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VS 白虎β

 白虎はその瞳が俺を捕らえると一目散に向かってきた。俺はそれに対して集中して剣を構える。


「さぁ、始めるとしよう!」


 衛兵戦とは違い、勝たなくてはならない。たとえレベル差があったとしても、相手がβ個体であったとしても何も関係ないのだ。


「グゥアアアアアアア!」


 白虎がかみつく寸前に身を翻してそれを回避すると、逆に一撃入れる。スキル《剣術》を入手したことでその動きの滑らかさは衛兵戦よりもはるかに上だ。


「こんなに違うのか……」


 その動きに驚くも、さすがに大したダメージは入っていないようだ。白虎は意にも介さず再び襲ってくる。

 またそれを回避しようと試みるが、白虎のスピードに動体視力が付いていかずかみつかれてしまった。


「くっ……」


 痛覚が悲鳴を上げている。嚙みつかれた腹からは血がだらだらと流れてきた。この『イルミス・アルテリア』というゲームは現実みを追求している部分があるらしく、二分の一にセーブされているとはいえ痛覚が存在するのだ。


 痛がる俺に対し、白虎は暇を与えずさらに突撃してくる。これもまた喰らってしまう――そう思った瞬間だった。


鋭雷槍(ライトニング)、発射します」


 遠くからそう聞こえたと同時に、白虎を次々差し穿つ光の槍。そんなことができるのは、一人しかいない。


「大丈夫ですか、ライトさん」


「あぁ、おかげでな。助かったよビオラ」


「いえ、それよりもまだあれは生きています。気を付けてください」


 再び視線を戻すと、地に倒れず生きている白虎が確認できた。しかしさっきの一撃でだいぶダメージを負ったようで、少しふらついている。


 これならいけるのではないか? と俺が思った瞬間、ビオラは少し申し訳なさそうに言った。


「私は一回魔術を撃つのに少しインターバルが必要なうえに、耐久力が低いのです」


 なるほど。要するに俺たちのパーティの主砲たる彼女のインターバルを稼ぐのが俺の使命というわけか。


「任せてくれ!」


 やることは決まりあとは白虎の反応を見るだけだ。と、そう思った瞬間だった。


「グゥアアアアアアア!」


 再び白虎が吠えたのと同時に、放たれたのは無数の炎弾。失念していたが、敵モンスターも魔術が使える場合があるのだ。

 特に強い相手であればあるほど、知恵と魔術を使って攻めてくる。


「あれを喰らったらやばいのは確実だ。でも、ここでビオラを守らないと!」


 契約者はその性質上、モンスターと契約しているに過ぎない。つまり、ビオラが死んでしまってもプレイヤーと同じように生き返ることはないのだ。


「ここは体を張って……守らないとな!」


 迷いを断ち切り、俺は無数に飛来する炎に向かって突っ込みながら親方さんにもらった盾を掲げながらいくつかを剣で斬り、絶対にビオラに当たらないようにする。


 ただ、その芸当には限界があった。


「うあぁああぁあああああ!」


 剣で斬り損ねたものや盾で防ぎきれなかったもの。それらは容赦なく俺の体に着弾していく。炎が体で爆ぜ、俺の体力も底をついてきた。

 意識を飛ばさないように必死に踏ん張る俺だったが、次の瞬間目を疑う光景が広がっていた。


「なんだとッ……!」


 俺に炎弾が当たったことで煙幕のように煙が立ち込めていた中、白虎は暗殺者のようにビオラに近づき、その鋭くとがった歯で噛み砕いていた。


「ビオラ!」


 おそらく煙幕のせいで気配が読めなかったのだろう。白虎はビオラを嚙んで離さず、ビオラは苦しそうな表情を浮かべた。

 そして、白虎はとどめと言わんばかりに魔術を展開し至近距離から炎を吐こうとしていた。


 あれを喰らったらひとたまりもない。もしかしたら――。


「絶対に……させない!」


 ちぎれそうな体を無理やり動かし、持てる力のすべてを脚力に変える。もはや思考するよりも早く体が動いていた。


「間に合えぇえええええ!」


 瞬間、俺にまとわりつく灼熱の渦。どうやら無事に白虎とビオラの間に割り込み、攻撃を肩代わりできたようだ。

 ただ、それはすなわち俺の死を表す。


「クソ、惜しかったな……。でも、ビオラが守れてよかった」


 迫りくる死に対して、悔しがりながらでもどこか受け止めていたその瞬間。一通の電子メッセージが届いた。


《スキル『不屈』が発動しました》


「何諦めているんだよ……俺はよ」


 HPバーがあるとするなら、俺の体力は残り1だろう。全身傷だらけでやけどまみれなのにもかかわらず、そんな状態で俺は笑った。


「あと一撃喰らえば俺は死ぬだろう。でもなぜだか、負ける気がしない!」


 謎の自信の正体を明かしてしまうと、《不屈》の効果である一時的な身体能力の向上だ。今の俺はドーピングをしている状態に近い。


 俺が死なないことに異変を感じたのか、白虎が一度距離をとるが俺はすぐに追いついていく。


「今のうちに倒さないとな!」


 落ち着いて剣を抜くと、狼狽する白虎を斬る。元からビオラの一撃でかなりのダメージを受けていたのでこれで終わりだ――と、俺は油断していた。

 

