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女神さまからの頼み事

「どういうことですか? それにそもそも、女神さまがただのプレイヤーである俺に頼み事って一体……」


 救ってほしいモンスターがいる。と、唐突に言われても困ってしまう。愛の女神エーリルもさすがに言葉が少なかったかと思ったのか、一から詳しい説明を始めた。


「私たち管理AIもとい女神は、この世界を作ってきました。これは設定ではなく事実としてです。この世界は私たちが千年かけて作った本物の世界であり、そこにゲームのプレイヤーである皆様を送り込んでいるのです。しかし、ゲームとしてこの世界が使われ始めた段階で、私たちはこの世界に直接干渉することができなくなりました。そこで皆様プレイヤーに代行してもらい、その報酬を渡す形をとりました。それが緊急クエストです」


 なるほど、要するにこれから俺が受けることであろう様々なクエストは、大本をたどれば女神からの頼みごとのようなものだということか。つまり、今回の頼み事もセーフということなのだろうか?


「いえ、今回のこれは限りなくブラックに近いグレーですね。間接的に緊急クエストという形を使うのでかろうじてセーフなだけで、今目の前で頼み込んでいるこの状況はアウトでしょう」


 いや、ダメなのかい。あと当たり前のように心を読んでくるのは少し心臓に悪いのでやめていただきたい。


「まぁぎりぎり何とかセーフってことは分かったので、その救いたいモンスターの話をしてくれませんか?」


「わかりました……と言いたいところなのですが、おそらく詳しく話しすぎるとグレーがブラックになってしまうので簡単にしか言えないのです。申し訳ありません」


そういうとエーリルは一呼吸おいてから、再び話始める。


「ライトさんに救ってほしいのは一匹の黒いペガサスです。それは、プレイヤーの初期リスポーン地である王城の中のどこかに囚われています。それを助け出してほしいのです」


「……それ、普通に犯罪じゃないですか?」


 俺の純粋な疑問に対して、エーリルは深く頷いた。


「……はい。その通りです。おそらくもし成功すれば、ライトさんは王国から指名手配を出されてしまうでしょう。それでも、助けてほしいのです。理由も事情も何も言えないで、リスクばかりあることは重々承知しています。でも、どうかお願いしたいのです」


 これは非常に難しい判断だ。恐らくサービスから半年たっているとはいえ、初期リスポーン地である王国を拠点としている人は多いはず。つまり、何の情報もないまま孤立することになるのだ。

 いや、孤立は別に構わないが王国を追われることのデメリットは計り知れない。


 無難に行くならこれを断るのが正解だろう。無理してハードモードを行く必要はない。


 ただ、エーリルの言っていた一言が心に引っかかる。それは、愛を教えてあげてほしいという言葉。これはつまり、今まで愛されてこなかったということを表している。

 もちろんすべてが嘘の可能性だってあるが、この愛の女神エーリルがそんなことをするとは思えない。


 それから数分。沈黙が帳を下す真っ白な空間の中で、ライトはついに決断を下した。


「その依頼、引き受けます」


 瞬間、エーリルは溢れんばかりの涙を流した。この姿を見て彼女がAIであるなどとだれにも思えないほど、その感情は紛れもなく本物だった。


 エーリルはそのまましばらく泣きじゃくると、ようやく少し落ち着いたのか冷静になな表情に戻る。


「本当にありがとうございます。今まで頼んできた人たちには全員断られていましたから……。それではまず王城内で檻を見つけてください。そこで初めてフラグが立ったとみなされて、私のほうからクエストを出すことができます」


 そこまで言い終わると、彼女はご武運をと言って部屋から消えてしまった。そして俺の体も光り輝いている。

 どうやらついにゲームが始まるようだ。少し――というか、かなり想定とずれたが非現実を楽しむとしようか。


 

●●●




「……さて、とりあえず転移は完了したみたいだしまずは情報確認だな」


 俺は起き上がってゆっくりと辺りを見渡す。ただ、ここがどこなのかはすでに知ってしまっている。掲示板や攻略サイトを覗けばそのくらいは書いてあって当然だろう。


「しかし、それにしても豪勢な部屋だな。金ぴかすぎて目が痛くなってしまいそうだ」


 俺が転移した先は王城の中にある召喚の間と呼ばれる場所であり、プレイヤーは王国によってここに召喚された勇者というていなのだ。


「おお、またここに一人勇者が召喚されたか。我はアルティエーヌ23世。この国の王である。いまから勇者となるそなたにいくつかの能力を授けようぞ」


 近くにいた魔術師から能力(ステータス確認やセーブ機能など)を授かった後、王様は俺をここに呼んだ理由。言ってしまえば世界観を説明してくれた。

 どうやらこの世界には様々な厄災があるらしく、それの鎮静化をするためにこの国ではそれを治められる特殊な力を持った勇者の召喚陣を設置しているらしい。


 そして願わくばそこに召喚された人には、その任務に協力してほしい。というのが大本の話のようだ。

 ただ強制力はないらしく、他国に行こうと依頼を拒否しようと自由らしい。


 まぁ今から国外追放を言い渡される可能性がある俺にとっては、あまり関係のない話ではあるが。


「それでは行くがよい!」


 国王が声高らかにそういうとギギィという音が鳴り響いて扉が開き、レッドカーペットの敷かれた長い道が見えた。恐らくこれをまっすぐ行けば王城から出て、本当の冒険が始まるのだろう。


