表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/40

負けヒロインはアイドル⑤

 

 翌週。

 相変わらず学校にはこない瑠羽に、俺は毎晩その日書き写したノートの画像を送信していた。

 ただ、今週は大きな進展があった。


 夜間、時折瑠羽からビデオ通話がかかってくるようになったのだ。

 ビデオ通話の用件は、最初の内は勉強の質問だけだったが、2回、3回と回数を重ねるうちに、仕事の多忙や人間関係に関する愚痴を言うようになっていた。


 今も、瑠羽が勉強に関する質問のために、ビデオ通話をかけてきていた。

 簡単な質問に対し、すぐに答えたのだが、その後も電話は切られていない。

 今は、撮影したらしいバラエティ番組について、話をしている。


 電話の向こう側の瑠羽を見る。

 俺に気を許しているという事なのか、コンタクトではなく眼鏡を掛けているし、メイクや髪の毛のセットは適当な上、着ている服は上下ジャージだ。


「……ねぇ、私の話、聞いてくれてる?」


 電話の向こう側で、ムッとした様子で瑠羽は問いかけてくる。


「聞いてる、バラエティ番組で失敗したんだろ」


「……へー、ちゃんと聞いてたんだ」


 話を聞いていた俺の反応が薄かったから、瑠羽は少し不服だったのだろう。


「……ところで。大人気アイドルの愛堂は、俺にそんな油断した姿をさらして良いの?」


 俺の言葉に、「あー」と瑠羽は呟いてから言う。


「ファンの前でこんな干物女スタイルを見せて、幻滅させるわけにはいかないけど。……君は別に、私のファンではないようなので、問題ないかなーって」


「いじけるな?」


「いじけてないよーだ」


 ベー、と舌を出す瑠羽。

 流石は大人気アイドルと言うか、ヒロインと言うべきか。

 メイクをしていなくとも、瑠羽はとても可愛らしい。


「ファンではないけどさ。愛堂は勉強も、芸能活動も頑張ってて、凄いと思ってるよ。もっと芸能活動に理解のある学校に転校したら、楽になりそうなのに」


 俺の言葉に、瑠羽は苦笑を浮かべる。


「アイドル始める時に、パパと今の高校をちゃんと卒業するって約束したからね。……勉強は君に頼らないと、危ないんだけど」

 

 俺は、揶揄うように瑠羽に言う。


「台本覚えるの苦手そうなのに、テレビでは淀みなく話してる。その努力をもうちょっとだけ勉強に回せば、成績も心配いらないだろうね」


「それは余計なお世話っ!」


 と、恥ずかしそうに言ってから、瑠羽は何か察したように言う。


「……って、意外。テレビ、見てくれてるんだね?」


「あ、いや。……テレビをつけてたら、嫌でも目に入るから」


 俺の言葉に、瑠羽はニヤニヤと笑う。


「前言撤回。君ってば、とっくに私のファンになってたみたい。こんなジャージ姿で幻滅させてごめんね? 次から電話する時は、ちゃんとおしゃれしてあげる」


「勘弁してほしいな……」


 俺の言葉に、「ふふん」と満足そうに言ってから、

 

「あ、そうだ。明日のお昼、時間ある?」


 思い出したようにそう言った。

 明日は土曜日、休日だった。


「また勉強で聞きたいことがあるの?」


「ううん、今回は、勉強を見てくれてるお礼に、お昼を一緒に食べられたらって。またちょっとだけど、時間作れそうだから」


「つまり……ご馳走を期待して良いってこと?」


 俺の言葉に、瑠羽は苦笑して答える。


「現金なやつ。それじゃあ、時間と場所は、後でメッセージ送っておくから」


「分かった、確認しておくよ。それじゃあ、お休み」


「うん、お休み」


 互いにそう言ってから、電話を切る。

 そして、すぐに瑠羽からメッセージが届く。


 時間と、店のURLを確認して、早々に眠ることにした。

  



