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総指揮官のため息

――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種        三一六九万Pt

闇の軍勢         五五二九万Pt

聖なる者(降参)     一二五〇万Pt

メラゾーマでもない(降参)一〇三三万pt

――――――――――――――――――――


 ウルトから届いた敵戦力の分析報告を読みながら<闇の軍勢>の総指揮官を務める<真祖吸血鬼エルダーヴァンパイア>シエルはため息をついた。


「ほんとうに徹底しているわぁ」

 その美しい柳眉を潜めながら言う。


 のんびりとした口調だったが、内心は焦っていた。敵戦力は総てゴブリンの上位種であった。


 緒戦においてウルトの部隊は一万匹以上の敵兵を屠ったにも関わらず、スコアは一二〇万ポイントほどしか得られなかったという。


 <宿り木の種>は雑魚モンスターの代名詞である<ノーマルゴブリン>を大量召喚し、少なくとも育成させたという事である。つまり<闇の軍勢>と同じ手段によって戦力を確保したという事だ。


 成長しきったゴブリンは下手な星付きモンスターよりも強力だ。しかし、配置コストは召喚コストの一〇倍である以上、多大な労力を支払って倒しても一〇〇ポイント程度のスコアしか得られない。


 更に<宿り木の種>は育成したゴブリン達に高価な銀製武具を装備させて戦闘能力の底上げを図っているらしい。もちろん敵を倒したところで武具分のスコアは得られない。


 加えて銀製武器は聖水によって清められているらしく、この銀製武具を味方に使わせるのも不可能だった。


 強い光属性を持つ装備品を闇の眷属が装備すれば大ダメージを受ける事間違いなしである。現状、この武具を使用出来るのは巨人族だけなのだが、体長五メートルという大型モンスターが使うにはゴブリン用の武器は小さすぎる。


 聖水による浄化は戦力の補充さえ防いでいるという。死霊達が倒れた仲間をアンデット化――生前の知性は失われるが三ツ星級モンスターを素体とすれば強力な不死者を練成できる――しようと試みたそうが、銀製武器によって殺されているため使い物にならないという。


 本当に徹底している。こちらがやりたい事は事前に全て潰されてしまっているのである。


「こんな事なら残りのギルドは潰さなければよかったかしら……」

 これに比べればまだ残りのギルドのほうが隙があった。


 五ツ星級の<大天使>を苗床として<混血天使>を量産した<聖なるかな>。

 ギルドバトル内で魔物を殺して<上位悪魔>やその眷属、更に大量のアンデットやゴーレムを作り出した<メラゾーマでもない>。


 両ギルドともこちらでは考え付かないような手段によって大戦力を作り上げたものの、まだ付け入る隙があった。


 もちろん四天王たるプリムやティティの活躍、なにより状況が上手く噛み合ったからこその勝利であったとは理解している。


 それでも今の状況よりはましだったろう。


 <メラゾーマでもない>ならびに<聖なるかな>の攻略を終えた<闇の軍勢>は、残る<宿り木の種>へ三方向からの進攻を狙っていた。両ギルドは既に降参し、生き残りのモンスターやアイテム類を引き払っている。ただし各ダンジョンとの接続までは切られていない。


 つまり降参してようが、ギルドバトル終了まではダンジョンを自由に行き来できるという事だ。そこでシエル達は戦力を三つに分け、<宿り木の種>へと向かわせる事にしたのだ。


 せっかくの大戦力を分けるのは気の進まない話ではあったのが、正直な所、こうでもしないと攻略が進められなかったのである。


 第一陣を退けたウルトが<宿り木の種>への偵察を行った結果、かのギルドダンジョンは巨大な要塞と化していたそうだ。


 聳え立つ城壁は厚く高い。だというのに目の前のスペースは狭く、大軍を展開する事が出来ない。足元はぬかるんでいて、水溜りには聖水が混ぜられているそうだ。


 城壁に開けられた僅かな隙間からは強力な銀の矢や魔法が放たれ、盾を並べて進めようにも城壁にあるカタパルトやバリスタといった攻城兵器のせいで近づく事さえままならない。


