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深夜N分、短編の集い  作者: ところてん祐一
5/7

第四夜:『この二人の世界に祝福を』

9月15日、22:00の分です。

今回のお題は、「世界の果て」、「二人で逃げ出した」、「生まれ変わったら」の三つで、全てをつかわさせてもらっています。

時間は、いつものごとく120分となっています。

それでは、どうぞ。

9/18,1:14段落を訂正。何故かおかしくなってた前の話の分も訂正しました。

 そこは、見渡す限り何も無いそんな場所であった。

 唯一目につくものは、目の前にある何かのパーツらしきものが積まれていたガラクタの山であった。


 ここはどこなのだろうか。僕は、何をしていたのだろうか。あのガラクタは一体何なのであろうか。

 何一つ思い出せない僕の頭には、そういった疑問が次々と浮かび上がる。


 そうだ、もっと近くで見たら何かしら分かるかもしれない。

 そう思い、僕は身体を動かそうとした。しかし、僕の身体はピクリともしない。もう一度体を動かそうとする。それでも結果は変わらず、うんともすんとも動かない。動かざること山の如しだ。


 それから何度となく試して見ても、結局結果が変わることは無かった。

 僕の身体はどこか壊れているのだろうか?結局の所、そのような結論に至ったのであった。



 それから少しの時間が経ち、僕はガラクタの山をぼーっと見ていた時、どこからか声が聞こえてきた。

 まだ遠い。でもかすかに聞こえてくる。

 これだけ周りがみわたせる場所なのに姿がまるで見えないのは、おそらくまだ遠くにいるからだろう。それでもかすかに聞こえる声。

 なんとも不思議な現象であった。

 声の主がここまでたどり着くにはまだ時間がかかるであろう。それまでの間一眠りしよう。そう思い、僕はその目を閉じた。





 それは、とある夏の日のことであった。

 僕と幼なじみの少女はいつもの山に来ていた。この山には、何度も来ているので道には迷わない。それに秘密の道だって知っているのだ。


 この山は、僕らのお気に入りの場所であった。なんで山なんて、と思うかもしれない。確かに都会であれば、街に繰り出したりするのだろう。でもここは山々に囲まれた場所なので山しかない。町もあるが、そんなお洒落た場所なんてない。

 つまり、自然と遊ぶ場所が山になっていくのだ。



 この山に一緒に来た彼女は、いつも僕にこういうのだ。


 ねぇ、ねぇ、今日は何しよっか?


 お決まりのパターンだ。

 そして、僕はいつもその場で考えて、彼女と遊び始めるのだった。

 川に入って泳いだり、釣りをしたり。この広大な山を使って2人だけのおにごっこをしたり、秘密基地を作ったり。色々なことをしていつも遊んでいたのだ。


 今日は、この前見つけた秘密の道を進んでみよう。そういうことになった。

 その道は、パッと見じゃ見つけづらく、ずっとこの山で遊んできた僕らだからこそ見つけられた、そのようなわかりにくいところにあったのだ。

 もちろん道なんて整備されちゃいない。草をかき分け、坂道を登り、そんな果てに開けた場所に出た。

 そんな僕らの目の前に現れたのは、大きな洞窟であったのだ。


 僕らは大いに喜んだ。

 こんな所、普通に山で遊んでいれば気づけない。そんな場所にあったのだ。

 僕らは、出会ったばかりのその場所をさっそくお気に入りの場所にしたのだ。まだ中に入ってもいないのにそう決めたのは、それは彼らにとって自然の秘密基地であったからであろう。


 そこで、一休みすると僕は彼女にこう提案したのだった。


 ねぇ、この中を探検してみようよ!


