第六夜:『決別』
10月6日分の深夜N分小説執筆です。
今回のお題は、「置き手紙」、「君のいない街」、「花束」の3つです。制限時間は120分。
タイトルは、サブタイトルにあるように『決別』となります。お題は、全一応全て使用しています。1500字程度。
短めですが、どうぞ
それは、一つの置き手紙からはじまった。
そこには、短くこう書かれていた。
『外の世界を見てくる』
その言葉が意味することは、すでに彼はこの町にいないということであった。
私は、彼のことが許せなかった。直接私に何も言うことなく、それもとても短い言葉が書かれた手紙だけを置いていってしまったことに。私は、悔しかったのだ。
彼が、外の世界に強い興味を持っていたことを知っていた。そんな彼が口癖のように、いつかこの世界を変えてみせる、と言っていたことも。そんな彼に対し、私はいつも、自分も力になる、そんなふうに返していたものだ。君と私がいれば出来ないことなんかない、そう思っていたのだ。
私と彼は、幼少の頃からよく一緒に遊び、稽古したものだ。
私たちの実力はメキメキと頭角を現していき、やがて周りには相手になる人がいなくなった。
それでも私たちは、自分を鍛えていった。私たちには、夢があったからだ。
彼の夢は、大きくなっていつか外の世界へと行き、あらゆるものを見て学んで、それを使って、この世界を変えることだ。人が殺し合い、殺されるそんな殺伐とした世界から争いのない世界へと。
そんな夢物語であった。
私の夢は、そんな彼ともに戦い、その夢を助けることだ。
そんな途方もない夢を叶えるには力がいる。だからこそ私たちは、周りに相手になる人がいなくなっても二人で切磋琢磨し続けたのだ。
だからこそ、私は悔しかったのだ。いつも一緒にいたからこそ当然自分もそう思っていた。
しかし、現実は短い置き手紙だけで彼はいなくなってしまった。
そんな私は、心の中で何かが渦巻いていた。そこには、様々なものが絡み合う。怒り。憎しみ。寂しさ。怨み。あらゆるものが混ざり合い、自分でも何がどうなっているのか全くわからなかった。
少しの時間が経ち、自分を落ちつける為にもいつもの場所へと向かった。そこは、彼と一緒にいつも来ていた山で、そこから私たちが住む街が見える場所がある。
今は、何も考えず一心不乱に登り続けた。
しばらく登り続けると目的の場所へと辿り着いた。
私は、そこから町を見下ろす。
私は、ここから見る町の姿が好きだった。しかし、今見ると町が霞んで見えて、とてもじゃないけれど好きになれなかった。
なんで今日は、こんなに霞んで見えるんだと私は思う。少しの間考え込んで、気づいた。
そうだ。いつも隣にいるはずの人がいない。君と一緒に見るこの町が好きだったのだ。君のいない町は、こんなにも霞んで見えるんだ。
今になってようやく私は気づいたのだった。
しばらくその場所で、町を見ているとふと視界に入り込んだものがあった。花束だ。それもいろんな種類の花をたくさん使っている。どれもこれもこの山で採れるものばかりだ。
なんでこんなところにあるんだろう。そう思った私は、花束を手に取ってよく観察する。すると、花束の中に何が埋まっていることに気がついた。私は、それを取り出す。
そこにあったのは、小さな手紙。その中身に書かれていたのは二言。
『ごめん』
『ありがとう』
私は、それが彼からのものだと直ぐに気がついた。そして、そこに込められていた意味も。
私は、思わず泣き叫んだのだ。
「リョーマのバカヤロォォォ!こんな中途半端なことしてんじゃねーよ。絶対見つけてやっからな。覚えとけとよ」
しばらくの間、山からは泣き叫ぶ声が聞こえていた。
長い年月が経ち、二人が最後に出会ったのは、私の死に場であった。
あらゆる人を殺しては救い、そんなことを続けて自分も今にも死にそうになっている。そんな時に彼ら二人は、最後に出会ったのだ。
そんな二人が最後に何を思い、何を話し、何をしたのか、それはその二人にしか知りえないことであった。
ここまで見ている方がおられるかは分かりませんが、今までサブタイトルにその小説のタイトルを打ち込んでいましたが、その仕様をサブタイトル内の『』の中とするようにします。(どうでもいい)
お読みいただきましてありがとうございました。