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ヒロインは幼馴染


「俺の、望み通り……?」


 亜希の言葉に、俺は動揺する。

 その態度を見て、亜希は呆れたように溜め息を吐いた。


「友馬が『俺のために生きろ』『どんな手を使っても、絶対に幸せにする』って、告白……むしろ、プロポーズみたいなこと、言ってきたんじゃないょ!」


 言いながら、亜希は恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていた。

 これまでずっと俺に対しては塩対応だった亜希が、公人に対するような反応を、俺に見せている。

 どうして俺にそんな表情を見せている……? いや、その前に。


 いじける亜希、めっちゃ可愛い……っ!

 

 参った、色々と考えることがあるはずなのに、亜希が可愛すぎて考えがまとまらない。

 うーん、と悩んだまま無言でいると、亜希は恐る恐るといった様子で、俺に問いかけてくる。


「もしかして……嘘、だったの?」


「嘘じゃない!」


 不安そうな表情を浮かべる亜希に、俺は反射的に答えていた。

 俺のために生きて欲しいと思ったことも、どんな手を使っても幸せにすると決意したことも、一つの嘘もない。

 俺の言葉を聞いて、亜希はぱぁっ、と顔を明るくして喜んだ。


「なによ、それじゃあ、あたしが告白をOKしたのが信じられなくって、まともな反応が出来なかっただけってこと?」


「……そんな感じだ」


 告白をしていないつもりなのに、告白をOKされれば、多くの人は今の俺のようにまともな反応はできないだろ。

 俺が答えると、亜希はクスクスと楽しそうに笑ってから、


「なーんだ。結構可愛いらしいとこあるのね!」


 と、俺の頬を指先でツンツンと突きながら言った。


「亜希の方が可愛いんだけど!?」


 俺はまたしても反射的に答えていた。

 その言葉に、「へっ?」と惚けたように漏らし、手を引いてから「ありがと……」と俯きながら、恥じる様に言った。その様子も抜群に可愛く、可愛いの大洪水になっていた。

 それから俯いたままで、亜希は俺に問いかける。


「そういえば。さっき言いかけていた……これからのことって、何よ?」


「それは……」


 俺はそう呟いてから、可愛いに阻害された頭で必死に考える。

 このまま予定通り、『公人と付き合うための作戦会議』をするわけにはいかない。

 少し話しただけだが、亜希が俺のことをちゃんと好きでいてくれているのが、態度から分かる。


 しかし、俺と亜希が付き合って、どうなる?

 死亡フラグを回避するために、亜希には公人と付き合ってもらわないといけないのだ。

 俺の恋人になった亜希に、公人の恋人なってくれとお願いをするのは……非常にハードルが高い。

 だからといってここで、「告白は誤解だから」と断り、亜希との関係が悪化するのは絶対に避けたい。


「それは、何よ?」


 首を傾げて、亜希が答えを急かしてくる。


 ……選択の余地はない。

 このまま亜希と付き合い、彼女の身に危険が迫ればすぐに助ける。

 そして、様子を見ながら、公人との関係を再構築するために動いていく。

 難易度が高くなるとして、これしか道はない。


「折角付き合ったんだから、これからは沢山一緒にいたいんだ、亜希!」


 可能な限り一緒に行動をして、いつでも亜希を助けられるようにしなければ。

 そう思って、俺は道化の友人キャラのテンションで、お願いをした。


 俺の言葉を聞いた亜希は、照れくさそうに微笑んだ後、困ったように言った。


「ごめん、それは嫌」


 複雑な表情を浮かべる亜希。


「えぇ……」


 断られるとは思っていなかったため、普通に肩を落とす。


「あ、でも勘違いしないでよねっ、別に友馬と一緒にいるのが嫌ってわけじゃないから!」


 慌てて亜希は言う。


「友馬は周囲、特に女子からすこぶる評判悪いから、皆にあたしたちが付き合い始めたことを言えば、きっと変に心配をされちゃうわ。だから、友馬が心を入れ替えて周囲の評判が変わるまでのしばらくの間は、周りの人には内緒にして、隠れて付き合いたいんだけど」