 シエルはこれまでの動きから三ギルドは同盟関係、そこまで強固な繋がりではなくても<闇の軍勢>に対して共同戦線を張っていただろうと予測していた。


 三方攻めはその隙を突くためのものだった。<宿り木の種>と共同戦線を張っている二ギルド間にはまともな防衛設備など存在していないと思ったのだ。


 しかしどこに隠れていたものか、部隊を整えて両ギルドに押し入ったところ、大量のゴブリンが存在していたという。


 まずは出入り口を調べるために放った小規模な偵察部隊が襲撃され、更に追加で派遣した一〇〇〇名単位の先行部隊まで手痛い反撃を受けてしまっていた。


 ウルトが考え出した<範囲回復戦術>によって何とか被害は食い止められたが、この策がなければ先行部隊ごと磨り潰されてしまっていてもおかしくはなかった。


 戦力の出し惜しみをせず、四天王の二人を指揮官とした五〇〇〇名規模の攻略部隊を派遣することでどうにか橋頭堡を確保出来た。


 それなのに――


「何で、味方との出入り口まで要塞化しているのかしら……」

 思い通りにならない攻略げんじつにシエルは頭を抱える。


 しかも<聖なるかな>側の要塞施設ではカタパルトやバリスタのような破壊力に優れた防衛設備が充実しており、ティティが率いる巨人族部隊は未だに城壁に取り付く事さえ出来ていない。


 逆に<メラゾーマでもない>側は聖光灯や聖水といった各種アイテムによって浄化され尽くしており、プリムを中心とした闇の眷属達は光属性対抗装備がなければダンジョン内に入る事さえ出来ないという。


 ――いっその事、撤退して守りを固めてしまおうかしら。


 幸いな事に<闇の軍勢>は<聖なるかな>に所属する五ツ星級<大天使>アルファエルの討伐に成功した。五〇〇〇万ポイントという大量のスコアを一気に稼ぐ事が出来たため順位を逆転できている。


 全員で決戦場に戻り、守りを固めればこのまま逃げ切れるかも知れない。


 考えれば考えるほど妙案のような気がして――シエルは頭を振って考えを打ち消す。守勢に回るという事は敵に主導権を明け渡すという事だ。


 相手はダンジョンバトルにおいて一〇八連勝を達成した<迷路の迷宮>である。あの戦巧者が繰り出してくるであろう奇策を全て跳ね除けられる自信がシエルにはなかった。


 そもそも撤退を指示したとして素直にさせてくれるだろうか疑問である。きっとあの手この手で撤退を妨害し、嬉々として追撃部隊を放ってくるだろう。


 むしろ敵の狙いはそこにある気がした。主導権を渡せば最後、何とか拮抗出来ていた戦況もそのまま転がり落ちるような気がする。


 続けて伝令達が走ってくる。


「……今度は何、かしら……?」

「シエル様! 占領している<聖なるかな>から再び侵入者が! 件のゴブリン共です! ティティ様のおかげで撃退できましたが死傷者は一〇〇名を超えています。ティティ様は一度、前線から戻られ、後方の警戒に当たられるとの事!」

「<メラゾーマでもない>では出入り口手前の迷路を警備していた部隊からの連絡が途絶えたそうです。こちらの被害は二〇〇名ほどになりそうです。現在はプリム様自ら襲撃者の探索に当たっています。その間の指揮を頼みたいそうです」

 次々と齎される凶報にシエルは頭を抱えた。


 どうにか出入り口を確保したかと思えば今度は少数精鋭によるゲリラ戦を展開されてしまっている。大軍を展開するようになった事で足回りが悪くなった所を狙われたようである。


 ――本当に、何なのかしら……。


 真綿で首を絞められる感覚というのはこういう事を言うのだろう。どんな戦略を用いて進んでもしばらくしたら行き止まりが待ち構えている。


 思考の迷路に嵌ったシエルは気分転換に紅茶でも淹れようと立ち上がった。


 その時、焦った様子でこちらに駆けて来る伝令の姿が見えた。


 ――何故、指揮所側から伝令が?


「大変です! 魔王城が、魔王城が賊に襲われています!!」



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