 僕の提案に、彼女はにっこり笑って、いいよ、と言ったのであった。


 こうして、僕達は洞窟の中に入って行ったのだ。





 声…

 声が聞こえる。


 僕の意識は暗闇の中から目覚めようとしていた。

 ……。

 …………。


 目を開くと、やはり目の前にガラクタの山が存在していた。


 何か夢を見ていた気がする。

 なんとなく懐かしい夢だった気がする。しかし、何も思い出せない。本当に夢を見ていたのかそれさえも分からない。



 眠りに落ちる前に聞いたかすかな声が少し大きくなってきたような気がする。それでもはっきりとは聞こえないのであるが。

 声の聞こえる方向を見る。

 そこには、黒い人のようなシルエットが見える。どうやら先ほどより近づいてきたようだ。

 しかし、まだまだそのシルエットだけじゃ何もわからない。

 まだ時間がかかりそうだ。

 それまでの間、もう一眠りしようか。願わくば、夢の続きが見られるように。





 洞窟の中に入ると、そこはどうやらかつて何かをしてたような跡がそこらじゅうに見て取れる。

例えば、レールだ。下にレールが敷かれていて、トロッコがあればそれに乗って進んでいけそうである。残念ながらトロッコは見当たらないようであるが。


 今は、全く使われていないであろうその痕跡達に僕らは目を輝かせたのであった。

入口でこれだけのものがあるのだからもっと奥はどうなっているのだろうか。そう思うだけで、とてもワクワクしたのであった。


 しかし、結局その日は入口付近の散策だけをして、家に帰った。奥まで行くには、さすがに時間が足りないそう思ったのだ。



 それから、その洞窟に何度も通った。彼女と一緒に行くこともあれば、一人で行くこともある。

ただ、共通していたのは、奥には一切入らなかったことであった。勿論、興味はあったのだが、一度入ってしまうと、二度と帰って来れないそんな気がして、入らなかったのだ。



 そんな平和な日々も長くは続かなかったのだ。幸せと不幸は紙一重なのだ。そう、たった一本の棒だけで辛いことへと変わってしまうのだから。





 声。

 声が聞こえる。


 僕の意識は、今一度覚醒して行った。


 目を開けると、何か違和感を感じた。それが何かはわからない。ただ、何かあるとすれば、それはおそらく目の前のガラクタの山であろう。他には何も無いのだから。

 僕は、そちらを注視した。

 やはり、違和感を感じる。


 そうか、僕は気がついたのだ。かの山の量が増えていることに。

 しかも、ただ増えているだけじゃない。厳密には、増えてはいないのだろう。山積みされていた大きなパーツがさらに小さく分解されて、その分かさが増していたのだ。

とはいえ、それがなんだというのだろう。それが変わったからと言って何も起こるわけじゃない。

 この場所は、酷く閑散としていて、寂しい。まさに世界の果ての果て、そのまた隅っこって感じなのだ。誰にも気づいてもらえない、そんな寂しい場所なのだ。


 声が聞こえる。

 先ほどよりもはっきりと聞こえる。もう少しでしっかりと聞こえそうだ。

 僕は、もう一度声が聞こえる方を見る。先程の黒い人のようなシルエットと違って、もう少しはっきりとその姿が見える。

 それは、どうやら少女のような姿をしているようだ。

 それは、非常にゆっくりとしたスピードであるが、1歩ずつ、1歩ずつ、こちら日がづいてきているようだ。

 まだ時間はかかりそうだが、それでももう少しでこの場所までたどり着けそうだ。


 僕は、頑張れと彼女を応援した。しかし、その言葉は口から紡がれることは無い。どうやら言葉も発せないようだ。


 僕は、いったい何者なんだろうか?


