第13話 オーディションの目的
一方、その頃莉奈は突然目の前に現れた世界をただ歩き続けるだけだった。
そして、ちょうど莉奈と夕貴とデュエルが始まった頃にまたも景色が急に変化した。
荒廃したビル群。それが変わった先に見えた景色だった。そして、歩いていくその先には人影が見えた。
それこそが肉体を乗っ取ったアレイスタードラグーンと夕貴がデュエルを行なっている場所だった。
そして、2人は莉奈に気づくことなくデュエルが始まった。
(あれが……私……名の?)
「私のターン‼︎」
と夕貴の声が聞こえた。
(まさか……今デュエルしているというの⁉︎)
莉奈は最悪のことを考えた。それはあの時の悪夢だった。
あの時も《アレイスタードラグーン》に吸収され、対戦相手を気絶に追い込もうとしている。
(だ……だめ……こんなところでもう一度悲劇を繰り返してはならない‼︎)
そうは思ったものの今の莉奈にはこのデュエルを終わらせることができない。
(いっそのことあのデュエルに乗り込めば……)
そう思いつき走ってその場所に向かおうとした。しかし、その行動も虚しくあと一歩のところで見えない壁に阻まれ、その衝撃で莉奈は後ろに倒れこんだ。
(そ、そんな……あと少しなのに……)
莉奈は強く地面を叩いた。
声も届く気配もなく、ただそこに立ち尽くす事しか出来なかった。
そんな中、デュエルはどんどん進み、莉奈はとうとう禁忌のカードを召喚した。
その姿は莉奈には《最悪》そのものの象徴でしかなかった。その咆哮は何か勝利を確信しているかのようなものだ。
「だめえぇぇっ!」
そして、最後の攻撃が夕貴を直撃した。その刹那、自分の体が光に包まれその世界から姿を消した。その瞬間の莉奈の表情が伺えた。その姿はまさに《悪魔》そのものだった。
次に目が覚めるとその視界に映ったのは細長い蛍光灯だった。
「あれ……ここは……」
その声を聞いた看護師はすぐに主治医を呼んだ。
急いで主治医が部屋に入ってくると瞳孔の検査などを行った。
「大丈夫でしたか?眠っている時とても苦しそうにしていたので……」
その後事情を主治医から聞いた。
莉奈はデュエルをした後、突然意識を失い、一時期呼吸困難に陥ったという。
《オーディション》の体調不良者の救護のためについていた医者がちょうど救命医だったという偶然が重なり応急処置がすぐに行われた。
そしてつい先ほどまで《オーディション》会場の医務室のベッドで眠っていたらしい。
「デュエル後に倒れた……といことはあの子は⁉︎」
莉奈はベッドを飛び出し、医務室を出ようとした。
「夕貴さんも同様にデュエルの後に倒れました。莉奈さんよりも重傷で、現在は大きな病院で救命を行なっています。何故だか夕貴さんはデュエル後、服が破れていたり、大きな傷ができていたらしいです」
それはつまりあの時のデュエルが本物の戦いであったという大きな証拠であることを示していた。
「じ、じゃあ《オーディション》は……」
莉奈は気になっていたことを主治医に尋ねた。
主治医は俯いた。
「一時中断……ということになりました」
その声は明らかに主治医とは違う声だった。声の高さから女性の声だ。
その声の主の方を見るとスーツを身に纏った長い黒髪の女性が立っていた。
「あ、貴女は……」
その女性は莉奈の元に歩み寄ると、一枚の名刺を手渡した。
「申し遅れました。《国家機密管理事務局・愛知支部》の濱野加奈子と申します」
「《国家機密管理事務局》……ですか⁉︎国の役人さんがどうしてここにいるんですか?」
莉奈は恐る恐る聞いた。
「この《オーディション》は元々国の機関が企画したものです」
その予想外の回答に莉奈は言葉を失った。
そして話の内容を理解する前に加奈子が話を続けた。
「この《クラスターデュエル》は元々この世界……地球に存在していなかったものでそれを我が国が発見、解析しそれをこの日本全土に広めました。発売元は大手玩具企業になっていますが、本来ここには国の機関の名前が入るんです」
「地球に……なかった⁉︎……ということはそれは別の惑星や世界の文明の利器……といことなんですか⁉︎」
加奈子は腕を組んで小さく頷いた。
「そういうことになります。そして《クラスターデュエル》全世界に広まり、そのことに気がついた世界各国の政府がそれを戦争に活用しようとしているのです」
衝撃の事実を知った莉奈はしばらく黙り込んでしまった。
(戦争にこれを使うなんて……)
莉奈は自分が持っているカードを見た。
「じ、じゃあこの《オーディション》もそれを阻止するための……」
「そうです。この《オーディション》の目的はアイドルを構成するためではありません。これは表向きの理由で、裏ではすでに事態を重く見た政府の《徴兵》ということになります。アイドルとして世界を回る事で、戦争への行使の阻止も目的としてい ます。もちろんアイドル活動が主ではありますが……」
「本当の……目的」
莉奈はそう呟いた。
「そして、莉奈さんには今回の事を受けて、やっていただきたいことがあります」
加奈子は一枚の紙を手渡した。
そこには《合格通知》と書かれていた。
「え……こ、これって……」
加奈子は拍手をしながら答えた。
「《オーディション》合格です。おめでとうございます」
莉奈は国家機関の《オーディション》に合格したが、元々の目的を知り、少し複雑な気持ちを抱いた。