決戦準備と各々の思い
「さすがは勇者様なのだ。まさかβ個体のモンスターを討伐してくるなんて……」
草原から南の村に帰ってきた俺たちは直接親方のもとへ訪れたのだが、親方は俺の渡した白虎βのアイテムを見て驚愕の顔を浮かべていた。
どうやらこの世界において、β個体は相当強いという認識なのだろう。ビオラが即時撤退を推奨したのも納得だ。
「それで、剣と盾はいつごろできるんだ?」
「任せておくのだ! 明日には渡してあげられるぞ」
それはよかった。これで本命の邪龍戦に間に合う。恐らく邪龍は白虎βよりも強いと思うので、しっかりと準備を整えていかないとな。
俺が少し安心した顔を見せると、親方は少し真面目な顔をした。
「私には、友達がいたんだ。友達と言っても職人仲間みたいなものでさ……」
唐突に親方が過去話を始めた。俺はその雰囲気にのまれ何も言えず親方は一人で話を進めていく。
「よく出来上がったものを見せあっては競い合っていた、いい好敵手だったよ。でも、ある日そいつの住む村に終焉が訪れたんだ」
瞬間、俺は理解した。親方の大切な友達だった人の住んでいた村は――
「あいつは北の村に住んでいた。勝手に特攻したバカのせいで、邪龍に村を滅ぼされたあの村にさ」
「そう……か」
彼女の献身的なサポートは、それが理由だったのか。しかし、これだけたくさんの人間が心に傷を負っているのだ。絶対に邪龍との戦いに負けるわけにはいかないな。
「俺、絶対に勝つよ」
「頼んだのであるぞ。勇者様」
俺は意思を固め、武器屋を後にした。
活動拠点である西の村に戻り小さな草原の上にばたっと寝転がると、ビオラが話しかけてきた。
「皆さん、それぞれが事情を別にしても等しく邪龍に悩まされていますね」
俺もそれに同意する。
「そうだな。ダイも親方もまだ子供だというのに苦しんでいるんだ。だからこそ、俺たちが倒さないとな」
「そうですね。全力で頑張りましょう」
邪龍を倒すためには力が必要だ。そして、そのためには強いスキルが欲しいな……と思いながら俺は取得可能スキル一覧を眺めていた。
そう。俺は白虎βとの戦闘の後にレベルが3つ上ってレベル20になっていたのだ。つまり、また新たにスキルが獲得できるというわけである。
「白虎β戦で分かったこととしては、俺に求められているのはタンクの役割ってことだな……」
高火力低頻度の魔術を放つビオラと相性が良いのは、彼女をクールタイムの間守ってあげられるタンクだろう。
ならば、それにふさわしいスキルを選ぶべきだ。そう思いながらスクロールすることしばらく。俺はとあるスキルを見つける。
「……これにするか」
俺は直感的に一つのスキルを選択した。そのスキルの名は《鋼の意思》。効果は守りたいという意志が強くなるほど、比例して防御力が上がるといったもの。
まさに、ビオラを守りながら戦う俺にはおあつらえ向きのスキルだ。
「……さて、それじゃあ久々に自分たちのステータスを見てみるか。だいぶ変わっているだろうし、邪龍を倒す作戦を立てる上では大切なことだ」
名前 ライト
称号 βの超越者
レベル 20
種族 人族
職業 契約者
スキル《友愛》《剣術》《盾術》《不屈》《愛の女神エーリルの加護》《β》《鋼の意思》
名前 ビオラ
レベル 49
種族 幻想種
スキル《不特定転移》《鋭雷槍》《時空反転》《××》……
これは一度ログアウトした時に調べた情報なのだが、どうやら「イルミス・アルテリア」というゲームにおいて魔術師は、レベルの高い魔術を覚える場合はスキルとして取得する必要もあるらしい。
そのせいで、このゲームでは魔術師の人気はそれほど高くないようだ。
「さぁ、これをもとにしてどう作戦を立てようか……」
作戦を考えながら、俺は草原で時を過ごした。
●●●
「よっ、三日ぶりだなダイ」
時は流れて邪龍討伐当日。親方から「白虎βの剣」と「白虎βの盾」という真っ白で強そうな武器をもらい、モンスター討伐の報奨金を使ってポーションを揃え準備万端な俺たちは、約束の時刻に草原の中でダイと再会した。
「久しぶり!」
ダイは元気よく答えるが、その顔には明らかに緊張の色がうかがえる。背中には弓矢を背負い腰に短剣を差す彼だが、背丈が小さいので少し不格好だ。
例えるなら、ランドセルに背負われている小学生だな。
「ダイ。それじゃあ今から邪龍の祠に向かうが、その前に持ち物確認をするぞ~」
できる限りダイの緊張をほぐせるようにふるまいながら、さながら遠足の持ち物確認のようなことをすること十分。
「さて、そろそろ行くか」
俺がそういうと、ビオラとダイは何も言わずに頷いた。
道は一度予習を兼ねて村長さんと来ていたので、分かっている。草原を抜けて、俺たちは道なりに進んでいった。
道中何度かモンスターが襲ってきたりもしたが、俺とビオラが軸となって退治する。そして、ついにその場所は姿を現した。
「さすがに雰囲気があるな……ここ」
深く奥まで続いて居そうな大きな洞穴の手前をふさぐように、神社の鳥居のようなものと賽銭箱が置いてある。
この世界は和洋折衷型なので、ヨーロッパ型の王国の外れの村が日本型であることにいちいちツッコミは入れない。
それよりも問題なのは、洞穴の奥から漂う強烈なプレッシャーだ。言語化するのが難しい圧がかかっている気がする。
「ライトさん、入りましょう」
どうやら俺は圧に負けて少しの間ボーっと突っ立っていたようだ。ビオラが先頭に立つと賽銭箱を超えて鳥居をくぐって、進入禁止と書かれた洞穴の奥に進んでいく。
奥は相当深いのか一本道が延々と続き、徐々に光が入らなくなっていき暗くなりだす。その雰囲気が怖かったのか、ダイが俺とビオラの真ん中にすっと入った。
それから歩くこと更にしばらく。お目当ての場所がついに目の前に広がった。
「……みんな、今からこの門を開ける。頼むから、絶対に生き残ってくれよ」
「わかりました。ライトさんこそ、お気を付けください」
「あぁ。もちろん」
明らかに人口のつくりである門を前に俺たちは覚悟を決めて、ギギィと門を開く。
邪龍との戦いの幕が切って落とされた。
ついに次回より、この章の根幹に迫ります。