月光と共に動く影
橘彩葉は、路頭に迷っていた。
彼女は負けん気や努力で様々な困難を乗り越えてきた。
そうすることで乗り越えることができた。
だから、今回もなんとかなるだろうとそう思っていたのだ。
しかし、この世界は未知だ。
努力では解決しないことある。
それは……
「ここは……どこ?」
彼女は極度の方向音痴なのである。
自分の住む世界とは異なりそもそも土地勘というものがない。それに加え先程あった襲撃。
正直に言おう……
私はもう、お腹が空いて動けない!
目の前には、緑色の看板のお店がある。
その店のドア向こうにたくさんの食べ物が並んでいるのが見え、私は導かれるようにその店へと近寄っていく。
が、私は地面に倒れていた。
「ごめんなさい。あなた、大丈夫?」
1人の少女が私に話しかけている。
「大丈夫です、気にしないでください……」
そう言い立ち上がろうとするが、もう限界なのだろう。
意識が朦朧として地面に倒れ込む。
「ねえ、あなた。本当に大丈夫なの?ねぇ…」
少女の声が私の頭の中に響き渡る。
「うるさい…私にはなさないといけない使命があ…る……」
ダメだ。今は、少しだけ眠らせて…
彩葉の記憶はそこで途絶えた。
何か遠くの方から騒がしい声が聞こえる。
なんだろう。
私は、その声に耳を澄ませる。
聞き覚えのある声たちが私に話しかける。
「なぁ、彩葉…」
誰なの?私のことを呼んでいるのは。
「街のみんなが祝福してくれてるぜ!すげーよな、なあ!」
ねえ、あなたはいったい誰なの?教えて……
「こいつ感動しすぎて寝ぼけてやがる。いいか、俺は…」
私は、この声を知っている。
懐かしいそして大好きだった人の声だ。
そう彼の名前は……
「ピーター!!」
私は、勢いよくベットから起き上がる。
しかし、私の前にはいたのは、ピーターではなく、茶髪の少女だった。
「やっと起きたわね、突然倒れたからびっくりしたじゃない」
周りを見渡すと、さっきまでいた秋葉原の街とは違っていた。
目に見えてわかる女の子の部屋だ。
ファンシーな壁紙にベットの上のはウサギのぬいぐるみが置かれている。
が、どれもこれも私には高価なものに見えてしまう。
「あなた、名前は?」
茶髪の彼女がそう私に尋ねる。
「私の名前は、橘彩葉」
「彩葉ね。ところでなんで倒れたの?私は運んでないけどさ」
「人探しをしてたんですけど、見つからなくて。そのうちお腹も空いてちゃって」
「お腹が空いて気を失ったってこと!?」
よく考えてみたら、そんなことで気を失うなんて恥ずかしい…
私は、恥ずかしさのあまり目を逸らす。
「あなた、面白いわね!ところで、あなたって日本人?どこから来たの?その髪は地毛なの?」
息をつく間もない質問の応酬。
私は、彼女の質問に1つ1つ答えていく。
一応日本人であること。
簡潔に説明できないから遠い場所から来たこと。
髪の毛は染めているということ。
そのほかの質問にも答えていく。
彼女と話しているこの時間は、私にとって何か懐かしさすら感じさせる心地のいい空間だった。
「あたしの名前は、北条神楽。よろしくね、彩葉」
その少女は、茶髪のミディアムヘアーで身長は私と同じくらい。制服を着ているが、着崩しているせいか少しチャラくさえ見える。こういう人は少し苦手だ。
「えっと……あの、よろしくお願いします」
私は少し戸惑いながらも答えた。
「彩葉、それじゃだめよ。あたしたちもう友達なんだから」
「友達?こんな短時間で?」
「友達になるのに時間なんて関係ないわ。少なくともあたしはね!」
「そうなんですか……」
こんな受け答えしかできない。
この世界にきてまともに話した人間なんて彼女とあの駅で出会った眼鏡の男の子だけだ。
でも、友達っていいな…。
「ところで、彩葉はさ、誰探してたの?」
彼女のその言葉でやらないといけない使命を思い出す。
「あたし、行かないと」
部屋から出て行こうとすると、私の前に彼女が立ちはだかる。
「どいて、私は見つけないといけないの」
彼女との会話で気を緩めてしまったせいか、うまく身体を動かすことができず地面によろけ倒れてしまった。
「いったいあなたは誰を探してるの?」
私は、彼女にこう答えた。
「この世界の主人公」
これをいうとこの世界の人間はおかしな人を見るような顔で私を見て、過ぎ去っていく。
興味を示して聞いてくれる人もいたが、やはり信じてはくれなかった。
だから、あの線路で私のことを助けてくれる人がいるというのなら、その人がこの世界の主人公だと。
私はそう信じた。
そして、その人は私の前に現れた。
これで、私の世界は救われる…。そのはずだったのに。
「ねえ、主人公ってさどんな人なの?」
北条神楽が聞いてくる。
でも、答えることができない。だってわからないのだから。
「わからない。だって見たことないんだもの」
「見たこともない人を探してるのあなた?正気なの?」
「私は、正気。無茶無謀と言われたって私は絶対見つけ出してみせる」