 そう思うと同時に意識が暗転していく。決して、自分から手放すでなく、強制的に。

月並みではあるが、それはこれからの不吉なことを表しているようで。





 それは、突然のことであった。

 町は、赤く燃え上がっていた。ほんの数分前までは、のどかな田舎町であったにもかかわらずだ。

街の方では、銃のような音が聞こえる。


 たまたま、僕は、山の木に登って遊んでいたから気づいたんだ。突如、町が赤く燃え上がった瞬間を。

 何が起こったのか。何が起きているのか。全くわからない。でも僕の中のセンサーは、逃げ投げればやばいと警告を流している。

 木の上で動揺して動けなくなった僕の視界に、一人の兵士らしき人物が目に映る。銃を持ったりなどしっかりとした装備した姿が目に焼き付く。

 こんな場面ではあるが、ふとこんな言葉を思い出した。


 こちらから見えるということは、相手からも見えるという事だ。


 いや、こんな場面だからこそ思い出したのかもしれない。

 なんの根拠もない言葉であったが、僕は急いで木の上から降りた。幸いなことに、見えた相手の姿はまだ遠い。それにこの山で遊んできたから、土地勘はあるのだ。

 そうして、僕は急いで山の中へ逃げ出したのだ。


 ただ、一つ気がかりなことが僕にあった。それは幼なじみの少女のことである。

不幸中の幸いなことだが、彼女は今日町の中にいない。僕とこの山に入っているのだ。

 僕の家は、この山の中にある。それも人目の付きにくい場所だ。そこに彼女もいるのだ。

 僕は、急いで家へ向かっていった。彼女に悲劇が起こる前に。なんとしてもこの惨状から一緒に彼女と逃げるのだ。




 視界が揺れる。

 かすかに見える視界の中には、少女のような姿が見える。

 誰かに似ている…。

 しかし、その姿も徐々に黒く塗りつぶされていき、何かわからなくなってしまう。

 そして、目の前が真っ暗闇へとなった。



 僕は、懸命に走ってようやく家にたどり着いた。どうやらまだここまではあの兵士のような人は来ていないようだ。

 僕は、家の中へ入ると彼女を呼ぶ。すると、直ぐに彼女が飛び出してくる。彼女も状況が分かっていないようだが、先ほど銃声が聞こえたらしく怯えていた。

 僕も彼女も決して状態は良くないが、急いで逃げ出さなければと思い、外へと飛び出した。



 外へ出ると、彼女はどこへ行くの、と僕に訊ねた。

 わからない、と答え逃げようとする僕らの前に一人の男が表れた。


 僕らは、すぐ逃げ出そうとするも彼からは逃げることはできなかった。しかし、襲われることもなかったのだ。


 彼は、これがヤツの息子か、と何事か呟くと僕達に今の状況を教えてくれたのだ。


 彼の話によると、どうやら南方で行われていた戦争の余波がここまで来ているそうで、今敵方に捕まると大人は殺され、子供や女達は、様々な罪を持たされ、奴隷として使われるそうだ。

 例えば、その罪には、他人と仲良くしては行けない、話をしては行けない、などの罪があるそうで、1番ひどいものであると存在自体を許されない罪もあり、そもそも認識をしてもらえないのだそうだ。

