愚者の陳列 第四列 たかが十億年の孤独ぐらい
部屋で見つけたA4用紙に印字されていたいわゆる黒歴史。
夏目漱石の夢十夜の第一夜と自分で作った神様のジレンマという童話っぽい奴の折衷みたいな作品です。今より丁寧に時間かけて書いてたかも。
第四列ってなっていますが、第三列以前も第五列以降もありません。
単体短編です。
最初の十億年は何もなかった。何もしなかった。面白くも楽しくも。つまらなくも退屈でも。なんでもなくただ過ぎた。
次の百億年であくびをした。眠くもないけれど、退屈でもないけれど。ただただあくびをした。それ以上でも、それ以下でもなかった。
どれだけのときが過ぎたろう。何をどれだけやったろう。もう覚えていないけれど、莫大な時間の中を、そうとも思わずにただ過ごした。たった一人で。孤独とも思わずに。
あるとき他人というものにであった。とても興味深く面白い。自分のようで自分でない。同じなのにまったく違う。心は踊る。心は踊る。きっとこれは楽しさなのだろう。
またどれくらいか時が過ぎ、もう何度も繰り返しすぎて、どれくらいかも分からないけれど、他人と会い、別れ、会い別れ、を繰り返した。
そのうちに気がついた、十億年が一回りだと気がついた。同じ人に会うには十億年。たったの十億年でまた同じ人に会えると。
十億年これまで過ごしてきた時間のほんのひとかけらにもならないくらいの時間。それで同じときにめぐり会う。
変化のない世界 代り映えのない世界 繰り返す世界 終わらない世界
何度目の世界か、何度目の時間か、初めて幸せを感じた。なぜかは分からない。代わり映えのない世界。終わらない世界で、何度目かもわからないのに、今までとは違う心に出会った。
彼との時間はすばらしかった。一秒が過ぎ、一時間が過ぎ、一日が過ぎ、一週間が過ぎ、一か月が過ぎ、一年が過ぎ。十億年よりも長い五十年が過ぎた。
彼は、私はもう死にますといった。私はそうか。と答えた。しかしどうも彼は死にそうにない。顔の気色はよくその手のぬくもりはまさか死ぬようには思われない。一度彼の顔を覗き込んで、まさか死にはしないだろう。と言った。だが彼はふと笑い、それでも死ぬのです。と言った。私にはどうしても彼が死ぬように思われないので、どうしても死ぬのかい。といった。彼はどうしても死ぬのです。とささやいた。そうか、それほどまでに本人が死ぬと言うのなら死ぬのだろうとわたしは思った。
彼は十億年経ったらまた会いに来ますから、それまでしばらく待っていてくださいと言った。私はわかった、またひと時、たったの十億年。待っていようといった。待っていようと思った。
彼は動かなくなった。ああ、十億年前と同じだな。私は石の上に腰を下ろした。ぼんやり空を見上げた。
十億年経ったろうか。まだ一秒も経っていない。十億年経ったろうか。まだ一分も経っていない。十億年経ったろうか。一時間も経ちはしない。
そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。たかが十億年の孤独ぐらい。今まで何度も繰り返し、今まで過ごした時間のほんのひとかけらにもならない時間。
いや、これが孤独なのか。孤独。孤独。孤独。孤独。孤独とはこれほどまでに恐ろしく。これほどまでに苦しくて、これほどまでに孤独なのか。孤独は孤独。たかが十億年の孤独じゃないか。
今やっと、一日が過ぎた。
ありがとうございました。