第11話 本物
莉那は今の状況があまりのショックで飲み込めない中、ここまでの経緯を探っていた。
「まずは……この世界になぜ入ったのか……」
莉奈はまずこの世界について解っていることを脳内にピックアップした。
「この世界に飲み込まれたのは、《アレイスタードラグーン》のせいで、あれに力を求めた時に魂ごと食われた……」
そして、目の前にいるもう一人の自分はあることを話した。
「この世界から出るためには、私をデュエルで倒すこと」
その言葉が出たとき莉奈はそんなことはしたくないと心で強く思った。
しかし、その願いも虚しく、目の前にプレイマットが立体化して出てきた。
(どうやら……やるしかないようね……)
莉奈はプレイマットに、自分のデッキを置こうとしたが、デッキがなかった。
「デッキが……ない」
そのことに気付いたもう一人の莉奈はこちらを向いてこう言った。
「今回は仕方がない。デュエルはなしでいい。だけど、次来たときは必ずデュエルさせてもらう」
もう一人の莉奈はそういうと、
どこかへと消えていった。
一方現実の莉奈は現在、デュエルの世界にて、デュエルを始めようとしていた。
「それでは始める」
と、審判は何事もないように、そういった。恐らくは、夕貴と莉奈以外は普通の世界にいるのだろう。
勝たないとここから脱出できないと考えた夕貴は決心してデッキを置いた。
「さぁさぁ、この勝負……勝たせてもらうよ‼」
夕貴はそういって、カードをめくった。
莉奈もカードをめくりお互いが始められる体制になった。
「クラスト‼」
開始の言葉を言った途端に周りの世界はまたも急変し、荒廃したビル街の映像になった。
(ここは……初めてのフィールド)
夕貴にとっては初めてのフィールドだった。
それもそうであった。このフィールドは《アレイスタードラグーン》が作り出した世界のため、この世界を知る者は数えられるほどしかいない。
先行は夕貴だ。
「私のターン。私は《妖怪・ヌリカベ》を召喚。効果で一枚ドロー‼」
《妖怪・ヌリカベ》コスト:2 種族:妖怪 攻撃力1200 効果:召喚時にデッキからカードを一枚ドローする。
「これでターンエンド」
1ターン目で余り飛ばすことのなかった。恐らく一回戦で飛ばしすぎたのであろう。
《妖怪》デッキはドローして効果を発揮するものが多いのだ。
ターン2
夕貴 ライフ:7 コスト:5 手札:6
莉那 ライフ:7 コスト:6 手札:6
「私の……ターン、ドロー」
莉奈はカードを引くなり、ニヤリと笑った」
「な、何がおかしいんだよ」
夕貴は莉奈に向かって怒鳴った。
「このカードが、あなたを殲滅するんだから」
莉奈はそういった。さすがの夕貴もその言葉に反論ができなかった。
「私は手札を一枚捨てて《黒いアイドル・ラン》を召喚」
そこに真っ黒なオーラをまとったアイドルが召喚された。
《黒いアイドル・ラン》コスト:1 種族:亜人 攻撃力:800 効果:①このモンスターは手札を一枚捨てて召喚する。②このカードが召喚に成功したとき、手札の《アイドル》モンスターを墓地へ送り、そのモンスターの攻撃力をこのモンスターに永久的に与える。
「このまま効果発動。手札の《裏のアイドル・レン》を墓地に送り、その攻撃力を《ラン》に与える」
《裏のアイドル・レン》コスト:4 種族:亜人 攻撃力:1200 効果:①通常召喚をするとき、手札を2枚捨てて召喚する。②このモンスターが《アイドル》の効果で墓地に行ったとき、手札を一枚捨てて、場にノーコストで召喚できる。
「こ、攻撃力2000⁉」
夕貴は驚いているように見えた。
「そうよ。さらに《レン》の効果で手札から《見習いアイドル・ルカ》を墓地に送り、場に召喚する」
実に悪そうな取引をしている姿をしているアイドルが召喚された。このモンスターの召喚に使った《ルカ》は何か苦しそうに倒れていった。
「攻撃する。《黒いアイドル・ラン》で《妖怪・ヌリカベ》攻撃。《ダークナイト・シング》」
激しい金属音の歌唱がフィールドを覆い尽くした。
その衝撃は夕貴にも届く。
「な、なんて音なの⁉」
と耳をふさいでいた。
