プロローグ
「ねえねえ、わたしの赤いハサミ取って」
胸が隠れるほどの長い黒髪を揺らして、女の子は言いました。
「あっ、うん。よいしょ」
短い髪をピンクのうさぎの髪ゴムでふたつに縛った女の子が背伸びをしてハサミがたくさん入っている箱を取りました。
「あれっ」
ふたつ縛りの女の子は黒髪の女の子のハサミが入っていないことに気づいて顔を上げました。その時でした。
__ジャキッ
耳元で何かが切れる音がしました。コン、コロン、と硬いものが落ちて足元に転がってきました。
_あれ、これ、わたしの……?
「このうさぎさん、かわいいね」
黒髪の女の子が長い髪を耳にかけながらそれを拾ってにっこり笑い、言いました。
「わたしもね、うさぎさんすきなんだ ××ちゃんもすきなの?」
黒髪の女の子は表情を崩さず言いました。
ふたつ縛りの女の子は未だ状況が理解できずにいるのか、黒髪の女の子を見つめて固まっていました。
それも気に留めず黒髪の女の子は
「いきなりごめんね。××ちゃんの髪飾りがほしくなっちゃって、うそついちゃった」と続けました。
はい、と黒髪の女の子から髪飾りを差し出されました。
と同時に我に返ったのかふたつ縛りの女の子は足元に目をやりました。
「いやっ!!!」 ふたつ縛りの女の子は驚いて尻もちをついてしまいました。
足元にはうさぎの髪飾りの他に自分の髪が散乱していました。
ふたつ縛りの……今となってはひとつ縛りになってしまった女の子は黒髪の女の子の行動に怯え、震え、それでも黒髪の女の子から目を離せませんでした。
「わたしのうさぎさんはね、一昨日死んじゃったんだ うさぎの形をみると、いらいらして…」
黒髪の女の子は立ち上がって長い髪をさらさらっと揺らして後ろを向きました。
そして、くるっと振り返りにっこり笑って言いました。
「またあしたね ××ちゃん」