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そして戦端は開かれる

 決戦場の出入り口には育成した一ツ星級モンスター<ゴブリンハンター>が整然と並んでいた。土魔法により作られたコンクリートの防壁に隠れながら開戦の時を待っている。


「弓隊、構えッ!」

 キールが声を張り上げれば、狩人達は指揮官の命令に従い、素早く銀弓に矢を番えた。


 弦が限界まで引かれる。巨大蜘蛛の糸から紡がれたそれが今にも千切れんばかりの音を立てた。


 狙いはもちろんその先に居るであろう<闇の軍勢>だ。人狼、吸血鬼、巨人、死霊。敵はいずれも一筋縄ではいかない魔物だ。


 キールには<闇の軍勢>がどのような手を打ってくるか分からなかった。人狼の速さ、巨人の強さ、吸血鬼のタフネス、死霊の魔力、取れる手段はいくらでもある。しかし五千を超える強弓が一斉に放たれたらさすがに少しくらい警戒してくれるだろう。


 初手でどれだけ相手を警戒させられるか。ここが勝負だ。警戒すれば攻勢は弱まるし、選択肢だって狭める事が出来る。出来るだけだらだら戦争していたい<宿り木の種>からすればこの初手こそが一番重要なのだ。


 キールは大きく息を吸う。


「撃てええぇぇぇ――ッ!」

 開始一秒前、銀の矢が一斉に放たれる。


 直後にギルドバトルが開始される。ダンジョン同士が接続されたその瞬間に五千の矢が入り口を通過する。


「……やったか?」

 出入り口の向こうは見えない仕様になっている。が、初手が空振りに終わったかどうかはモニターを見ればすぐに分かった。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種         五三万Pt

闇の軍勢          一三万Pt

聖なる者            〇Pt

メラゾーマでもない       〇pt

――――――――――――――――――――


 弓矢によって犠牲者が出ている。つまり、敵軍はダンジョン前で待ち構えている事の証明であった。闇の軍勢側にポイントが入っているのは陣地内での戦いでコストの二五%が得られる仕様のためだろう。


「弓隊、矢を放ち続けろ! 魔法隊は<火矢>を一斉詠唱!」

 キールは続けざまに指示を出す。一ツ星級の<ゴブリンメイジ>が、あるいはその上位種たる二ツ星級の<ゴブリンウィザード>が一斉に魔法を詠唱し始める。


 <火矢>は攻撃魔法において最も初歩的な魔法である。威力は低いが、その分だけ詠唱は早く終わるし、タイミングだって合わせやすい。


「撃てッ!」

 キールが言えば魔法が同時に放たれた。低級の魔法とはいえ五千もの数が重なれば遠目からだと火の壁が動いているように見える。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種         五三万Pt

――――――――――――――――――――


 スコアは動かない。恐らく敵は火矢の群れを避けたか、結界などで防いだのだろう。敵の主力である<吸血鬼>や<死霊>は優れた魔法使いである。五千の<火矢>による<連鎖>さえも防いだのだ。


 炎が収まったであろう頃合を見計らい、キールが指示を出す。


「斥候隊、水は被ったな? よし、浸透しろ!」

 次は斥候部隊の出番である。<ゴブリンアサシン>や<ゴブリンハンター>といった隠密系のゴブリン部隊が敵ダンジョンへと侵入する。


 連鎖させた<火矢>による爆発で出入り口付近の視界は悪くなっているだろう。また爆発の影響で罠の類も暴発あるいは破壊されているはずだ。そこで斥候部隊を送り出し、敵ダンジョンの様子を探らせるのだ。


 しばらくして斥候部隊のゴブリンが戻ってくる。敵ギルドダンジョンは<宿り木の種>と同じく出入り口が直接<決戦場>と繋がっているらしい。さらに出入り口から一〇〇メートルほどの位置に五〇〇〇近い魔物の軍勢が居るとの事だ。


「なるほど考える事は同じか」

 <決戦場>は罠や施設類は設置出来ないが、配置モンスターの数に制限ないため大部隊を展開しやすい。つまり火力を集中させやすいのである。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種         六二万Pt

闇の軍勢          一七万Pt

――――――――――――――――――――


 スコアが動く。


「おっと、もう見つかったか」

 斥候部隊には<隠蔽>や<影縫い>などの各種潜入スキルを使い、敵陣内に浸透するよう指示を出している。余裕があれば暗殺も行えと。しかし、さすがに人狼達の鼻は誤魔化せなかったようで多数の被害が出ていた。


「弓隊は攻撃を再開。狙いは二〇〇メートル先! 本隊はそのまま突撃準備!」

 斥候の情報から弓兵が敵陣中央に向けて矢を放つ。銀の剣を携えた<ゴブリンナイト>と彼らに率いられる<ゴブリンウォリアー>が一斉に走り出す。


 後方部隊もそれを支援する。矢は放物線を描くため、遠目を狙って放てば味方に当たることはない。


 先行部隊から橋頭堡が確保されたとの連絡が入る。


 キールは虎の子のゴブリンキング部隊を引き連れながらダンジョンへと侵入する。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種        一五三万Pt

闇の軍勢          五八万Pt

――――――――――――――――――――


 剣戟と怒号が飛び交う戦場に入る。土煙。視界が悪い。ただ<ゴブリンキング>の<王の統率>によってステータスを底上げされたようで、ゴブリン達の勢いが増している事は間違いないようだ。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種        二〇五万Pt

