0場 プロローグ
— 主人公になりたかった。
小学生の頃、大人たちに将来の夢についてを聞かれた。
周りのみんなは、年相応の夢を話していたんだと思う。
それを大人たちは、微笑ましく思い応援してくれたんだと思う。
僕にもその問いは来た。
でも、僕は答えることができなかった。
何故かって言われたら分かっていたからなのかもしれない。
僕の求めている答えは、叶うはずがないと自分自身が理解していたからだ。
この地獄のような問いは中学、高校になっても続いた。
進路希望調査。
そこに書き込んだ先に待ちわびている未来は、もう誰かが通ったことがある安全なレールであり、安全な人生だ。
少し道を外しても長い人生の収束力によって決められたレールの上に引き戻される。
この常識こそが世界に生きている人間の答えだと僕は思う。
だから僕には、将来の夢がない。
正確にいうと将来の夢が”わからなくなってしまった” わけだ。
「もう、これでいいか」
自分自身で妥協点を作り、進路希望用紙を提出箱に入れ昇降口へと向かう。
どのくらい進路希望を書くのに時間がかかっていたのだろう。
外は夕日が落ちはじめ、夜になりかけていた。
僕は、足早に学校を後する。
高校2年生にもなると通学路にも通いなれてしまい目新しいものはない。
秋葉原の近くの学校ということもあり、電気街を通り駅に向かう。
ちなみに僕が都立神田高校に入学したのも場所が秋葉原だったからだ。
この街には、アニメや漫画とかそういうフィクションが溢れている。
だから何かしら起こるかもしれないと胸躍らせていたのが遠い昔のように感じる。
最寄駅であるJR秋葉原駅の改札口をくぐり、JR山手線外回り18:06発、東京・品川方面を待っている。
今日も今日とて何の変化もなく時間が過ぎていく。
これが幸せっていうやつなのか。
もし神様が実在するとしたら僕はこう尋ねたい。
”何で僕を村人Aにしたのか”と
駅構内に電車到着のアナウンスが流れる。
「まもなく3番線に東京・品川方面行きがまいります。危ないですから黄色い線までお下がりください」
アナウンスが繰り返される。
ふと線路に目をやると目を疑うような光景が広がっていた。
線路の上に制服を着た少女が立っていた。正確に言えば、''美少女'' だ。
白銀の髪を揺らし、電車が来るのを待ち構えている。
……これは現実なのか?
少し遠くの方から電車が来ているのがわかる。
この光景を目にした人々は助けようと行動していた。
ある人は、非常停止ボタンを押し、またある人は早く逃げるように声をあげている。
だが、全く動く気配がしない。
そして、彼女はこう叫んだ。
「さぁ、早く私を助けなさい!」
このような状況でも全く助ける気がない人たちもいる。
そりゃ、目の前で怪我されたり死なれたりするのは気持ちの良いものではないのは確かだ。
でも、誰だって本当は死にたくはない。だから、僕は動けない。
何故なら僕は、''主人公じゃない''。ただの''村人A'' なのだから。
「……ごめんな」
僕は、目の前の光景から目を背けるため瞼を閉じた。
電車の急ブレーキの音が近づいてくる。
今から誰が助けに行っても共倒れするだけなのは明確である。
こんな悲劇は、この世界では当たり前のことだ。今もなおどこかで同じような悲劇が起こっているかもしれない。
だから、しかたのないこと。そう、しかたのないことなのだ。
だが……
僕は何故かホームの下に向かって飛び込んでいた。
どうしてそうしたかなんてわからない。けど、1つだけ分かっていることがある。
「ここで助けなきゃ、一生後悔する」
線路上にいる白銀の髪の彼女のもとに駆け寄り、手を引っ張る。が、もう目の前には電車が差し掛かっていた。
すると小さな声ではあるが、声が聞こえた。
「やっと出会えた…私の主人公」
電車のライトが眩しく僕らを照らしつける。
助かるはずのない救出劇。
もし生まれ変わることができるのだったら、''主人公''になりたい。
どうか神様、その願い叶えてください。
こうして僕、川上慧の短い人生は劇的な日常によって幕を降したのである。
はじめまして、浅田あおばです。
この作品が初投稿作品となります。
若輩ものですが、精一杯頑張ります!!!