 確かに、付き合ったことを公表すれば、亜希が周囲の女子から心配されるのは間違いない。

 

「……確認してなかったけど、もちろんあの趣味の悪いノートつくりは、やめてくれるわよね?」


 亜希はジト目で俺を見ながらそう言った。

 付き合うからといって、俺のこれまでの悪行を許すつもりはさらさらないらしい。


「も、もちろん」

 

 俺の言葉に、亜希は満足そうに頷いた。


「それじゃあ、日中はこれまで通り、普通の友達みたいに過ごすってことだよな。……放課後は、一緒にいられるよな?」


「うん、それはもちろん!」


 俺の言葉に、亜希は頷いた。

 亜希の場合、放課後に死亡イベントが起こることが多いため、その時間帯に留意していれば一先ずは大丈夫だろう。

 そう思っていると、亜希は「あ、それともう一個」と前置きをしてから、続けて言った。


「日中一緒にいられない分、放課後はその分……目一杯、甘やかしてよね?」


 亜希は上目遣いに俺を窺い、そう言った。


 めちゃくちゃ可愛くて、可愛すぎて。

 俺は涙が出そうになりながら、必死に頷くのだった。


 それから、教室に戻るのだが、時間差で入るために、途中で俺はトイレに寄った。


 個室に入り、初めて彼女が出来たことににやけてしまう頬を叩いてから、気合を入れる。

 油断をしてはいけない。

 まずは今日、再び亜希を死の運命から救わなくちゃいけない。



 ――それから、3日後。

 俺は亜希の様子を、恋人として近くで見続けていた。


 死亡フラグは確実に立っていたので、いつ不運な事故に巻き込まれるかと、気が気でなかったが……結果から言うと、それは杞憂に終わった。


 亜希が俺と恋人になってからの三日間、一度として死の危険に巻き込まれたことは無かったのだ。

 これまでのパターンでは、死亡につながるイベントは必ず翌日・・に起こり、ヒロインが死ぬまで不運は繰り返されていた。


 そのパターンから外れ、既に三日。

 勿論これから先も決して油断はできないが……既に死亡フラグは折れている、と考えて良いはずだ。

 しかし、公人と恋人になっていないのに、フラグを折れたのは何故だろうか。

 

 ……いや、そもそも俺は、ヒロイン達のバッドエンドの条件を、何か勘違いをしていたのではないか――?


「……ねぇ、なんかぼーっとしてるけど、あたしの話ちゃんと聞いてる?」


 俺と亜希は今、屋上で二人、彼女が作ってくれた弁当を食べているところだった。

 考え込んでいる俺を見て、不満そうに彼女は言う。

 ヤベ、全然聞いてなかった……。


「あ、ああ。ごめん、弁当が美味しすぎて、夢中になってた」


 俺が咄嗟に誤魔化すと、「は、はぁっ!?」と驚いてから、


「ベ、別に友馬のために一生懸命作ったわけじゃないんだからね、勘違いしないでよねっ!」


 ふん、とそっぽを向いてから言った。彼女の横顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。

 ……可愛い。


「なんで亜希は、俺と付き合ってくれたんだ?」


 可愛い亜希に向かって、俺は尋ねる。

 公人が好きだったはずなのに、亜希はどうして俺のことを好きになり、付き合うことにしてくれたのだろうか。


「は、はぁ!? 何でそんなこと言わないといけないのよ!」


「……もう、公人のことは吹っ切れたのか?」


 俺の言葉に、亜希は「はぁ」と溜め息を吐いてから、呆れたように言った。


「はぁ、バッカじゃないの? 付き合ってからずっと様子がおかしいって思ってたけど、そんな気にしてたわけ? ……友馬と付き合うって決めた時点で、もうとっくに吹っ切ってるに決まってるじゃない」


