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深夜N分、短編の集い  作者: ところてん祐一
6/7

第五夜:『金木犀』

遅くなりましたが、9月29日分です。

今回の深夜のN分小説執筆のお題は、「回想」、「キンモクセイ」、「飛行機雲」で時間は120分です。

こちらは、「キンモクセイ」のみお題として使っています。

それでは、どうぞ

  それは、少し肌寒くなってきた初秋の頃のことであった。

  僕のお気に入りの場所であった金木犀が一面に咲き広がる丘で、初めて彼女と出会ったのだ。

  彼女は、その場で何をするでもなく、ただ一心不乱にどこかを見つめていた。

  僕は、そんな彼女の姿を見て何か感じるものがあったのだが、あいにくそれを言葉にする手段を持ちえていなかった。


  丘からどこかを見つめる彼女、それを見つめる僕。第三者の目からみると、きっとそれはどこかおかしな光景であろう。見ようによっては、僕が彼女をストーキングしているように見えるかもしれない。

  そんな光景がしばらく続いていたのだ。

  それからしばらくして、僕は、はっと我に返ると帰路の道へとついた。いつもならこの丘でぼーっとしてから帰るのだが、さすがに今日は彼女もいるので、そんなことは出来なかったのだ。

  こうして僕だけが知る、僕と彼女の初の邂逅が幕を閉じたのだった。



  翌日、僕はいつもの様に少し早めに朝起き出して、朝食を食べて、学校へと向かう。

  僕が学校へと向かう時間はいつも早いので、たいてい誰にも会わない。しかし、いつもの時間に学校につき、靴を履き替えていざ教室へ向かおうとした時、遭遇したのだ。なんとそれは、昨日の彼女であった。

  彼女は、僕の存在に気づくと声をかけてくれる。


 「あら、おはよう。随分と早いのね」


  まさか彼女の方から声をかけてくれるとは思わず、一瞬唖然としたが、このまま挨拶を返さないと失礼だと思い直し、挨拶を返す。


 「おはようございます。僕はいつもこの時間ですので。

 そ、その、早いですね?」


  戸惑っていた僕は、言葉使いが変になってしまった。

  そんなことなど全く気にする素振りもなく、彼女はやや微笑みながら答えてくれる。


  「ええ。だって、私生徒会長ですから。誰よりも早く学校に来て皆のために働かないといけないのよ」


  そう言って、彼女は胸の生徒会長のバッジを見せてくれた。

  どうやら、僕の早いですね?といった質問と彼女のことをなんと呼べばいいのかわからない、二つのところに答えをくれたようだった。


 「悪いけれど、仕事があるから先に行くわね。早く来たからといって授業中寝ないようにね」


  そう言い残すと、彼女は生徒会室がある方向へと去っていった。

  少しの間、そこで僕は立ち尽くしていたが、やがて頭を振って、気を返すと自分の教室へと向かっていった。



  教室へ辿り着くと、やはり誰もいない。自分の席へと座り、ある程度準備を整えると、僕はつい先程の出来事を思い出していた。

  なんて気高い人なんだろう。僕の口からはそんな言葉が出ていた。気高いなんて言う言葉をろくに理解もしていない僕だが、彼女の品のある佇まいや雰囲気、そしておそらく一人で朝早く来て仕事をしているだろう風景を思い描いて、正にこの言葉がピッタリだと思ったのだ。

  正に彼女に陶酔していたのだ。酔いしれいたのだ。たったの一言、二言の会話だけで。

 その後、僕は、教室にクラスメイト達が入ってきて、僕の数少ない友人に肩を叩かれるまで夢みごちであった。



  今日も一日の授業が終わり、放課後となった。

  僕は、先生から用事を言いつけられていたので、帰るのが少し遅くなっていた。

  秋の夕焼けがピークとなり、今まさに落ちていこうかと言う時に、学校を出ていつもの場所へと向かう。夢見の丘と言われる金木犀が咲き誇る丘だ。勿論、金木犀はこの季節にしか咲かないし、咲いてる期間も短い。だからこそ、より一層この丘が映えて見えるのだ。

  そして、そんな場所は僕だけが知る秘密の場所なのだ。


  この丘で寝転がりしばらくぼーっとしていると、どうやら誰かが来たようだ。ここに来る人なんていないのに珍しい。せいぜいが昨日の彼女ぐらいだ。そう思っていた。

  やってきた人物が少し驚いたかのように声を上げていた。


 「あれ?君は、今朝あった人?」


  そうかけられた声に聞いた覚えがあったので、顔を上げるとそこには、生徒会長もとい昨日の彼女がいたのだ。


 「お疲れ様です。会長」


 驚く彼女にそう声をかけたのだった。

 自分でも驚くぐらいフランクな話しかけ方だつた。

  しばらく唖然としていた彼女であったが、少し落ち着いたのか言葉を発した。


 「六花よ…。ここではそう呼んでちょうだい。学校では無いのだから」


 どうやら、名前を教えてくれたようだった。

 僕もまだ自分の名前を名乗っていないことに気づき、改めて名乗る。


 「穂ノ原秋風です」


 「そう。秋風君ていうのね。変わった読み方をするのね」


 漢字を教えると彼女はほのかに微笑んでそう言った。


 「ねぇ、秋風君はいつもここにいるの?」


 彼女は、ふとそう尋ねてきた。

 それに僕は答える。


 「ええ、そうですよ。僕はいつもここに来るんです。僕だけが知ってる、僕だけの秘密の場所だから」


 でも六花さんには、知られちゃってるみたいですけどね、と僕は続けた。


 「私も最初から知っていたわけじゃないわ。

 昔、とある男の子から教えてもらったのよ」


 どうやら、別の誰かに教えて貰っていたようだ。僕だけが知っている、ではなくなってしまい少し残念な気持ちもあった。それでもそれ以上に六花さんに知ってもらえて嬉しいという気持ちもあった。それが何故なのか自分でも分からなかったが。


