3話 ルームメイト①
ギャグ回。
「すみません。 宿代を、貸していただけないでしょうか」
カーロンは呆然とした。
目の前には美少女。 それも飛び切りの。
「あ、あぁ。 良いけど」
「相部屋でもいいので――え? 良いんですか! ありがとうございます!」
子犬の様な愛らしさ。 金色の髪、瑞々しい肌、整った顔立ち、年不相応である、豊満な双丘。
一体何があったのだ。
時は、今日の真昼に遡る。
「美味し~い!」
酒場で料理に、舌鼓を討つ少女が一人。
名を、エリア。 ここ何時間も注文を途絶えさせない、腹ペコの美少女である。
「店員さーん、じゃんじゃん持ってきてくださーい!」
豪遊の極み。 うず高く積まれる皿は、彼女の実力を物語っている。
ざっと見て、カーロンの朝飯の数十倍に匹敵する量だ。 まぁ、カーロンの食事量は家庭の事情もあって少ないほうだが。
周りの客も唖然としている。 ……というか、いつの間にか酒場にいる人間のほとんどが、彼女に注目していた。
視線の集中。 それを鋭く感じ取ったエリアが、放った一言はコレだった。
「……見てたってあげませんよ」
い ら ね ぇ よ 。
恐らくだが、酒場中の心は一つになっただろう。 ――一人を除いて、だが。
「さて、と。 そろそろお財布が空になっちゃいますね。 まぁどうせ、銀行で降ろせば済む話ですが」
何を隠そうこの少女、金持ちである。 この国には全国チェーンの銀行があるのだが、日本円にして億を超える貯蓄があるのがエリアである。
「ありがとうございました! とっても美味しかったです!」
そのまま立ち去ろうとするエリアを、
「あ、ちょっと! お客さん、お勘定!」
店員が呼び止める。
「あ、そうでした。 食い逃げは犯罪でしたね、危ない危ない。
……面倒くさいので、カードで良いですか、カードで」
支離滅裂な思考・発言――ではなく、意味不明な未来言語。
「カ、カード?」
「あ、使えないんですか、ここ?」
「何ですか、それ」
「……財布の金で収まる額で良かったです」
残念ながら、キャッシュカードが使えるのは帝都だけですお客様。 なんでもこの銀行を作った人間が新たな取り組みとして始めている様ですが、地方にはまだ普及しておりませんので、ご了承ください。
勘定を終えたエリスは、すぐさま銀行に直行した。
今日の宿代すら、財布の残りでは払えないのだ。
しかし、何たる不幸。
今日は銀行の定休日だったのだ。 当然、お金をおろすことなどできない。
「――あ。 これって、やばいやつ……でしょうか」
つまりは無計画。 ボンボンのなせる業である。 いくら蓄えがあると言っても、その瞬間に使える金は限られているのだと言う事を理解するべきであるのだが、どうだろうか。
それが大体、昼下がり。
エリアがどうしようかと大通りを彷徨っていると、
「お、良いリンゴですねおじさん、それ一個下さい! ――あ、これおまけ。 頑張ってー!」
……とか。
「お姉さん、よさげな品物っすね! 見て行ってもいいですか? ――え? もうおばさんだって? そんなそんな! 立派にお姉さんしてますよ!」
……とか。
「店番かい、お嬢さん。 ――回復ポーションか。 お嬢さん美人だし、一本ぐらい買っておくね。 あ、これはお小遣いだよ、大事に使いなね」
……とか。 随分と気前のいい好青年を見つけた。
買うものには必ずチップを。 帰るときはお互い笑顔で。
太陽のような人だった。 彼女がその光に魅せられて、後をつけてしまうほどには。
彼が宿に入っていく。
エリアと同じように豪遊した彼は、軽い足取りで宿に入っていった。
――そして、時間軸は現在へ回帰する。