「あなた、イカれてるわね……」
「助けてくれてありがとう。礼をいうわ。でも、こんなところで止まっている訳にはいかないんです」
彼女を手を払いドアへと向かう。
そうだ。私には時間がない。必ず見つけないといけないの主人公を。
「なるほどね……。面白い、気に入ったわ」
彼女の声が聞こえたとともに何かが私の方に投げられた。
それを思わず受け取る。
手に持っていてのは、コンビニで売っている卵サンドだった。
「お腹空いてるんでしょ?それあげる」
グゥーっと生き物の泣き声がお腹から響き渡る。
「……ありがとう」
恥ずかしすぎて、素っ気ない態度になってしまう。
でも、本当に助かる。
北条神楽は、人の心に土足で入り込む。
乱暴で自分勝手だが、優しさを兼ね備えているそんな人間なのだろう。
「あと、私も探すわ」
「え……?」
「だから、一緒に探してあげる。この世界の主人公ってやつ」
彼女は高らかにそう宣言した。
「何を言ってるの?これは私の問題なんだから。あなたには関係ないでしょ」
「関係あるわよ。だって、友達が困ってるのに助けないなんてそんなの人でなしよ」
「北条さん、あなた何を言ってるの?」
「神楽でいいわ。だって、当てのない人探しでしょ?面白そうじゃない!」
「面白いとかそういう問題じゃないの!私と一緒にいたら命を狙われるかもしれない。こうやって匿ってくれたこと自体危険なことなの!そんな危険な目にあなたを巻き込めないわ」
これは私の問題だ。
この世界の人を巻き込むわけにはいかない。
その心遣いだけで充分だった。
でも……
「あなた、この世界の人間じゃないんでしょ?」
神楽が不敵な笑みを浮かべながら私にそう告げる。
「多分、この世界で生まれたのは、本当だと思うけど過ごしたのはこことは違う世界。違う?」
何でそのことを神楽が知っているのか?もしかして敵なのか。
様々な憶測が私の中を駆け巡る。
「あたしね、何となくわかっちゃうんだよね、こういうの。昔から、心が読めるっていうか」
心が読める?
そんなことができる人間がこっちの世界にいるなんて……
「でも、全部わかるわけじゃないのよ。何となくわかるって感じで」
「何が目的?」
私は、何が起こっても対処できるように腰に携えている拳銃を取り出せるように構える。
「そんな顔しないでよ。あたしは彩葉の敵じゃないわ」
「証拠は?」
「敵だったらあなたのことを助けないで殺してるわ。あなた誰かから逃げてるんでしょ?」
神楽が言っていることは少なくとも筋が通っている。
私がこの世界に来たのはこの世界の主人公にあって私の世界を救ってもらうこと。
それを阻止しようとローダーたちもこちらに世界にやってきている。
神楽がローダーたちの仲間であるのなら、私はもうとっくに殺されているはずだ。
逆に、神楽が言っていることが本当なのだとしたら、より私の世界の問題に巻き込むわけにはいかない。
「あなたの言ってることが本当のことだとしても、これ以上迷惑かけられない。……ごめんなさい」
橘彩葉は、部屋から出ていく。
そして、部屋には北条神楽だけが残る。
「振られちゃったかー。でもね、彩葉。あたしは諦めの悪い女なんだ。絶対あたしが先にこの世界の主人公ってやつを見つけるから。また、会いましょ」
神楽は、静かにドアをしめた。
東京の街は眠らない。
この都市は、夜というものを知らないのだろう。
まあ、そんなことはどうでもいい……
俺は、この街に再び戻ってきたのだから。
俺には、やらないといけないことがある
それは、世界を救うことなんかじゃない。
輝かしい冒険譚や英雄譚はいらない。
俺にとって必要なことはたった一つだけ。
この世界への復讐。
いや、もっと具体的にいうならば、この世界の神様の野郎をぶち殺すことだ。
そのために、俺はここに戻ってきた。
「なあ、神様。地獄の底から這い上がってきたぜ」
黒い学ランを着ている青年はそう空に向かって叫ぶ。
その声を聞いた神様が、反応したのかわからないが、次第に雨が降り始める。
「俺は、この世界ではとことんついてないみたいだぜ?おっさん」
「いいではないか。あと少しでお前さんは、神を殺せるのだから」
「そりゃ、いいねー。神様も泣いて喜んでるってわけか。早く殺してあげたいぜ。」
「ああ、そうだな。そのためにもまずは、橘彩葉を始末しなければならぬ」
「わかってるって。ローダーのおっさん、少しは俺のこと信用しろよ」
「ああ、そうだな。済まない」
「まぁ、任せとけって。何てったって俺が、この世界の主人公なんだから」
彼らは再び、深い闇の中へと消えていく。
雨は激しく降り続ける。
虚構と現実が混在するこの街でこの先、何が待ち受けているのか。
この時は、まだ誰も知る由もなかった。
少し遅くなってしまいましたが、浅田あおばです。
本業の方が忙しくなってきて、こっちも負けないようにと苦手ながら頑張っています!
ぜひ、今後とも作品をご愛読していただけると幸いです。