 白虎は瀕死寸前の体を酷使して、せめて相打ちに持っていこうとその牙を俺に突き立てる――その刹那。


「次弾装填――完了。鋭雷槍(ライトニング)、発射します」


 ビオラの声と共に白虎を一瞬で貫いた光の槍は、白虎を倒し切った。

 瞬間、パリンと音を立ててその死体が消滅する。俺はそれを見てようやくそっと胸をなでおろした。


「ビオラ、ありがとな。危うく死ぬところだったよ」


「いえ、こちらの台詞ですよ。守っていただきありがとうございました」


 俺たちは多くの言葉を交わさない。なぜならそれで伝わるからだ。少なくとも俺は、初めて会った時よりはだいぶ互いを知り信頼し始めていると思っている。いや、そう思いたい。


 戦闘が終わり平穏が戻った戦場の中、俺は戦闘終了時に届いていた電子メッセージを確認した。一つは白虎β個体のドロップアイテム。恐らくこれを渡せばミニクエストクリアだ。


 そしてもう一つの電子メッセージ、それは称号獲得のお知らせだった。


《称号『βの超越者』を獲得しました》


 そう書かれた電子メッセージの隣に、称号についてと今回手に入れた称号についてが書いてあった。どうやら、称号は持っているものの中から一つをセットできるパッシブスキルのようなもののようだ。


 そして『βの超越者』は他のプレイヤーの協力なしに、自分よりも上のレベルのβ個体を倒した際に手に入る称号で、セットするとステータス上昇と固有スキル《β》の保有が可能になるらしい。


 固有スキル《β》は、β個体のようにオーラが赤くなり目立って狙われやすくなる代わりに、マスクデータとなっている特定ステータスの向上だそうだ。このスキルはパッシブではなくアクティブのスキルなので、ビオラを守るときにヘイトを買えるようになり便利なスキルだな。


「……まぁいろいろ手に入ったけど、実戦で使ってみないといまいちわからないよな」


 とりあえず目的は達成できたんだ。今は帰ろう。俺がそう思って立ち上がった瞬間、ビオラが引き留めた。


「ライトさん、あと五分ほどここにいてくれませんか?」


「あぁ、かまわないが……」


 いったい何を考えているのだろうか? と期待を膨らませながら待つこと五分。ビオラは突然起き上がると、静かに魔術を唱えた。


「時間設定――完了。有効範囲――確定。時空反転(ワールドリバース)を発動します」


 瞬間、周りが緑色の光に包まれる。そして現れたのは巨大な時計。その針が本来とは()()()()に進んでいく。


「ビオラ、これって……」


「はい。回復魔術のようなものです。残念ながら私たちはポーションを持っていなかったので、これで代用しました」


 代用とビオラは言っているが、この魔術は回復なんてレベルの代物ではない。何せ、時そのものが巻き戻っているのだ。

 俺の傷はすべて癒えていき、おそらくビオラの傷と魔力も癒えている。いや、正確に言うと白虎と戦う前に戻った。


 しかし俺の称号やアイテムが消えないのを見るに、対象を設定しているのだろう。これは間違いなく大魔術だ。


 発動するのにおそらく大きな条件があるのだろうが、それでもとんでもない魔術だ。もしこれを悪意を持って使えば、この世界を混沌に陥れることさえできる。


 ただ、ここが世紀末になっていないのを見る限り、おそらく使えるものはかなり限られるのだろう。そう考えると、ビオラの潜在能力の高さは容易に伺え知れる。


「ビオラは凄いなぁ」


「ありがとう……ございます」


 褒められ慣れていないのか、ビオラは少しうつむく。その姿を見るとなぜか庇護欲がわいてしまい、俺は気が付くとビオラを撫でてしまっていた。


「……あ、すまない」


「……大丈夫です」


 俺はすぐに我に戻ると、ビオラと共に帰路につく。




 ビオラが少しだけ距離を縮めていたことに、ライトが気付くことはなかった。










 

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