一話 どうして、こうなった。 ①
胸糞展開注意! 見たくなくなったら次話へ!
「この子の名前は、カーロンにしよう」
一人の男性が息子に『英雄』の名を与えてから、実に18年が経過した。
その息子は平凡だった。 特に目立った才能もなく、これは彼ら村人にはわからないだろうが――潜在能力は欠片もない。 いたって普通の、村人の子だった。
どうもその父親、楽観的であったらしい。
英雄の名でも付ければ立派に成る等と勘違いしていたようで、そんなものだから息子も平凡なのだ。 世界はそんなに簡単なものではなく、村人風情に幸運が舞い降りる確率はほぼゼロに等しい。
元は、自分が蒔いた種。 しかし彼は、あろうことか息子に、
「情けない。 そんなんじゃ英雄の名が泣くぞ、カーロン」
農作業の最中。
「そんなんでどうする。 それでは名声など得られんぞ、カーロン」
食事中。
「見ていられん。 お前にその名を与えたのは間違いだったな、屑」
村を訪れた冒険者に、剣の稽古をつけてもらったとき。
そんな言葉を何年も、無責任に叩きつけた。
妻は抵抗しなかった。 そうすれば男は怒ると、わかっていたからだ。
娘――その息子にとって、妹にあたる――は、男に味方した。 情けない凡人の兄に対し何の経緯も持たず、あろうことか生まれ持った魔術の才能を磨くためと言って、実の兄にその矛を向けた事もあった。
少年、カーロンはそのような環境で育った。
土を握りしめることしかできなかった。
母親に泣きつくことすらできなかった。
幼馴染は、同年代の美形――村では秀才と言われた少年と結婚が決まり、最早カーロンになど見向きもしなかった。
何一つ、恵まれていることはなかった。
前世で悪徳を成した罰を受けたのだろうか。 いや、きっとそうに違いない。 でなければ、いったい誰がこんな仕打ちを、一人の人間に与えられるだろうか。
家族全員に復讐しようと、そう考えたこともあった。
だが、無理だとわかった。 どうあっても、妹には勝てないのだ。
生きること。
それだけが、彼の矜持だった。