「俺のことを好きになってくれたのは、疑ってないんだけど。どうして俺のことを好きになってくれたのかは分からなくて……」


 俺の率直な感想を聞いて、「ははーん、なるほどね」と亜希はしたり顔を浮かべる。


「友馬のどこを好きになったのか、改めてあたしの口から言わせたいってわけね。そんなの、恥ずかしいから教えないわよっ!」


「そんなつもりじゃなくて、だな」


 俺が言うと、亜希は真直ぐにこちらを見てきた。

 真剣な気持ちが伝わったのか、亜希は「もう……しょうがないわね」と呟いてから、続けて言う。


「助けてもらえてうれしかった。本当はあの時、凄く怖くって、でも失恋もしたばかりで。頭の中はぐちゃぐちゃになって、どうしようもなく不安で、生きる意味も目的もなくなったって、本気で思った時に。……すごく馬鹿みたいで、でも情熱的な告白をされて……嬉しかったの。私のこと、命がけで救ってくれて、しかりつけてくれて、本気で想ってくれて」


 そう言ってから、亜希は自分の胸の上に手を当てる。


「部屋に帰ってから、そのことを思い返してみたら、失恋で開いた心の穴は……塞がってた。あたしの心に、友馬がもう、居座ってたのに気づいて。だからその……あたしは友馬のこと、ちゃんと大好きだから。もう変な心配しちゃだめよ?」


 恥ずかしがるよう、亜希は笑いながらそう言った。

 その後すぐに、焦ったように彼女は俺に向かって言った。 



「え、今の泣くとこあった!?」



「……えっ?」


 俺はその言葉を聞いてから、自分の頬に一筋涙が流れているのに気づいた。

 それから、俺は指先で涙を拭い、「ははっ」と笑い声を上げる。


「どうしたのよ、大丈夫?」


 亜希は急に笑ったり、泣いたりした俺を心配したように問いかけてきた。

 俺は彼女の言葉に、微笑みを浮かべてから答える。


「大丈夫。ただ、安心しただけだ。……亜希が生きてくれてて良かった、って」


 俺の言葉を聞いて、亜希は一度俯いた。

 それから、ぐっと距離を近づけてきた。


「今更? ……でも、私も生きててよかったって思う」


 そう言って、亜希は俺の頭を押さえてくる。

 その力に大人しく従うと、彼女の胸に抱きかかえられた。

 

「あの時友馬に助けてもらえなかったら、きっとあたしは死んでたわ。あたしが今こうして生きているのは、間違いなく友馬のおかげ」


 温かな体温と、早鐘のように打っている鼓動が伝わる。


「心臓の音、聞こえているわよね?」


「うん、聞こえてる」


「好きな人を抱きしめてるんだから、ドキドキするのは当然よ。……こんな風に温かい気持ちにさせてくれる友馬のこと、好きになって本当に良かったって思ってるわ」


 彼女はそう言って、俺の顔を自分の胸からはなした。

 そして今度は俺の頬に両手を添え、間近で俺と見つめあう。

 俺がもう少し距離を詰め、ほんの少しでもその気になれば……キスが出来てしまえるくらい、近くまで。


「約束、覚えてる?」


 潤んだ瞳が、普段よりもずっと大人っぽくて、色っぽく見える。


「ああ、もちろん。ここでもう一度、改めて約束する……!」


 俺の言葉に、亜希は優しく笑った。


「あたしは友馬のために生きるから。だから、絶対に。あたしのことを幸せにしてよね?」


 そう言って、彼女は瞳を閉じた。

 俺は彼女が何を望んでいるかを理解する。

 それから俺は、彼女ともう少し距離を詰め、ほんの少しだけその気になって――。


 自らの唇と、亜希の柔らかな唇を重ねるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 負けヒロインではなくなったんだな、亜希―――
[一言] すごく面白かったです! 続き楽しみにしてます! さて、友馬君はハーレムを築くのか それとも亜希ちゃん一筋で、他のヒロインにはキューピッドに徹するのか
[一言] 何でいい話だわ(次からは浮気スタート)
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