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負けヒロインは妹⑤

 麻衣ちゃんのメシマズについて告白をした翌日のこと。


「こんにちは。とりあえず入っても良い?」


 買い物袋を手に持った俺は、麻衣ちゃんに向かって言う。


「……どうぞ、上がってください」


 通いなれた公人の家……つまり、麻衣ちゃんのご自宅に来ている。

 玄関で麻衣ちゃんに迎え入れられた俺は、リビングへと通された。


「あの……本当にするんですか?」


 麻衣ちゃんが疑わしそうに俺に問いかける。


「ああ、もちろん……料理勝負だ! 自分の作る料理が不味いと、自覚が足りないみたいだし。俺が麻衣ちゃんよりも美味しい料理を作れば、流石に納得するよな?」


 俺の言葉に、麻衣ちゃんは、


「無駄だと思いますけど……」


 はぁ、と小さくため息を吐いて呟いた。

 自分がメシマズだと信じられない彼女としては(何言ってんだ、こいつ……)案件なのだろう。


 俺もあまり料理は作らないが、流石に麻衣ちゃんには負けない。


「料理勝負の題材は……炒飯だ!」


 俺はそう言って、買い物袋を持ち上げる。


「調味料は家にあるみたいだし、材料は揃ってる。すぐに始めよう!」

 

「しょうがないですね、良いですよ。でも、判定はどうするんですか? 私と阿久さんが作って……判定するのは誰が?」


 麻衣ちゃんの問いかけに、俺は答える。


「審査員は麻衣ちゃん自身だ」


 首を傾げる麻衣ちゃんに、続けて言う。


「お互いが料理を完成させた状態で、麻衣ちゃんには目隠しをしてもらう。それから、二つの料理を食べてもらい、どちらが美味しかったかを、君自身で決めてもらう」


「阿久さんが良いならそうしますけど。でも、変なことしたら……普通に通報しますからね?」


 兄の友人とはいえ、俺は悪名高い変態ボーイ。

 そんな危険人物の前で目隠しをすることについて、麻衣ちゃんが警戒するのは分かる。

 しかし……。


「安心してくれ。これは人命がかかっているんだから……ふざけるわけないだろ?」


 俺は真剣な眼差しで彼女を見た。


「そんなに……?」


 戸惑いを見せる麻衣ちゃん。

 俺は無言のまま頷いた。

 納得いかない表情だったが、「それじゃあ、キッチンに行きましょうか」と、案内をしてくれる。

 

 広く、清潔感のあるキッチン。

 おそらくは、普段から手入れがされているのだろう。

 俺は買い物袋の中身を取り出す。


 4個入りの卵パック、パックご飯(小)、刻みネギ。

 事故を防ぐため、食材は可能な限り少なくしている。

 塩コショウをはじめとした各種調味料は、使わせてもらうことになっている。

 

「炒飯、作るんですよね?」


 はて、と首を傾げた麻衣ちゃん。

 俺は恐る恐る「うん、そうだよ」と答える。


「……材料足りないですよ?」


 ……。

 確かに、お店で出る炒飯はチャーシューが入ってる場合が多いよな。

 そう言う意味で言ってるんだよな……?


「あの……料理の腕を比べたいので。出来るだけシンプルなこの材料で作るっていうのは、どうでしょうか?」


 はぁ、と溜め息を吐いた麻衣ちゃん。


「そう言う事なら、良いですよ。……ただ、隠し味は使わせてもらいますからね」


 う、うーん、ちゃんと隠してくれるかな……?

 俺はすこぶる不安だったが、詳しい話は聞きたくなかったので、ツッコむことはしない。

 

「それなら、先に俺が作っても良いかな? すぐに出来るだろうし」


「良いですよ。でも、出来立てを提供できないのは、不利だと思いますが、良いんですか?」


「構わないよ」


 そう答えてから、俺は早速取り掛かる。

 ご飯と卵の下準備をしてから、フライパンをコンロにかけ、油を熱する。

 十分温まったところで、ご飯と卵を投入。

 よく火を通してから、ねぎを入れ、それから調味料で味を調える。


 ……普通だ。普通の炒飯の味がした。

 俺は勝利を確信した。


 火を消し、茶碗を使って皿に盛りつけた。

 フライパンを手早く洗ってから、


「出来上がったから、麻衣ちゃん次よろしく」


 と、声を掛ける。


「意外と手早く作りましたね。私もすぐできると思うので、ちょっと待っていてください」


 麻衣ちゃんはキッチンに入り、代わりに俺はリビングで椅子に座る。

 彼女がどのように料理をするのか、見てみたい気もしたが……。

 見れば、俺はもう二度と彼女の料理を食べられないような気がして、止めた。


 キッチンからは調理する際の音が聞こえる。

 ちゃんと、調理をしている音だ。漫画やアニメのような、イカれた音はしなかった。

 そんな当たり前のことに安心していた俺の鼻に、なぜかヨードチンキのような香りが届いた。


 ……!?


 俺はキッチンの様子を見る。

 緑のボトルに黒いラベルが張られているあれは、アルコールだろうか?

