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深夜N分、短編の集い  作者: ところてん祐一
2/7

第一夜:『夏の最後の不思議な思い出』

8月25日開催分

お題は、「線香花火」、「月の光」、「これでおわり」の3つです。

その中から「線香花火」、「月の光」のふたつを使って書かせていただいてます。

 猛暑の真夏が過ぎ、少しひんやりとした空気が入り混じる夏の終わり頃。

 朝から昼間にかけてはまだまだ灼熱の暑さが残り、活動する者たちの体力を容赦なく奪っていく。

 しかし、そんな暑さも夕方頃になると、徐々に引いていき、やがて少しの涼しさが交じることになるのだ。

 

 

 夕方になると、この夏の最期の活動を始めるセミたちの声や時折ひぐらしの声も聞こえてくる。

 そんな大合唱を聞くと、とても夏を感じるのだ。

 夏の風物詩は、セミだけじゃない。夏といえば花火だ。大きな夜空に浮かぶ鮮やかな花たちは、人々の心を魅了してやまない。そこには、大人や子供、ましてや時代などが挟み込む余地はない。心の底から僕は、そう思うのだ。

 

 勿論、花火は打ち上げだけじゃない。線香花火だってある。他にもいくつか種類はあるが、大きく分けるとこの二種類になるだろう。

 皆で一つの花を愛でるのが打ち上げ式、個人でひとつの花を愛でるのが線香花火。どちらにも違った魅力があるだろう。しかし、いつだって目立つのは打ち上げなのだ。

 でも僕は、声を大にして言いたいのだ。線香花火だって打ち上げに決して負けちゃいないんだと。

 確かに夜空に舞い上がるその様は、正に圧巻としか言い様がない。美しい…。美しいのだ。それは誰もが認めることだろう。

 しかし、線香花火は、個人個人で個性があるのだ。楽しむ人によって様々。それを友達や家族や周りの人達と共有できる。つまり、単純に二倍、三倍楽しめる素敵な魅力があるのだ。

 だからこそ、決して甲乙つけられないのである。

 

 

 日は沈み、少しの明るさを残して、空は徐々に黒く塗られていく。そんな空には、都会では中々見ることの出来ない星空が広がっていた。まわりが決して明る過ぎない綺麗な空気の残る田舎だからこそ成し得ることなのだろう。そんな世界に月の光がさし照らすなんと神秘的な光景であったことか。

 

 そんなまるで別世界だと言わんばかりの光景が広がる外に僕は飛び出す。

 そう。線香花火をする為だ。友達だって誘ってある。みんなで楽しんでこその花火だ。

 

 月の光は、思っているより随分と明るい。この光がこの夜空の遠く離れた向こうから届いているというのだから本当に不思議だ。

 昔、かの文豪は、愛しているという言葉を月が綺麗ですねと表現したそうだ。すごく有名な話ではあるけれどもそう表現したくなるくらい本当に綺麗で神秘的なのだ。素敵な何かが起こりそうで。

 

 皆が集まってきたので、庭先にて準備をして、線香花火に火をつける。

 それぞれが手に持つものから様々な色や形をした花火が飛びだす。

 黄色や赤や緑。色のパラダイスや、とどこぞの美食家のような言葉がふと漏れる。

 

 楽しみ方もそれぞれだ。

 一人座ってじっくり眺めながらする者。

 友達のと重ね合わせて楽しむ者。

 人の方に向けながらする危険な者。あっ、怒られてる。そりゃ、そうだよね。

 危険がないように気をつけつつ、持ち手を動かすことで、まるでキャンバスにアートを描くかのように楽しむ者。

 そして、そんな楽しんでる皆を見ながら時折真似したりして楽しむ者…。僕だ。

 

 やっぱり、線香花火はいいものだ。それぞれに個性がある。打ち上げじゃ、決して味わえない味がそこにはあるのだ。これこそが最大の魅力なのだ。

 

 皆の線香花火がそろそろ終わりを迎えようかとした頃、ふと月の光が僕達の方を強くさしたような気がした。

 改めて皆の線香花火の方を見てみる。月の光が強く振りさす皆の線香花火は、どれも甲乙つけがたいほどによりいっそう綺麗に輝いていたのだ。それは思わず見惚れてしまうぐらいに。それは言葉が発せないほどに。それは…陳腐な言葉しか浮かばないほどに。

 とても神秘的な出来事であった。

 

 僕が気がつく頃には、丁度皆の線香花火が最後を迎えようとしていたところだった。

 先っぽから発せられた綺麗な火の光がぽとりと地面におち、何も出なくなってしまったのだ。

 

 そんな光景を見ていて、ふと僕は気づく。そうだ、自分のはどうなったんだろう。もうみんなの分が終わりを迎えてしまった以上自分のも終わっているかもしれないと少し悲しくなったが、とにもかくにも自分のを見ることにした。

 頼む。まだ終わっていないでくれ、そう心の中で僕は願う。

 その時、僕は声を聞いたような気がした。

 そして、自分のを見た時、それは…。

 まるで、時が止まったかのように線香花火は輝きつづけていた。それも月の光が最高に良いところをさしているところで。

 これ以上ないというほどにキラキラと輝き咲き続ける様は、自分如きが形容出来ないほどのものであった。

 これほどの輝きはもう二度と見ることは出来ないだろう。

 花火の勢いは泊まるところを知らないかのように勢いよく輝き続ける。

 そして、僕は息をするの忘れたかのごとく夢中で見続けたのである。

 

 

 声。

 声が聞こえる。

 ……。

 …………。

 

 

 僕を呼ぶ声でふと目を覚ます。

 どうやら家の中で寝かされていたようだ。しかし、いつ寝てしまったのか記憶にない。

 隣にいたおじいちゃんに確認するとどうやら皆の線香花火が終わってしまった後、直ぐに僕は気絶していたらしい。それで、家の中まで僕を運び込んだそうだ。

 

 もしかして、あの出来事は夢だったのかなと思った。

 いいや、違う。あれは、実際に僕が見た出来事だったんだと直ぐに思い直す。

 じゃあ、あの出来事はきっと「」からのプレゼントだったのだろうと最終的に落ち着いた。

 きっと、もう二度とあんな出来事を見ることはできないだろうけど、それでも僕は決して忘れることは無いだろう。あの言葉では言い表せない神秘的な出来事を。

 

 僕は、あの出来事をこの夏休みの宿題の日記に残そうと思う。あの不思議な一日に起こった出来事全てを。

 あれこそがこの夏、僕の最高の最後の夏思い出だ。

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