3人目
亜希と瑠羽、三人でカラオケに行った翌日のこと。
今日はとある人物に誘われ、二人でゲーセンに遊びに来ていた。
その人物とは、三人目の攻略対象者――。
「こうやって二人で遊ぶのは、なんだか久しぶりな気がするね」
「そりゃそうだろう。なんたって――お前に彼女が出来たせいで、付き合いが悪くなったんだから」
「あ、あはは。そう怒らないでよっ」
「ええい、うるさい!この裏切り者のリア充野郎めー!」
ではなく、主人公の公人だった。
俺は性根に染み付いた、愚かで滑稽な友人キャラムーブをお披露目しながら、騒ぎ立てる。
公人に恋人が出来て付き合いが悪くなったのはもちろん間違いないのだが、俺自身亜希と瑠羽の攻略とデートのため、全く公人を遊びに誘うことはなかった。
亜希には周囲に隠して欲しいと言われ、瑠羽は現役アイドルなので公言できない。
なので、このことを公人は知らない。……ので、自分のことは棚上げする俺。
しかし、許して欲しい。
俺は、公人の前ではどうしても……しがない一人の友人キャラになってしまうのだから。
「このリア充には、俺が正義の鉄槌を喰らわせてやる!」
「格ゲーで?」
「うむ」
「はいはい、お手柔らかにね」
呆れた様子で言う公人に、俺は腕まくりをして応じる。
それから、俺たちは格ゲーの筐体へ移動する。
これからプレイするのは『ギルティ・ファイター』という2D格ゲーだ。
コインを入れて、ゲームを始める。
俺はスタンダードな主人公キャラを選択し、公人は投げキャラを選択した。
「お排泄物ですわね」
俺はそう言って公人に中指を立てる。
「開幕暴言とか、時代が時代なら灰皿ソニック決められても文句言えないんじゃない?」
公人が引き気味に言っているのを聞き流し、開幕演出をスキップ。
前歩きをしてプレッシャーをかけてくる公人に、牽制技を振る俺。
そしてなんやかんや試合を展開した後。
捕まえて画面端に追い込んでバースト読んでまだ入って、近づいて決めた俺ぇ!!
とても気持ち良くなった俺が公人を見ると、彼は死んだ目で連コインをしていた。
やれやれ、全く。ゲーセンでは後ろに人が並んでいないかちゃんと確認してからコインを入れよう。
マナーの悪い男だぜ。
俺は内心呆れてから、今度は開幕で挑発を擦った。
公人は俺の行動に対し、冷静にカウンターを決める。
そして、「死ななきゃ安い」と念仏を唱える様に言う俺の願いも虚しく、ミスを一つもせずに体力ゲージを10割削りきるのだった――。
☆
その後も数回対戦を行ったが、なんとか勝ち越すことが出来た。
公人が「対ありでした。」と屈辱に塗れた表情で言うのを満足そうに聞いた俺。
友情にひびが入りそうだったので、自販機で買った魔剤を、ベンチに座っていた彼にお詫び代わりに手渡した。
「ありがとう」
「気にするな」
互いに缶に口をつける。
高度な頭脳戦と低度の舌戦を繰り広げた後の疲労が蓄積された身体に染みわたる……。
魔剤を飲み干してから、俺は公人に問いかける。
「そういえば。麻衣ちゃんは元気?」
「麻衣? どうして?」
「おいおい、健全な男子高校生が美少女のことを気に掛けるのが、そんなにおかしいことか?」
「そういうのは身内としては、止めて欲しいんだけどなぁ……」
公人は俺の言葉に、気まずそうに苦笑しつつ答えた。
麻衣ちゃんとは、公人の妹であり、今年入学した1年生だ。
身内を可愛いと褒められるのは、兄としては少々気まずい思いをするのかもしれない。
公人は、うーんと唸ってから言う。
「言われてみれば、最近会ってないような気がするなぁ」
「そっか。それじゃあ折角だし、麻衣ちゃん呼んでくれよ。新入生になったんだし、お祝いにファミレスでパフェでも奢るし」
俺が公人に向かってそう言うと、
「それじゃ、今時間あるか、ちょっと聞いてみるよ」
と、彼はそう言ってから、すぐにスマホでメッセージを送った。
「あ、もう返信きた」
どうやら、ものの数秒で返信が来たようだ。
「なんだって?」
「うん、大丈夫だって。ファミレスで待ち合わせでも良いよね?」
「もちろん」
公人の問いかけに、俺は頷く。
彼は「オッケー」と言ってから、返信をした。
「それじゃあ、先にファミレスに行って席を確保しとこうか」
彼の提案に頷き、俺たちはゲームセンターを後にした。
☆
そして、ファミレスに到着し、ボックス席に案内された俺たちは、ドリンクバーの飲み物をすすりながら、麻衣ちゃんの到着を待っていた。
10分程そうしていると、一人の少女がファミレスに入店した。
俺と公人がそちらへ目を向けると、バッチリその子と目が合った。
彼女はぱぁっと目を輝かせてから、こちらに近づいてきた。
「お待たせ、兄さん。……阿久先輩も、お久しぶりですね」
「全然待ってないよ、こっちこそ、突然呼び出してごめんねぇ~。さ、座って座って!」
麻衣ちゃんの言葉に俺は答え、自らの隣に座るようにスペースを開けるが、
「そうですね」
と言って、何食わぬ顔で公人の隣に座った麻衣ちゃん。
本気で俺の隣に座るとは思っていなかったが、ここはお馬鹿でスケベな友人キャラとして、俺は肩を落とした。
「阿久先輩もだけど、兄さんも久しぶり」
どこか責める様に、麻衣ちゃんは言った。
「高校生になってから、慣れるまで忙しかったでしょ? 無理に顔を合わせるのもどうかと思ってさ」
言い訳がましく公人が言うと、
「それでも、様子を見にきたりできたと思うのに……兄さんは薄情者」
不機嫌そうに、プイと顔を背けた麻衣ちゃん。
二人の会話を聞き、麻衣ちゃんの不機嫌そうな様子を見て、彼女は今も公人に対して好感度MAXであることを理解した。
そう、この主麻衣こそ、お兄ちゃん大好き系の攻略対象ヒロインであり。
俺が攻略しなければならない、3人目のヒロインなのだった――。