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呪いの獣を救出せよ 上

「……計画通りとはいかないながらも、何とかクエストの受注に成功したわけだが、どうしたものか」


 あのペガサスとは互いに別々の牢屋で、俺の手には手錠ががっちりつけられている。おまけに俺の記憶を消そうとする魔術師が来るまでというタイムリミット付き。


 はやくペガサスとコミュニケーションをとりたいところだが、衛兵が見張っているせいで下手な行動ができない。

 とりあえず、好機が訪れるまでは作戦を練りながら使えるものを確認しよう。ここまでの間そういうことを一切してこなかったからな。


 まずは自分のステータスを確認しよう。


名前 ライト

称号 なし

レベル 1

種族 人族(ヒューマン)

職業 契約者

スキル 《友愛》


 特に目新しい情報はないな。この牢屋から脱走するのに有用なものも確認できない。称号は条件を達成したらもらえるらしく、マスクデータである能力ステータスやスキルに補正がかかるそうだが、特にまだ何もやっていない俺は持っていない。


 スキル《鑑定》は持っていないので詳細までは分からないが、衛兵とペガサスのステータスも確認しておこう。ここを抜け出すヒントになるかもしれない。


衛兵 

レベル 30

種族 人族


ペガサス

レベル ××

種族 幻想種


 結論から言うと、全く何の情報も得られなかった。《鑑定》なしだと、相手の種族とレベルしかわからないようだ。

 しかもペガサスについては、レベルすら見れなかった。恐らく鑑定系のスキルから身を守るスキルでもあるのだろう。


「しかし、困ったな。いくら何でも詰んでるぞ……」


 この膠着状態が十分ほど続き、徐々に焦燥感へと変わっていく俺であったがチャンスは唐突に訪れる。


「チュウ?」


 そこに現れたのは一匹のネズミ。どうやら町や施設の中にはモンスターは出ないが野生の動物は沸くらしい。そこは現実と同じにしたのだろうか。

 ただエーリルが言うには犬や猫などの愛玩動物はいないらしいから、もっぱら街の雰囲気づくりに必要な動物だけがいるのだろう。


 現実世界で牢屋の中にネズミが現れようと何も関係ないが、ここはゲーム。何より俺は契約者だ。衛兵にバレないように小声で目の前のネズミに話しかける。


「そこのネズミ、少し話をしないか?」


「何の用だ? 人間」


 契約者や召喚士、調教師などの動物やモンスターと冒険をともにする職業は職業に含まれる特殊能力として、すべての生き物と会話をすることができる。

 

 流石に分かっていてもネズミと喋っているのは少しびっくりするが、今はそんなことに驚いている余裕はない。


「俺と契約しないか? 具体的には、あそこにいる衛兵の持つ鍵を()()とってほしい」


「報酬は? その対価として、そなたは我に何をもたらす?」


 やけに話し方に貫禄があるな。これはひょっとしてあたりを引いたかもしれない。ならばここで渡す対価が大切だな。

 俺は慎重に考える。このネズミは何を求めるのか。考えていく中で俺は一つの疑問を浮かべ、やがて一つの確信を得た。


「なぁネズミ。お前は……いや、お前たちはどうしてこの牢屋にいるんだ? ここはお世辞にも食料が多いとは言えないだろう」


「……それは、我らはここで生まれたからだ。それ以上もそれ以下の理由もない」


 やっぱりそうだ。彼らはここから出ないのではなく、出るという選択肢を知らないのだ。ここで生活できているのならば、わざわざここを出て複雑な廊下を抜けて外に出るリスクを冒す必要性がない。