 そして、そんな罪を解消するためには、敵方を殺していかないといけないなど正に悪魔のようなシステムの歯車へと組み込まれるそうだ。


 そして、最後に彼は、僕達に生き延びるための助言をくれたのだ。

 それはすなわち、この山のどこかにある洞窟を見つけだせ、と。


 ここも時期に見つかるので早く行け、と彼は僕らを急かした。

 僕自身まだ整理が追いついていなかったが、とにかく逃げ出さなきゃと思い、彼女と一緒に逃げていったのだ。

 運が味方をしたのか、例の大きな洞窟へと抜ける例の道は、自宅から近い場所にあったのだ。

 僕らはその道を一直線へと抜け、あの洞窟の前へとたどり着いたのだった。



 僕達は、洞窟の中へと入ると、迷わずに奥へ奥へと進んでいく。

 今まで嫌な予感がして入ってこなかったところであるが、後ろに戻ったところで、真っ赤な炎と鳴り響く銃声に殺されるだけなのだ。

 とにかく前へ進むしかない。そう思い、進んでいく。


 真っ暗な闇の中を無我夢中で進んでいく。

 しかし、すでに身体はボロボロであった。それはそうだ。遊びに来たのではない。ここまでなんとか逃げてきたのだ。

 僕は、それでもマシなほうであった。しかし、彼女はそうもいかない。既に体力がきれ、体はおぼつかない。

 それでも僕は、一人で逃げようとは思わない。時折、彼女を支えつつ、前へと進んでいく。


 決して、早くはない。しかし、1歩ずつ着実に進んできていた。

 それでも真っ暗な闇がずっと続いており、どこまで進んだのかもわからなければ、このまま進んでいっていいのかもわからない。

 それでも前へと進み続けた。


 いずれはおとずれるであろうその時が来た。

 彼女の身体が前へと進めなくなってしまった。

 僕は、彼女へと声をかけた。どう見ても決して無事なはずではないのに大丈夫?、と。

 彼女は、少し困った顔をしながらそれでも僕に弱々しい笑顔を浮かべ、大丈夫だよ、と言った。そして、少し疲れたから、先に行ってて、後で追いつくから、と言った。

 どうみてもあとから追いつけるような状態じゃないことは明白であった。

 それでも僕は一人で行こうとは思わなかった。

 だからこそ僕は、彼女に言ったのだ。


 そんなのダメだよ。絶対にいやだ。君を置いてなんて行けない。二人で絶対に逃げ延びるんだ。一人だけなんて意味が無い。君と二人だからこそ意味があるんだよ!


 僕は、雄叫びに近いような声を出し気合を入れると彼女を背負い、前へと歩き進めた。

先程の声で、場所がバレるなんて一切思わなかった。むしろ、そうして気合を入れないと僕自身も倒れそうであった。

 彼女と一緒に生き延びるんだというただそれだけを胸に持ち、前へと進み続けた。


 どのくらい進んだのであろう。前へ進んでは、倒れ、彼女をしっかり支え直してまた前へと進む。

そんなことの繰り返しであった。

 そうして進んでいくうちに希望とも言える光が舞刺したのが見えた。

 そして、それと同時に僕は、倒れて行った。しかし、この時倒れて気を失う寸前まで僕の中には、希望の光が差し込んでいたのだ。





 視界が開けてくる。

 眩しい。

 今回は、しっかりとその夢の内容を覚えている。最後に彼らがどうなったのかはわからない。それでも彼らには希望が芽生えたのだ。


 僕は、目を開ける。

 そこには、先ほどまであった黒く塗りつぶされた姿ではなく、はっきりとした少女の姿が目の前に映っていたのだ。


 少女は、僕の存在に気がついたようで、僕に声をかける。


 あれ?他には誰もいないのに、なんで君はここにいるの?


 僕は、分からないと答える。

 しかし、やはり言葉にはならない。そこは変わらないようだ。


 そんな僕の様子を知ってから知らずか彼女は言葉を続ける。


 きみ、動けないんだね。足がこわれちゃってるみたいだね。


 そう言うと、彼女は僕を抱き上げて膝の上に乗せて座った。

 この時、僕は、初めて自分の身体を見たのだけれど、どうやらロボットのような姿をしているようだった。


 ここには、ガラクタの山しかないのになんで君だけがいるんだろうね。

 でも不思議なことに君をこうして膝の上に乗せて一緒にいると懐かしい気持ちと安心した気持ちになるんだ。


 彼女は、そう言って僕の身体を撫でる。

 そして、僕自身も彼女から懐かしい雰囲気と何故か安心したという気持ちが湧き上がってくる。

 何故だろうか?僕は、彼女を知っているのだろうか。

 その時、僕の頭の中に映像が流れてくる。それは、夢の中で見たあの少年と少女が大きくなり、結婚している様子であった。

 もしかして、彼女は、この少女なのだろうか。そして、僕があの少年だとするなら…。


 どうやら、彼女の方も僕と同じような結論に達したようで、語りかけてくる。


 もしかして、君はキミなの?だとしたらこの懐かしい感じや安心出来る感じに納得が行く。

 ねぇ、どうなんだい?


 僕は、頷くかのように頭を下げる。どうやらこの動きは出来るようだ。しかし、それと同時にこの身体がボロボロだと悟った。もう少し動けばパーツが飛び出すだろう。


 やっぱりそうなんだね。この世界には、私以外だれもいなくて寂しかった。

 話すことも動くことも出来ないだろうけど、キミと一緒にいれて嬉しいよ。

 それでも願わずにはいられないよね。あの頃のように人の姿で2人だけを。


 僕は、大きく頷いた。例え、この頭が飛び出そうとも。

 例え、言葉を離せなくても、動けなくても、ロボットのような身体していて、すでにボロボロの状態だったとしても。

 彼女と一緒にいられるこの幸せを。

 願わくば、来世もまた二人一緒にいられることを。

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