第10話 二人の莉奈
莉那はずっと暗闇の中をさまよっていた。
―私もサポートさせていただきます。
といった言葉の通りになることなく、莉奈の意識自体が《アレイスタードラグーン》によって吸収、融合されてしまった結果、今の状況になってしまったということになる。
(もしかしてあのカードに騙された……の⁉)
莉那は絶句のあまり、言葉が出なかった。現在、莉奈ができるのは、何なのかを必死で考えた。
しかし、彼女の考えは不可能に等しい《脱出》だった。
(まずは……出口を探さないと……)
しかし視界は真暗であり、何も見えない。さらにその周辺に物がなく手探りで探そうとすることもできない。
そのためこのような考えも虚しく、ただ座っていることしか出来なかった。
一方その頃、現実の世界、《アレイスタードラグーン》が乗っ取ったであろう莉奈の肉体は、先ほどとは打って変わって、無口になっていた。
「敗者の方はここに集まって下さい。次の抽選を行います」
とスタッフの人が言い、集合を促した。そのため莉奈はその場所に向かった。 そして、スタッフの指示に従い、抽選用紙を受け取り番号を確認する。
番号は5だった。
「5番の人いますかー?」
という陽気な声に莉奈は反応して、そちらに向かう。
そこには黒色の長髪に三つ編みをしている少女の姿があった。向かっている様子を見ると、莉奈に向かって手を振っている。
「あなたが5番の人?」
という問いかけに莉奈は頷いた。
「じゃあ、さっそく始めよう!」
そういって少女はプレイマットの前に立った。
「私は上田夕貴ていうの。あなたは?」
上田夕貴と名乗った少女は、莉奈に名前を尋ねた。
「星野……莉奈……」
とだけ名乗った。
「よしじゃあ、始めよう‼」
「…………」
相変わらず無口な莉奈には見向きもせず、プレイマットにデッキを置いた。
ことが起こったのはその瞬間だった。
莉那の目が赤く染まり、強く輝き始めた。
その光は、プレイマットをも飲み込んだ。
「な……なんなの⁉」
夕貴は驚いている様子だった。
「ようこそ……本当のデュエルの世界へ‼」
莉那は先ほどの無口から人が変わったかのように、声を発し、ニヤリと笑った。
「本当の……デュエルの世界……」
一方その頃……未だ暗闇の中に囚われている本物の莉奈は、その世界のある変化に気が付いた。それは現実の世界で《アレイスタードラグーン》がデュエルを始めようとするのと同時期だった。
世界は急に明るさを増した。
世界はサバンナのような世界だった。草木が生え、動物たちが行き交っている。本当にさっきまで暗闇で何もなかったようには思えなかった。
(え……)
莉那は困惑した。なぜ急に世界に光が灯ったのか、そしてどんな意図があって、《アレイスタードラグーン》は莉奈をこの世界に閉じ込めたのかのか、全く分かっていない中の世界の変化だ。そのため莉奈の脳内は処理が進んでいなかった。
(けど……これで出口が見つかるはず……だよね)
莉那はとにかくそう思って、出口を探す。しかし、その世界に出口らしきものがなかった。
(出口が……ない⁉)
広がっているのは無数のサバンナであり、部屋という感じすらないのだ。
(ど……どうやって脱出すればいいんだ……)
……とその時だった。奥から何やら人影が見えた。
その姿は自分にそっくりな少女だった。
「あ……あなたは……」
その問いかけに気付いたのか少女はこちらに向かってきた。
「私はあなた、あなたは私」
彼女の返答が意味していたのは、そこにいる少女と莉奈が同一人物であり、そして一心同体であるということだった。しかし、それはこれから先に起きることの前触れに過ぎないものだった。
莉那は夕貴を巻き込み、《本当のデュエルの世界》へと呼び込んだ。その世界こそ、囚われの莉奈がいる世界だった。それを知っているのは、その場にいるものの中で、莉奈の肉体を奪った《アレイスタードラグーン》ただ一人だったのだ。そして、ここで始まる闘いの運命はこの二人の莉奈によって左右されていることを、囚われの莉奈を含め知っているものはいなかった。
「こ……ここは……」
そしてこの場所は夕貴にも見覚えがあるところだったのだ。
その世界はカードゲーム《クラスターデュエル》を始めた時に映し出される《戦場》そのものだったのだ。
つまり、その場にいる者たち全員が、本当の《マスター》としてカードを引き、そして戦う舞台だったのだ。
莉奈はこの世界を知っていることに、驚いた。それは《クラスターデュエル》をするときに映し出される世界であり、ここ数日もの間莉奈が夢に出てきた世界でもあった。
「なんで……なんでこの世界が出てきたのよ‼」
莉奈は困惑のあまりに発狂し、この場の状況が飲めなくなってしまった。