 ただ、彼らは知らない。ここよりも食料にあふれた世界があることを。


「もしもここよりたくさん食料があって、どれだけ走っても壁にぶつからない世界があるとしたら、お前は行ってみたいか?」


 これは博打だ。もし首を横に振られたらその時点で終わりとなり、俺は記憶を改ざんされペガサスを救うことができない。

 女神との約束――「愛を教えてあげる』ということができなくなる。


 固唾をのんで答えを待つ俺に対し、ネズミは少し笑ったような表情を浮かべた。


「悪くない提案だ。我もこの場所には飽きていたしな。その契約、結んでやろう。ただし我々が地上に出られた段階で契約終了でありそこまでの関係だが、良いな?』


「あぁ。感謝するよ」


「我が名はミストだ。お主は?」


「俺の名前はライト。少しの間だが、よろしく頼む」


《契約完了 鼠族の長ミストが仲間に加わりました》


 こうして契約を交わした俺は、ミストに作戦を伝える。これは彼がネズミの中でも地位が高かったからこそできる作戦だ。


 一連の流れを告げると、ミストは来た道を引き返して巣に向かって行く。それを見届けてから、俺も作戦に移る。

 まずは、衛兵と会話して注意をミストたちから引き離そう。


「見張りの衛兵さん、この黒いペガサスは何故こんなところに囚われているんだ? しかもこのペガサスには変な装置までついているし」


 俺が唐突に話しかけたことにより衛兵は少し驚いた様子を見せたが、すぐに平静を取り戻した。


「どうせもうすぐ記憶を消されるんだから知る必要はないだろ。それよりお前こそどうしてこんなところに来たんだよ。王様にはまっすぐ外に出ろって言われたはずなのにさ」


「俺は……ちょっと好奇心がわいたからさ。マップに書いていない地下室の存在を知ってしまったら、探索したくなるのは無理ないだろ?」


「お前、もしかして俺たちの会話を聞いてたのか? なら、とんだ災難だったな。まぁ別にお前に対しては記憶を消す程度だから余計な危害は加えないから安心しな」


「それはどうも。で、話を戻すがこのペガサスはどうしてここへ? 呪いがどうとか言っていたがどういうことなんだ?」


 俺がしつこく聞くので衛兵は観念したのか、話始めた。


「まぁどうせお前の記憶はもうすぐ消えるし、暇つぶしに教えてやるよ。王家に伝わる言い伝えでな。本来純白であるはずのペガサスが黒く変色した個体は、かかわったものに呪いを与えやがて厄災へと至るからここに幽閉しているんだとよ。殺した者にも呪いを与えるとかで、殺したくても殺せないそうだ」


「その内容だったら、別にもったいぶらずに教えてくれればよかったじゃないか」


「ダメなんだよ。これは王にかかわるものと仕えるものにしか教えられないことで、他言無用なんだと。その理由は俺にもわからんが、国民を混乱させたくないという王の思いなんじゃないか?」


 なるほど。どうやら王へ忠誠を誓っている者や親族にしかこのことを明かしていないのか。それもそうだろうな。だって、このペガサスにからみついている機械は明らかに拘束の域を超えている。

 

 このゴツイ機械はペガサスに絡みついて、()()のような何かを吸い取っているように見える。ただ、王に忠誠を誓ったこの衛兵には拘束具だとしか思えないのだろうか。

 人間は一度バイアスがかかると、物事が歪んで見えるからな。高価なツボを買ってしまったりするのと同じことか。


「なぁ、衛兵さん」


 もう十分情報を得られた。あとは作戦に移るだけだ。視界の端ではミストが準備完了のサインを出している。


 さて、作戦開始だ。


「どうした?」


 衛兵がこちらを向いたその瞬間、彼の背後に忍ばせていたミスト。そして彼が従えるすべてのネズミたちが一斉に彼に近づきよじ登っていく。


「ひぃやああぁぁああああああああああ!!!!」


 それに気が付いた衛兵は絶叫するが時はすでに遅かった。その数、百を超えるネズミの大所帯が一斉に衛兵にとびかかる。彼がネズミ嫌いだということは廊下での会話で知っていたので、効果はてきめんだ。


 純粋な力勝負ではレベル1の俺もネズミも衛兵に勝てっこないが、これはゲームであり現実の世界。攻撃することだけが勝つ方法なわけではない。


「き、気持ち悪……」


 百匹を超えるネズミによじ登られた衛兵は、そんな言葉を残しながら気絶した。あとは仲間の衛兵が戻ってくる前にここを脱出するだけだ。


「ミスト、それにその仲間たちも協力ありがとう」


「別によい。それより、この鍵をここに刺せばよいのだな?」


 ミストはそう言うと丁寧に俺の牢屋と手錠のカギを開放してくれた。俺はようやく自由になったことに喜びを覚えながら、牢屋から出る。そして、牢屋の中に囚われて取り付けられた機械によって苦しめられているペガサスと相対する。


 さてなんと話しかけようかと思っていた俺に対して、ペガサスは弱弱しくも警戒した声でこちらに話しかけた。


「何者ですか。あなたは」


 そこには信じることを知らない、一匹の哀しき獣がいた。



 

もうそろそろ主人公も戦い始めます。

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