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異世界物

おっさん勇者にカミ様はないので魔王になびきます

作者: コーチャー

 三十九歳の誕生日に俺はトラックにはねられて死んだ。


 いい人生ではなかった。就職した会社が三年で倒産。派遣とバイトの繰り返しの日々。ストレスのせいかと思っていた不調が不治の病であることが分かったのその前日だった。髪を振り乱して医者にすがりついたが無駄だった。


 だから、俺はあっさりと死を受け入れた。だが、カミ様は俺を憐れんで異世界へと送ってくれた。


 異世界で俺はおっさん勇者として仲間と一緒に幾多の苦難を超えて魔王の前に立っていた。予想外だったのは魔王が女であったことだが、俺は手を緩めなかった。


「流石は勇者、私をここまで追い詰めるとはな」

「終わりだ魔王。多くの人々を苦しめた報いを受けるがいい」

「いいのか勇者。私ならお前の病を治すことができるのだぞ」


 ボロボロになった体を起こして魔王がにやりと笑った。異世界に来ても俺の病は治っていなかった。むしろ、緩やかにだが確実に進行していた。頭を抱えて眠れぬ夜をいく度も超えて、治癒の効果があるという魔法や薬草を密かに試したが効果はなかった。


「……嘘をつくな」

「私なら人間や神が禁じる禁呪や秘術を使える。それはお前に福音を授けることだろう。さぁ、私の味方になれ」


 魔王が俺のほうに手を伸ばす。仲間たちが「騙されるな」とか「勇者が病だなんて」と後ろで騒ぎ立てるが俺には魔王の言葉のほうが重要だった。本当にこの病が治るのか。ゆっくりと枯れていくこの焦りから解放されるのか。


 俺は視界を遮る重い兜を脱ぎ捨てて魔王に詰め寄る。蒸れた頭が空気に触れてひんやりする。


「本当に治るのか。治るのなら俺はお前を見逃す」


 仲間たちが俺を見て驚きの表情と裏切りをとがめるセリフを吐き捨てる。俺は彼らに向かって電撃魔法をくらわして無力化した。仲間の一人が倒れる寸前に「神が許されるはずがない」と言ったが、そもそも俺にはカミなどない。


「容赦がない男だ」


 魔王は立ち上がると倒れた俺の仲間たちに複雑そうな目を向けた。


「いまの言葉が嘘なら、次はお前がああなる」

「任せておけ。私ならお前を救える。なんせ十歳ほど若返らせればいいのだからな」

「若返らせるなら二十歳だ。俺は二十の頃にはもう前髪が後退していた」


 俺はハゲあがった頭に髪が生えることを喜んだ。


「まったくお前にカミはないな」

「当たり前だ。ハゲにカミなどいない」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 意外性があって面白い [一言] 真面目に感想書くと、ネタバレになるので省略。
[一言] シンプルで面白かった!
[良い点] 楽しかったです。ありがとう
2019/09/23 16:50 退会済み
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