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負けヒロインは幼馴染②

 公人と脇谷を追うと、彼らは駅近くのファミレスに入った。その後に続いて亜希が入店したため、少し時間をおいてから、俺も入店した。


 入店時、周囲を見渡して公人たちと亜希がどこにいるかをすぐに確認する。

 公人と脇谷は、ドリンクバー近くの席に座り、楽しそうにメニューを眺めている。


 亜希はというと、二人の席から離れた、分煙席近くに座り、仲睦まじい様子をもの凄い形相で眺めていた。

 脇谷と亜希、どうして差がついたのか……慢心、環境の違いか。


 ファミレスの客層は、俺たちと同じように、学校帰りの高校生がメインだった。

 周囲は皆、楽しそうに友人と盛り上がってるというのに、たった一人で深刻な表情をしている亜希が、なんだかこの上なく可哀想に見えてきた……。

 

 俺の入店を迎えた店員さんに、「向こうの席でも良いですか?」と亜希の席近くを指さしながら尋ねると、快諾してくれた。

 席へ向かい歩く。亜希にバレても構わないと堂々と歩くものの、一向に気づく様子はない。

 ……元々声を掛けるつもりはなかったが、いたたまれなくなった俺は亜希に声を掛ける。


「おっ、奇遇だな、亜希! 亜希もあの二人を尾行してるのか?」


 俺は偶然を装うように、白々しくそう問いかける。

 俺の声に顔を上げ、こちらを見た亜希は、一瞬慌てた様子だったが、すぐに不機嫌な表情を浮かべてから、答えた。


「はぁ? そんなわけないでしょ、公人と脇谷さんが一緒にいるなんて、今初めて知ったわ! あら、本当。あの二人、いつの間にいたんだろ?」


 俺以上に白々しく、亜希は早口で言った。


「……ていうか、あんたはあの二人を尾行してるの?」


 俺を一瞥してから、亜希は問いかけてきた。


「ああ。公人の奴、俺を差し置いて彼女なんて作りやがって! ……良い雰囲気になったら、絶対に邪魔してやる、裏切り者には制裁を、だ!」


 さりげなく亜希の対面に座りつつ、哀れなモテない友人キャラ代表として、俺は続けて言う。


「そうだ! 亜希、俺一人だけだと目立つかもしれないし、しばらく一緒に行動してくれないか!?」


 俺は、「頼む!」と手を合わせ、亜希に拝んだ。

 亜希は俺の言葉に、ニヤリとしてから答える。


「しょうがないわね、あたしは公人が誰と付き合おうとどうでも良いんだけど、あんたが脇谷さんに迷惑を掛けそうなら、クラスメイトとして止める義務があるし? 良いわ、少しの間一緒に行動してあげる」


 得意げに亜希は答えた。

 二人の尾行をしているとは認めたくない亜希が、俺の言葉を大義名分に同行を許可するのは簡単に予想が出来た。


「まじチョロいわ」


「は? なんか言った?」


 やべ、考えていたことが口から漏れた。


「まじサンキューな、助かったぜ亜希!」


「良いから、二人に見つからないように。目立たないようにしてなさい」


 俺が礼を言うと、亜希は静かにそう言った。

 亜希自身が見つかると困るからそんなことを言うのだろう。しかし、俺としても不用意に目立つつもりはないため、反論はない。


 とりあえず。

 俺と亜希は、店員を呼んで、フライドポテトを注文した。ドリンクバーに行くと、二人に見つかる可能性も高いため、それ以外の注文はなしだ。

 