 ただ、俺の行き先はそっちではない。


「国王、おなかが痛くなってしまったのでトイレに行きたいのですが、貸してもらえませんか?」


「なぬぅ! ん……、そうだのう」


 国王は何かを悩んでいるのか少し間を開けると、考えがまとまったのか俺に返答した。


「ここの道の曲がり角を右に行ったところにあるので行くがよい。ただし、それ以外の場所に決していくではないぞ」


 すまない王様、それはできない相談だ。と心の中で謝りながら、俺は王様に一礼するとトイレに向かう。だが目的はもちろんトイレではない。


「さて。じゃあ探すとしますか」


 万が一にも王城を巡回している人間に見つかってはいけないので、慎重に廊下を進みながらトイレを通り過ぎていく。

 

「しかし、いったいどこに檻があるっていうんだ?」


 どうやら一度入ったことのある施設はマップが表示できるようになるのか、俺の視界の右端には王城のマップがある。しかし、檻の場所は載っていない。

 召喚の間があるここは三階であるようだが、この階はおろかほかの階にも檻や牢屋などは書かれていない。


 いや、もしかしたらプレイヤーに気付かれないようにマップ非表示になっているエリアがあるのか?

 可能性はある。エーリルの話を聞く限り相当根深い闇がありそうだからな。


 そんなことを考えながらあてもなく廊下を歩くこと数十分。いよいよ気が狂いそうになってきたところに、突然衛兵らしき人間が二人見えた。


 俺は物陰に隠れてやり過ごそうとすると、その二人の会話が聞こえてきた。


「お前今日あそこの担当なんだろ?」


「そうなんだよ。マジで憂鬱だわ」


「呪われないように注意しろよ? まぁ下手なことしなけりゃあ大丈夫だとは思うけどよ」


「あそこ地下にあるから余計に雰囲気あっていやなんだよなぁ。しかもゴキブリとかネズミとか出るらしいし」


「いや、ゴキブリはともかくネズミは耐えられるだろ」


「俺はそういうのが嫌いなんだよ!」


 いったい何の話をしているのかわからないが、この会話を聞いていて一つだけ不可解な点があった。


「このマップには、地下なんて存在しないぞ?」


 そう。この建物は1~5階しかないはずで、地下の情報は書かれていないのだ。

 どうやら、マップに表示されていない場所ということは確実だろう。確か、マップはここに召喚されたときに王国の魔術師から半永久的に授けてもらえた初期能力の一つだったはずだ。


 つまり、王国にとって見られると都合が悪い何かがあるということである。


「行くしかないよな」


 俺は覚悟を決めると、まずは一階を目指す。

 その道中で何回か衛兵に見つかりそうになったが何とか避けて、俺はなんとかたどり着いた。しかし辺りにそれらしきものはない。

 

 地下への階段を探しながらあたりをうろうろしていると、さっきの二人組の衛兵の片方。地下に行く番だといっていた男を見つける。


 そこで彼についていこうと決めた俺は、こそこそと彼の後を追っていく。入り組んだ廊下を進むにつれどんどん暗い雰囲気が醸し出されてきた。

 どうやらこの先のようだ、と思ったその瞬間だった。


 ゴンと鈍い音が鈍い音が響き渡り、俺は倒れる。


「え……」


 初めは何が起こったのか理解できなかった。しかし、その数秒後に理解した。自分が後ろから襲われたということを。


「いくら勇者様とはいえ、王城を勝手にうろつくことは許されないぜ。ましてはここに来るのはご法度だ」


 後ろから聞こえるのは二人組の衛兵の片割れだった。いったいどこから気が付いていたのだろうか。わからないが、そんなことはどうでもいい。


 問題なのは、俺はこの先どうなってしまうのかということだ。


「安心しろ、お前を殺しはしない。ただ、縛って牢屋に入れておくが魔術で記憶を改ざんしたらまた出してやるよ」


 衛兵はそう言うと俺に頑丈な手錠をかけて俺を担ぐと、再び地下へと歩みを進めた。


「まったく、ただでさえいやな当番だっていうのに余計な仕事を増やすなよ……」


「まぁこれでいくらかの手当てがでるだろ。それでパーッと飲みにでも行こうぜ」


「そうだな」


 少しでも情報を得ようと思ったが大した情報を得られずに、地下の牢屋についてしまった。


「おい、こいつをどこにぶち込めばいい?」


「見張っときやすいように()()の隣にでも入れとけばいいだろ」


「わかった。そうするよ」


「じゃあ俺は記憶改ざん魔術が使える人を呼んでくるから、それまでは当番のお前がしっかり見張るんだぞー」


 そう言って二人のうちの一人の衛兵は俺を牢屋の中に入れて地下室から出ていった。じめじめとした環境に臭いにおい、肌寒い気温。明らかによくない衛生環境のその場所をすき好む者はいないだろう。


「はぁ……、どうしようこれ」


 ため息をつきながら、ふと俺は隣の牢屋を見る。そこにいたのは――黒いペガサスだった。それを見つけた瞬間、電子メッセージが俺のもとに届いた。


《緊急クエスト 呪いの獣を救出せよ》推奨レベル??


王城の地下に囚われた黒き獣は、果たして何故囚われ何を思っているのか。それらを調べ事態の真相を暴き、黒き獣を救出してください。


発生条件:黒き獣に出会う〔完了〕

達成条件:黒き獣を救出する〔未完〕


達成報酬:経験値〔1000〕

    :エクストラスキル《愛の女神エーリルの加護》


 その文言と共に目の前に浮かんだのは受注しますか? という言葉と、はい・いいえのボタン。おそらくここでいいえを押せばまだ普通のゲームとしてプレイできるのだろう。


 ただ俺は迷わずはいを押した。なぜなら傷だらけで弱りはてた、今にも泣きそうなこのペガサスを見てしまったからだ。


 





 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊張感あってワクワクします [気になる点] ただの世界観設定セリフかも知れませんが、ゲームなのに記憶弄ることできるのは流石に法的アウト思います。 そして主人公がゲームやっている気楽さ感…
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