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サヨナラには笑顔を添えて

《女神クエスト 災いの邪龍を討伐せよα》 推奨レベル??


村を苦しめる邪龍を討伐し――


発生条件:不明〔完了〕

達成条件:開示不可〔完了〕


クエスト達成により、成功報酬である経験値とアイテム《真実の指輪》を入手しました。


 無事に生贄の人たちを救出した後、地下の居住スペースに戻ってきた俺はこの電子メッセージを見るとガッツポーズをした。


「無事、終わったんだな」


「そうみたいですね。いい結末を迎えられてよかったです」


 確かにその通りだ。もし女神クエストがなかったら、邪龍を倒した時点で村に帰っていた。そうなると、北の村の人たちも生贄の人たちもみんな苦しめられたままだった。

 これで、結果的にすべて救えたのだ。


「レイ、君のおかげという部分が大きいな。ありがとう」


 俺は、居住スペースで合流していたレイに向かって話す。彼女は機械となった左手を感慨深く見つめながら、ゆっくりと口を開いた。


「これはおじさんたちの功績だよ。私がしたことなんて……」


 と、レイはかたくなに卑下するがレイの功績は大きい。何せ、俺たちが戦っていた間に電力供給ブレーカーを破壊してくれたのは彼女なのだから。


「俺たちが親玉を倒して生贄をもとに戻す間に、レイがブレーカーを破壊して警備ロボットを作動不可にする。完璧な作戦だったよ」


 そう。レイのおかげで、白衣の男の奥の手でもある警備ロボットを完全に封じ込められたのだ。もしできていなかったら、最後に逆転されていただろう。


 俺はレイに感謝を告げると北の村の人たちを先導して祠を出た。皆、顔が心なしか笑っている気がする。この笑顔を見れるだけで、今回頑張った甲斐があるというものだ。


 ちなみに生贄にされていた人たちはこの一年間の記憶を消されている。というより、ビオラに頼んで時を戻すときに記憶も戻してもらった。

 人体実験されている記憶なんてないほうがいいからな。


 だから、ダイの姉は何事もなかったかのようにダイと談笑している。それを邪魔するのも悪いので俺は手を振って別れを告げた。


「一件落着だな」


 あとは、とりあえず北の村の復興までの間他の村に協力を仰いだりしなくてはならないが、それは俺のような一介の冒険者がすることを超えている。


「……はい」


 すべてが終わったのに、ビオラの顔はあまり喜んでいない。ただ、その理由は明らかだった。

 俺たちは北の村の人たちと別れて二人っきりになると、いつもの草原へと足を運んで腰を下ろした。


「あの研究資料に、純魔力って書いてあったことか」


「……そうです」


 戦闘後眠ったあと、目を覚ました俺たちは研究資料を状況証拠としてまとめていた。その時に、実験に純魔力が使われていたことが分かったのだ。


「たしか、ビオラが牢屋に囚われていた時に吸い取られていたものが、『純魔力』だったよな。あの管みたいな機械をとった時に、『純魔力供給装置』が壊されたとかアナウンスがあったし」


 俺の言葉に、ビオラは静かに首を縦に振った。つまり、ビオラから取られていた魔力がここに使われていたということだろう。

 ただ、この研究以外にもたくさんのところであれは使われているはずだ。


 だとすると、いったいビオラの魔力にはどんな力があるのか。もちろん気になるが、それよりもビオラの精神状態が今一番の問題だ。


「今回の件は、ビオラのせいではない。だから気にするなよ」


 ビオラは、自分の魔力のせいで今回の実験が成立してしまっていると思い、負い目を感じているのだ。もちろんそのことも事実ではあるが、だからと言って彼女は少しも悪くない。


「ありがとう……ございます」


 ビオラはそう言うと体を横にして寝ころんだ。俺も一緒に横になった。空には満天の星空が浮かんでいた。


「多分、あまりここにはいられない。ビオラの存在がここで王国側に見つかった以上、すぐに出発しないとな」


「そうですね。申し訳ありません」


「別に謝ることなんて少しもないさ。もとより、この旅はここで終わるわけじゃない。世界を回って、ずっと続いていくのさ」


 責任感が強く引け目を感じやすい彼女を、安心させようと俺は撫でた。最初は嫌がられるかと思ったが、今はこうしていていいらしい。

 ビオラは何も言わずに体を近づけてきた。


「次はどこに行きたい?」


「どこでもいいです。……ライトさんとなら、どこへでも」


 最後のほうの言葉は小さくて聞こえなかったが、どこでもいいんだったら次は海とかにもいってみたいな。空高く行くのもいいかもしれない。


「それじゃあ、そろそろ行くか」


 あまり長居しては、王国の追手に追いつかれるかもしれない。ここは、今日中に旅立つのがよいだろう。

 そう思って立ち上がった瞬間、機械仕掛けの鳥が一羽飛んできた。その鳥は手紙をくわえていて、俺のもとに来てそれを放した。


「えぇ……と、何だ?」


 開けて読んでみると、そこにはたった一言の言葉と一枚の写真。『本当にありがとうなのだ!』という言葉に添えられた、二人組の写真。片方は親方さんで、もう一人は――。


「やっぱり、親方さんの言っていた北の村の友達って彼女だったんですね」


「まぁ、そんなところだろうと思ったよ。雰囲気が似ていたからな」


 俺はその写真を胸ポケットに入れて少し余韻に浸ると、ビオラとの旅を再開した。

 心なしか、この村に来た時よりも笑いながら。



●●●



「本当に、ライトさんにはどれだけ感謝してもしきれませんね……」


 そこは雲よりもずっと上空の世界――すなわち天界。

 愛の女神エーリルは、ライトたちが村の真相を暴き無事脅威から救ったことを見届けると、ほっと安心した表情を見せた。


 その時、エーリルに話しかける女性が一人。


「女神クエストを使うなんて、ずいぶんと珍しいわね」


「……カンナですか。どうしましたか? 私の行いを上に報告するのですか?」


 エーリルの前に現れたのは、悪の女神カンナ。黒色の長髪に二本の角をもつ彼女は、少し笑みを浮かべながら答える。


「別にしないわよ。私も運営に反抗したことあるし。ただ、どうして使ったのかな~って思っちゃって」


 エーリルは、カンナのことをあまり好ましく思っていない。別にカンナは悪の女神とは言うもののそんなに悪い女神ではないのだが、少し人をおちょくる性格があるのだ。


「内緒です」


「え―内緒? ますます気になるな~。なんだって、運営の意向に反してまで成し遂げたかったことでしょ? そりゃあ気になるよ」


 そう。女神クエストとは、運営の意向に相反した時に女神が特別に出せるクエスト。つまり、ノーマルクエストという運営が定めたゴールを、さらに超えさせたいときに出されるものなのだ。


 今回で言うと、邪龍の討伐までで終わることを想定した運営に対し、研究所の破壊までを願ったエーリルというわけである。

 そして女神クエストを受注できるのは、加護を持った人間のみ。加護のスキルの説明文にある伏字の部分が、女神クエスト受注のURLになっているのだ。


「それにしても、カンナも運営に反抗したことがあるのですね。意外でした」


「そう? 私はわる~い女神なのよ? 運営に逆らって当然じゃない」


 カンナはそう言って少し笑った後、どこか遠くを見つめて懐かしむような眼をした。

 エーリルは、その目にライトを見ているときの自分と似たものを感じた。

次回、掲示板回を挟んで新章突入です。

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