 それ以降、二人の間に会話は止まっていたが、心地よい空間がか流れていた。

 そして、時間がたちやがて夜の闇が出てくると二人は帰路の道へと着いたのだ。



  その日を境に僕の日課に新たな出来事が加わった。

  いつもは、学校へ行って、放課後になるとあの岡へいく。そんな毎日の繰り返しだったが、そこにあの丘へ行って六花さんと話すという日課が加わったのだ。

 たわいもない話から学校での話、とにかく色んなことを話し合った。



 時は、少し進み、やがて金木犀の花が散っていこうかとする頃、僕はひとつの決心をしたのだ。

  そう、それは告白だ。告白なんて生まれてこの方初めてでやり方なんて一切わからないけど、それでもしようと思ったのだ。


  いつのものように学校へいき、放課後になり、いつもの場所へと向かう。

  そこでぼーっとしているとやがて彼女がやってくる。

  彼女は、今日も気高かった。ここへくると少し和らいだ表情を見せるけど、それでもその仕草には品がある。僕には、一生真似出来ないことだ。

  僕は、バクバクいう心臓を抑えながらも勇気を振り絞って彼女に告白をしたのだった。


 「六花さん!ぼ、僕。この場所で初めてあなたの姿を見た時からずっと六花さんに惹かれてました。こうして、この場所で話をするようになって、どんどん気持ちが強くなってきて、それで…。好きです。僕と付き合ってください」


 彼女は、とても驚いたかのような顔をしていた。そして、少しの間の後、僕に疑問をぶつけた。


 「そ、そのここで初めて見た時っていつのこと?」


 「朝、学校でたまたま六花さんと会った時。生徒会長だと教えて貰った時の前日です」


 彼女は、少し考えるような素振りを見せた後、声を発する。


 「そっか。あの時、君に見られていたんだね」


 「ごめんなさい。いつもの様にこの場所に来たら先に六花さんがいて、その姿に見惚れてしまって、それで…。そのまま帰ってしまったんですけど」


 しどろもどろになりつつ、僕は答える。僕の心臓の音はさっきからなりっぱなしだ。


 「そうだったんだね」


 彼女は、短く答えた。

 そっか、君だったのか、そんな呟きは、決して僕の耳には届かなかった。


 それから、彼女は少しの間をとったあと、返事をした。


 「ごめんなさい。」


 そう短く、ポツリと一言を。


 「僕の方こそごめんなさい。」


 思わず僕の口からはそんな言葉が出ていた。告白をしてごめんなさい、と。

 先程までうるさいほどに高まっていた僕の心臓は、冷たく落ち着いている。正直な所、泣くの我慢するのでいっぱいだった。

 先程まで晴れ渡っていた僕の心は、薄暗いモヤモヤに包まれている。

 一人になりたい。そう思っていた時だった。彼女から再び言葉が紡がれる。


 「その、勘違いしないで欲しいのだけれど、決してあなたが嫌いって訳じゃないの。むしろ気になってはいるんだと思う」


 言葉が続いていく。


 「でも私は、秋風君のことが本当に好きなのかわからない。決して、中途半端な気持ちであなたに向かい合いたくないの。だからごめんなさい。でも私の気持ちを知る為にも、アナタことをもっと知る為にもこれからも私といてください」


 彼女は気高い。

 彼女は、気高かったのだ。

 僕が先程まで必死に我慢していた涙は、まるで滝のように僕の顔をこぼれおちていた。

 彼女はら気高かったのだ。決して中途半端な気持ちでなく、真っ直ぐに、眩しいほどに僕の告白に、僕の気持ちに真剣になってくれていたのだ。

 悲しい?嬉しい?僕の感情は爆発して、もう何が何だかわからなかった。

 それでも一つだけこんな僕にもわかったことがある。

 彼女は、僕に真剣でいてくれたのだ。ただ、そのことが嬉しかったのだ。


 僕達の関係は、またこの丘で話し合うそんな元の関係に戻る。いや、元の関係ではないのかもしれない。

 それでもどんな結果になろうとも彼女が僕の気持ちに真剣になってくれているというのなら、もっと、もっと頑張ってみよう。

 そう思えたのだった。



 僕の初恋は沈んでしまったけれど、二回目があるというのなら、秋が過ぎて冬になっても、春を迎えらるように精一杯もがいていこうと思ったのであった。

ここまで見ておられる方はいるかはわかりませんが、一応裏設定なようなもの。

キンモクセイの花言葉をイメージして、本作品は執筆させてもらってます。

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