 そして、翌日。

 待ち合わせの店に、俺は入った。

 個室のある、お洒落なお店だ。

 価格設定的にも、一般的な高校生には少々ハードルが高そうだ。


 俺の名前で予約をとってくれていたようで、店員に名前を伝えて、個室に通される。

 それからしばし待っていると、先週と同様、変装した愛堂が個室に入ってきた。


「やっほー」


 軽い調子で彼女は挨拶をしてきた。


「今日はお誘いありがとう」


 と礼を伝えると、瑠羽は気にした様子もなく、答える。


「いいよ、気にしないで。私も会いたかったから」


 そう言ってから、


「あ、別に今のは、そういう意味じゃないからっ!」


 と、少々慌てた様子で言った。

 好感度がちゃんと稼げているようで、何よりだ。


「分かってるよ」


 俺が言うと、彼女は安心したような、不満そうな、少し複雑な表情を浮かべる。

 しかし、気づかないふりをして、俺は彼女に向かって問いかける。


「ここのおすすめは何?」


「お肉も魚も、どっちも美味しいよ。パスタも良いね」


「それじゃあ、メインは肉で」


「さっすが、男の子」


 微笑みを浮かべて、瑠羽は言う。

 それから店員を呼び、注文をする。

 瑠羽は、魚料理がメインのランチを頼んだ。




「ご馳走様でした。めっちゃ美味しかった」


 届いた料理を平らげてから、俺は言う。

 

「ね? ここ、コスパも良くっておすすめなの」

 

 瑠羽は笑顔で答えた。

 普通の高校生にとっては、普段通うことは出来ない価格設定だが、流石は売れっ子アイドルだ。


 瑠羽はチラチラと腕時計を確認していた。

 俺は問いかける。


「時間、あんまりないのか?」


「うん、実はあと10分くらいしたらもう出ないといけないんだよね」


「多忙だね。大丈夫?」


 この店に入ってから、まだ1時間も経っていない。

 つまり、そのわずかな時間を割いてでも、俺に会いに来たという事だった。


「うん、ちょっとでも話せて良かったよ。……あと、本題があるんだ」


 瑠羽はそう言ってから、続けて口を開く。


「来週、ドームでライブがあるんだ」


「知ってる。凄いよね」


 俺の言葉に、


「うん、だから最高のパフォーマンスができるように、今日からレッスンやリハーサルで頑張らないといけなくって……メッセージのやり取りは出来ても、電話する時間は無くなりそうで」


 それから、コホンと咳ばらいをしてから、


「それで、良かったら君に観に来て欲しくって」


 カバンから封筒を取り出し、俺に渡してきた。

 受け取り、中身を確認すると……


「チケットだ……もらって良いの?」


「もちろん! お世話になってるお礼」


「ありがとう。来週は予定もないし、絶対に観に行くよ」


 俺がそう言うと、瑠羽は安心したようにホッと息を吐いた。


「うん、楽しんでもらえるように、頑張るよ。……そろそろ、私行かなくっちゃ。お会計済ませて、先に出るから、君はもうちょっとゆっくりしておきなよ」


「それじゃ、お言葉に甘えるよ。今日はありがとう、ご馳走様でした」


 俺の言葉に、瑠羽はニヤリと笑みを浮かべてから、


は、君の番だから。期待してるよ?」


 彼女の言葉に、


「お手柔らかに」


 苦笑して俺は答える。

 彼女は満足そうに笑ってから、「それじゃ、またねー」と言って、個室を出て行った。


 それから俺はグラスに注がれた水に口をつける。

 勝負は来週、失敗は許されない。 

 次で瑠羽を落とせなければ……次のチャンスはもう、ないかもしれない。


 そのためにも、この後フラグをたてておかないといけない。

 俺は水を飲み干してから、店を出た。


 入り口で周囲を見ると、ちょうど瑠羽がタクシーを止めたところだった。

 彼女は車に乗り込む際、一度店へ視線を向けた。

 その時、彼女と視線があった。

 俺は微笑んでから、手を挙げる。

 瑠羽はそれに気づいて、ウィンクをして応じ、それからタクシーは発車した。


 タクシーが見えなくなってから、もう一度周囲を確認する。

 視線の端で、物陰に誰かが隠れた・・・・・・ような気がした。

 ……いや、実際に隠れたのだと、俺は前ループまでの情報から知っている。

 ここで、を追うのは、あえて止めておく。


 さて、これで下ごしらえも、好感度も十分になったはずだ。

 後は、ライブで勝負に出るだけ。

 上手く行くように祈りながら、俺は店から離れるのだった。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


作者の別作品の宣伝です!まんが4コマぱれっとさんにてコミカライズ連載中の
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
タイトルクリックで公式サイトへ!最新第4巻の目印は、浴衣姿の可愛い冬華ちゃん&夏奈ちゃん!ぜひチェックをしてくださいね(*'ω'*)

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 人命救助のために彼女が出来た当日から浮気 結局最後には刺されてお前が凄惨な最期迎えるんだよ!ってことか
[一言] しばらく亜希はほったらかしなのかな? 気になる…
[一言] ストーカーか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