 銘柄は分からないが、どうやらあれが隠し味、というわけらしい。

 隠し味がアルコール、というのは想定された隠し味の中ではかなり当たりの部類だろう。

 匂いは強烈だけど……まぁ、食べられる範囲だろう。


 その後、麻衣ちゃんは材料を炒め始めた。

 ……炒めている時間が、ちょっと長いような気はするが、アルコールを飛ばしているためだろう。

 そう願いたい。


「お待たせしました、完成しましたよ」


 そう言って、皿に盛りつけられた炒飯を運んできた。

 見た目は……正直言って、滅茶苦茶美味そう。

 家庭用コンロで出来るレベルを超越した、黄金のパラパラ炒飯だった。

 

「よし、それじゃあ早速実食しよう」


 俺はそう言ってから、麻衣ちゃんを椅子に座らせ、アイマスクを渡す。


「良いですよ」


 そう言ってから、彼女はアイマスクをつけた。

 まずは、俺が作った炒飯からだ。

 レンゲで一口分の炒飯を掬い、彼女の口元までもっていく。


「良い匂いですね」


 香りが届いたのか、そう言ってから、彼女は小さく口を開いた。

 ……目隠しをして口を開く友人の妹(美少女)の姿に、倒錯的なサムシングを抱きそうになるが、先ほども言った通り人命がかかっているのだ。

 雑念を捨て、俺は彼女に炒飯を食べさせる。

 麻衣ちゃんは静かに咀嚼し、飲み込んだ。


「うん、美味しいですね」

 

 感動なく、彼女は呟いた。

 好評ではあった。正直ちょっと嬉しかった。


 次に、俺は麻衣ちゃんの炒飯を一口分掬い、口元に運ぶ。

 

「……!?」


 匂いを嗅いだらしい麻衣ちゃんが、露骨に動揺した。

 ……やはり、強烈だったようだ。

 それから、しばし躊躇ってから、麻衣ちゃんは覚悟を決めたのか、小さく口を開いた。


 俺は彼女に炒飯を食べさせる。

 麻衣ちゃんは、それを口に入れた瞬間――。





 俺は洗面所で顔を洗ってから、呆然自失、放心状態の虚ろな目をした麻衣ちゃんに声を掛ける。


「……大丈夫?」


 俺の声に、彼女は顔を上げる。


「食に対する冒涜……私はこれまで、一体何を?」


 自分のメシマズっぷりに精神を破壊されたようだ。

 

「現状を認めてくれたようで、嬉しいよ」


 俺の言葉に、彼女は申し訳なさそうに、俺に向かって問いかける。


「なんで、兄さんと阿久さんは、こんなに下手な私の料理を、食べ続けてくれたんですか?」


 そう言ってから、恐る恐るといった様子で、続けて言った。


「もしかして、炒飯だけ特別下手なだけですか……?」


「妄言に縋る…」


「……そこまで言わなくても良いのに」


 俺の答えに、麻衣ちゃんは頬を膨らませた。

 まだまだ言い足りねぇ……。


 彼女は、俺がなんと答えるか気になっているようだ。

 しかし、言葉で説明をする前に、俺はまず自分で作った炒飯を食べた。

 普通の味、苦も無く食べ終える。


 それから……麻衣ちゃんの作った炒飯を手元に引き寄せる。

 ヨードチンキと、むせかえるほどのすっばい匂いが鼻腔を占めた。

 ……やっべーな、今の匂い!

 しかし俺は覚悟を決めて、炒飯を平らげる。


「っえ? ……ダメです、吐き出さないと……死にますよ!?」


 彼女の言葉を無視して、俺は炒飯を平らげた。

 やはりまずかったが……これまで食べた中では、ダントツでマシだった。

 食材を制限したのが良かった。

 後は隠し切れない隠し味さえなければ、まともな味だったろうに……。


「なんで食べたんですか? そんなにお腹空いてたんですか?? 餓死でもしそうだったんですか???」


 目を丸くして、立て続けに麻衣ちゃんは問いかけてくる。

 俺は彼女に向かって、答える。


「いつも一生懸命料理を作ってくれているのに、残したら可哀そうだろ? それに、俺も公人も、麻衣ちゃんの笑顔を見るのが好きだったんだよ。だからこれまで『不味い』とは言えなかった。もっと早く、ちゃんと伝えるべきだったって、今は反省してるよ」


 俺の言葉に、麻衣ちゃんは頬を紅潮させた。

 照れているのだろう。

 公人が麻衣ちゃんのことを思いやっていたのだから、当然だ。

 俺に対する好感度も上がっていると嬉しいのだが、どうだろうか。

 今回のところでは、距離を縮められたのであれば、それで良いか。

 そう思い、俺は揶揄うように、続けて言う。


「今回炒飯を平らげたのは――この強烈な味も、もうすぐ食べられなくなると思うので、食べおさめと思って、ね?」


 俺の言葉に、恥ずかしがるような様子を見せてから、ムスッと頬を膨らませる。


「美味しいご飯を作れるようになって、絶対に見返すので。今に見ていてくださいね……?」


 視線を背けていじけたように麻衣ちゃんはそう言った。

 可愛らしいその姿に、俺も思わず頬が緩んだ。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに、その指摘は致命的(文字通り)になる前にしておくべきだった… コーチしている過程で仲良くなっていけるのかな。
[一言] どんな気持ちって聞いてみたい
[一言] このタイトル……実は主人公も記憶あるとか? 実は寝取らせ……とか!?
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