 俺は背後を振り返りつつ、公人と脇谷の様子を伺う。

 二人は本当に楽しそうに会話をし、笑い合いながら昼飯を食べている。


 一方、コチラの雰囲気は最悪だった。

 ことあるごとに、亜希が物憂げに溜め息を吐くからだ。

 うっとうしい……ではなく、痛々しくて見ていられない。


「あっ……」


 と、唐突に亜希が呻いた。

 脇谷が公人に対し、「はい、あーん♡」とご飯を食べさせようとし、公人が大変嬉しそうに口を開いたからだろう。

 分かりやすくイチャイチャしてるな……と思ってみていると、


「なんで邪魔しないのよ……アーン?」


 と、亜希が小声で呟いた。

 俺は亜希を見る。彼女は不服そうにこちらを睨んでいた。絶対俺に向かって言っただろ、こいつ……。

 ……「あんたが脇谷さんに迷惑掛けるのを止める義務がある」と言うのは、どの口が言っていたっけ?

 せめて、脇谷のように可愛らしく「あーん♡」してくれていたら良かったのに、と。

 時間が経ってぱさぱさになったフライドポテトを、もしゃもしゃと咀嚼しながらそう思った。



 それから、ランチを終えてファミレスを出た二人が向かった先は、駅ビルだった。

 駅ビルに入っている店に入り、二人でウインドウショッピングを楽しんでいるようだ。

 二人は和やかな雰囲気で店を見て回り、時にイチャつき、時に恥ずかしがり、砂糖を吐きそうなほど甘い青春を送っているようだった。


 亜希はそんな二人を、空虚な眼差しで眺めている。

 ……そんなに見たくなければ、帰れば良いのに、と思いつつも口にはしない。


 それからいつの間にか時間も経ち、日も傾き始めるころ。

 雑貨店に入った二人が、お揃いのシャープペンシルを購入した。

 二人は買ったばかりのシャープペンシルを嬉しそうに眺めながら、「これで勉強も頑張れそう」なんて、相変わらず甘ったるいことを言っていた


 二人が店を出て行った後。

 亜希は二人が購入したシャープペンシルを手に取り、眺めた。

 それから、拳をギュッと握って、これまでより一層深いため息を吐いてから。


「馬鹿らし……」


 と、自嘲するように呟いた。

 亜希はシャープペンシルを棚に戻してから、早歩きで店を出た。もう、二人を追いかけるつもりはなさそうだった。


「お、おいおい亜希! 公人たちは放っておいて良いのかよ?」


「もうどうでも良い」


「はぁ、何だよそれ!?」


 単純に、もう見ていられなかったのだろうと察するものの、俺は哀れな友人キャラなのだ。

 何も分からない道化のふりをして、亜希に問いかけた。

 彼女は振り返り、俺を見てから言う。


「あんたがどうしようと、もう知らない。でも、……あたしにはついてくんなよ、変態ストーカー男」

 疲れたような表情で、亜希は言った。

 それから、脇目も降らずに歩いていった。

 

 その背を見て、俺は呟く。


「亜希……あンた、背中が煤けてるぜ」



 とはいえ、亜希を放置するわけにはいかない。

 彼女には、死亡フラグが立っている疑いがある。

 このまま放置し、彼女が死んでしまったら、俺は悔やんでも悔やみきれない。


 だから俺は、彼女の言葉を無視して、こっそりと後をつけることにした。

 駅ビルから出てしばらく歩き、亜希はとある場所に辿り着いた。


 そこは、こじんまりとした、人気のない公園だった。

 ベンチが2脚、ブランコと鉄棒と、とある遊具・・・・・だけの、静かな場所だ。

 ここに来たのは、まさか……そう思い、公園の入り口でひっそりと彼女を見守っていると――。

 

 衝撃の光景が、俺の目に映った。


「これは、そんな……っ!」


 思わず、感嘆の声を漏らす。

 亜希はゆっくりと滑り台に上り、そして三角座りで俯きながらすすり泣き始めたのだ。

 彼女のお披露目した、お手本のような滑り台送り。


 これまでのループでも見たことのないその大技に、俺はなんだかいてもたってもいられなくなり。

 様子見をしようと思っていたことなど忘れ、彼女の下へ駆け出すのだった……っ!

 


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