「《裏のアイドル・レン》で直接攻撃。《マネー・ザ・ダーク》」
《レン》が夕貴に向かって、紙幣を投げた。その紙幣はまっすぐ飛び、それは夕貴の近くで爆発を起こした。
「ぐっ⁉なんなのこの痛みは……」
爆発に飲まれ、痛がる夕貴をただ茫然と莉奈は見ているだけだった。
「言っただろう。この世界は《クラスターデュエル》の世界だと」
その言葉に夕貴は大きく目を見開いた。
「ま、まさか……」
夕貴の驚きの言葉に、莉奈は笑って答えた。
「その通り。この世界はお前が、そして私が《指導者》としてモンスターを使役し、ライフを削りあう。だから痛みがあるのも当たり前なのさ」
莉奈からそのことを聞いた夕貴はただ茫然と立ち尽くすだけだった。
「じ、じゃあこのデュエルは死と隣り合わせ……ということ?」
その質問に莉奈は首を横に振った。
「この世界で負けても、死ぬことはない。元の世界にも戻す。しかしこの痛みを知ったものは《クラスターデュエル》からは自然と手を放して行った」
それもそうだと夕貴は考えた。この事実を知ってしまったら、辞めざるを得ないのだから。
「どうした、お前のターンだぞ」
夕貴はあわててカードを引こうとする。
ターン3
夕貴 ライフ:6 コスト:6 手札:6
莉奈 ライフ:7 コスト:6 手札:3
「私のターン、ドロー‼」
夕貴はカードをドローした。
(今の私のフィールドはガラ空き。それに対して相手は1200と2000のモンスターが1体ずつ……飛ばすしかない‼)
決心した夕貴は手札からこのカードを出した。
「私は《妖怪・カラカサ》を召喚。効果でカードを二枚ドロー。そのカードが《妖怪》モンスターだったとき、曽於のカードをノーコストで召喚する」
《妖怪・カラカサ》 コスト:3 種族:妖怪 攻撃力:900 効果:①このモンスターが召喚に成功したときカードを二枚ドローする。②①の効果でドローしたカードが《妖怪》と名のつくカードだったとき、そのカードをノーコストで召喚する。召喚できないときはそのまま手札に残る。
「引いたカードはどちらも《妖怪》。そしてどちらも強力なカードだ‼《妖怪王・ザ・ファントム》と《未だ目覚めぬ妖怪・オニサマー》を召喚‼」
フィールドに眠っている鬼のような姿をした《オニサマー》と、いかにも妖怪の王様のようなマントを被った《ザ・ファントム》が召喚された。
《妖怪王・ザ・ファントム》 コスト:7 種族:妖怪 攻撃力:2500 効果:①このカードが召喚に成功してとき、カードを一枚ドローしてもよい。②このカードが攻撃するとき、バトルする相手モンスターの攻撃力分アップさせる。
《未だ目覚めぬもの・オニサマー》 コスト:9 種族:妖怪 攻撃力:1600 効果:手札からコストが9になるように《妖怪》と名のつくカードを墓地に送ってもよい。そうしたら、デッキ、手札、今回捨てたカード以外の墓地から、《目覚めし妖怪・オニサマー》をこのカードの上に召喚する。
「まず、《ザ・ファントム》の効果でカードをドロー。続いて《オニサマー》の効果で手札のカード3枚を墓地に送って効果発動。コスト9分捨てたのでデッキからこのカード、《目覚めし妖怪・オニサマー》を召喚する」
眠っていた《オニサマー》が立ち上がり。オーラに包まれた。そして完全に目覚めた。
《目覚めし妖怪・オニサマー》 コスト:9 種族:妖怪 攻撃力:3000 効果:①《ガード》このカードの下にあるカードを墓地に送り、破壊を一度だけ無効にする。②このモンスターが召喚に成功したとき、相手フィールドのモンスター全てをデッキに戻す。③《吸収》このモンスターが攻撃するとき、このカードの下にあるカードを墓地に送ってもよい。このターンの間、このモンスターの攻撃力は、墓地に送ったモンスターの攻撃力分アップする。④このモンスターは手札から墓地へ送った《妖怪》と名のつくモンスターを墓地に送った数分攻撃できる。
「《オニサマー》の効果で相手フィールドのモンスターをすべてデッキに戻してもらうよ」
莉奈のフィールドの《アイドル》たちはどこかへ消えていった。
「さあ、バトルだ‼」
夕貴は倒す気満々でバトルの宣言をした。