、そこら辺に吹く風を巻き上げて、火を食べさせたり、高気圧と低気圧の狭間に置いてあげたりして育てるんです。」


竜巻はコクコクと頷くように渦を動かした。


「マジか...竜巻出す能力だとは聞いてたが、まさか育てる能力だったとは...」


「あまりにも大きくなっちゃったので、明日から火の食べ過ぎは控えようね。って言ったら怒っちゃって」


「はーそれでその風で吹き飛ばされたと...」


「はい、流石にやり過ぎたって反省してダイエットしてくれたんですけどね」



「なるほど。それにしても風が意志を持っているとは興味深いね。

ちなみに彼は...いや彼女?はオスメスどっちなんだい?」


「ちょっと聞いてみます。ふむふむ。ふむふむ。なるほどなるほど。」


「風の声まで聞けるのか!?」



「『今の時代、性別で人を判断するのは間違っていると思います。

私が風だから差別しているのですか?

もう少し広い視野の言動を心がけるようにお願いします。』らしいです。」



「めんどくせえ性格してるな」

「こりゃすぐ機嫌損ねるわ」



「でもちゃんとこの子を気遣って、丁寧に育てるといいこともあるんですよ?」


「例えばほら!」と藤井さんは渦の真ん中にダイブした。

するとフワフワと浮いてから空中に腰掛けるようにして安定した。


「こうすると疲れずに移動できるんです!」


「あーなんかたまに浮きながら登校してんな〜とは思ってたけどそういう事か。」

「それが一番機嫌損ねてるんじゃないか?」


「それでは!ありがとうございました〜!

ほら、タツ子!行くよ!」と彼女はそのままぷかぷか浮きながら教室を後にした。


「また大竜巻にならないように願うが...」


この学校生活に色々な不安は抱えつつもとりあえず抹茶味の最中を貪った。


「うめ、うんめっ」

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