闇の軍勢          八九万Pt

――――――――――――――――――――


 視界が悪すぎて戦況を把握する事が出来ない。そのためキールは刻一刻と代わり続けるモニターを観察する事にした。リアルタイムで流れる戦果と被害から戦況を推察するのだ。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種        二二八万Pt

闇の軍勢         一〇五万Pt

――――――――――――――――――――


「見つかったか……」

 三〇分が経過すると一方的だった戦況が変化する。戦果と被害が変わらなくなった。要するにスコアの伸びが極端に悪くなったのだ。


――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種        二四五万Pt

闇の軍勢         一二八万Pt

――――――――――――――――――――


 そして次第に戦況は悪化し、損害のほうが増えていく。このまま戦い続ければ間違いなくこちらが負ける。


「伝令、撤退だ! 殿に一〇〇〇ほど残して引き上げろ!」

 伝令部隊が一斉に走り出し、ゴブリン達が帰還してくる。剣や鎧は血みどろに汚れているというのに怪我一つない。


「やはり範囲回復エリアヒールか……大将の読み通りだな」

 キールはため息を吐いた。<闇の軍勢>は巨人や人狼、吸血鬼といった耐久値が高く、攻撃力も高い魔物を数多く保有している。


 幾ら成長限界まで育成したとはいえ最弱種であるゴブリンでは一撃死させるのは難しい。逆に敵の攻撃によりこちらは一撃で致命傷を負ってしまう。


 <宿り木の種>の主力であるゴブリン達は数の有利を活かして一人を囲み、小柄な体躯を活かして素早く動き回って少しずつ削っていくしかない。


 普通に戦うだけなら数で勝り、闇の種族に特攻効果のある銀装備を保有するゴブリンのほうが有利に進められるだろう。


 しかし厄介な事にガイアでは仲間の怪我を瞬時に癒す回復魔法が存在している。誤射なく前線の戦士全員だけに支援魔法を行き渡らせるのは至難の業だが、エリアヒールによって敵味方関係なく無差別に回復させる事は難しくない。そしてこうなった場合、一撃で勝負を決められる攻撃力を持つ<闇の軍勢>のほうが圧倒的に有利になる。


 敵指揮官はその事に気付いたのだろう。

 その結果、戦況が著しく悪くなった。


「よし、何とか戻せたな」

 本隊の収容が完了したところでキールは小さくため息を吐いた。残りは殿部隊だけだ。


 不意に視線を感じて振り返る。最前線に立つ金色の人狼と目が合った。


「――ッ!」

 全身が粟立つような武威を感じて振り返った。迫り来るゴブリン達を一振りで仕留め、たった一人で前線を押し上げているその姿はかつてのウォルター老を彷彿とさせた。


 こちらと同等かそれ以上の実力者であった。


 ――参ったぜ、槍働きしながら指揮を振るうのかよ。


 格が違う、とキールは困ったように笑った。こちらは指揮に専念するのに精一杯だというのに、あちらは最前線で刃を交える片手間に指揮を振るっている。しかもその命令は的確そのもので付け入る隙さえ見当たらない。


 キールは不甲斐ない思いを抱きつつ、自ダンジョンへと戻っていく。


 ――だがな、こっちだって簡単には負けられねえんだ!


「魔法隊<火矢>、詠唱開始! ――撃て!!」

 キールは奮い立ち、声を荒げた。


 彼の頭上を無数の<火矢>が飛び交った。まるでそれは炎の壁のようになってダンジョンの出入り口へと殺到していく。


 まだ敵ダンジョンに殿部隊は残っている。今も敵の追撃部隊を必死になって食い止めている。


 炎の魔法はそんな味方もろとも敵軍を焼き尽くしている事だろう。


「強えな、反則だろってくらい強え……」

 <闇の軍勢>は予想以上の精強さであった。隠れ設定のレアモンスターを育成し、三ツ星級のモンスターを万単位で揃えてきている。


 そんな強力無比な軍勢を指揮するのは数々のダンジョンバトルを勝ち抜いてきた<魔王城>が誇る最高幹部達だというのだからたまらない。


「くそ、王者なら王者らしく、もうちょっと手を抜いてくれよ」

 キールは部隊を再編しながらそんな風に愚痴を零すのだった。



――――――――――――――――――――

■現在のスコア

宿り木の種        三六九万Pt

闇の軍勢         一六七万Pt

――――――――――――――――――――


全然関係ない話ですが


THE TANSANっていう、

レモン風味の強炭酸水が好きです。


で、たまたま安かったのでケースで買って

それから常飲するようになりました。


それで先日風邪を引きまして、

葛根湯みたいな粉薬を処方されました。


で、粉薬を口に含んで流し込んだんです。

そうTHE TANSANで。間違えて。


そしたらね、発泡するんですよ。

葛根湯がね、シュワワワーってね。


でも、お医者さんに飲めって言われたお薬だからなんとなく吐けないじゃないですか。


でもね、増えるんですよ。苦くて臭くてほんのり甘い大人のあの味がね。


活きがいいんですかね、上がってくるんですよ。喉の奥から勢いよく。さっきまでカッサカサに乾いていたくせに!


あやうくマーライオンみたいになる所でしたよ。


危険な食い合わせはコーラとメントスだけじゃないんです。


特に受験生の皆さま、体調管理には気を付けて、くれぐれもご自愛ください。




では。

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