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メラミ、いつでも会える環境を整える

 その後は余り時間を利用して交流を深めることとなった。


 夕食時には<メラではない>のある地方特有の料理が振舞われる。この地方では放牧が盛んらしく、羊肉を使った料理やチーズ、乳酒などが作られている。どの料理にも香りの強いハーブが使われていて、多少の癖はあるが慣れてくるとやみつきになる味だった。


 クロエとメラミ先輩は早速、意気投合したようで楽しそうにガールズトークを展開している。


 メイドさん達は今は我がダンジョンが誇る美少年ルーク君に目を付けたようだ。生後二歳のお姉さま方にくっつかれたり抱きつかれたりして嬉しくも恥ずかしい玩具にされている。


 ヒロトとキールは喧騒を肴に酒を飲んでいた。


 夜も更けたので客室を借りて泊まらせてもらう。クロエはメラミ先輩の部屋に泊まるそうだ。


 窓を開く。満天の星空が出迎えてくれた。標高が高いのか、王都よりも空気が澄んでいるからなのか、星々が落ちてきそうな気がして恐くなる。ちなみに眼下は風車地獄なので絶対に視線を落としてはいけない。


 男衆にあてがわれたベッドに入る。ふいに修学旅行を思い出した。恋バナなどをしてみたくなったが、メラミなら盗聴用のマジックアイテムぐらい残していてもおかしくはないため迂闊な話は出来なかった。


 その晩は大人しく眠った。






 一晩が経ち、ダンジョンバトル終了時刻が近づいてくる。


 一度、ヒロト達のダンジョンを見てみたいとの事だったので<迷路の迷宮>へ案内する事にした。


「へえ、ピロト君のダンジョン……何だか普通ね」

「洞窟系はどこもこんなものですよ」

 自然豊かな丘陵に建つ<メラではない>に比べて無機質な岩肌ばかりが続く<迷路の迷宮>では確かに味気ないだろう。


 華やかな王都を案内したいところだが、ダンジョンバトル中は外界とは切り離されるためそれも敵わない。


 ここにあるのは侵入者を足止めする<迷路>と<罠>だけである。あとは<シルバースライム>がうじゃうじゃしている魔物部屋ぐらいしかない。後はダンジョンバトル時に子供達が待機する休憩室くらいだろうか。


 子供達も控えているが紹介する気にはなれなかった。昨年末の<ハニートラップ>戦の事を覚えているのか、彼らはダンジョンバトル中は完全武装状態である。常に殺気立っているのでさすがにそんな所にメラミを案内する気にはなれなかった。


「まあ、ピロト君らしいよね。ちょっと待ってね、ここ地点登録しちゃうから」

 そう言ってメラミ先輩は銀の球体を取り出し、ダンジョンの出入り口に埋めた。


「えっと、先輩、何をしてるんです?」

「だから地点登録。こうしておくと安定するんだ。はい、最後にピロト君にこれを渡しておきます」

 渡されたのは手の平大の銀色の球体だ。多分、マジックアイテムなのだろう。薄い銀板に魔法陣を刻み、縦横で重ねて一枚の大きな魔法陣にしているらしい。

 所々に隙間が空いていて中には大小様々な魔石――モンスターの胸にある核――が配置されている。


「えっと、また厄介物ですか?」

「先輩の血と汗が染み込んだ研究成果を疫病神呼ばわりとは言うじゃない」

「そこまでは言ってませんけど」

 腕組みしながら頬を膨らませるメラミに微苦笑する。


「で、これはね、最近作った<転移魔法>の魔導具ね」

「転移魔法!?」

 一度、訪れた事のある場所に転移出来る<転移魔法>は失われた古代魔法であり、今ではガイア神族しか使えない秘術である。


「技術的に中々難しくて、この場所と<メラではない>しか移動できないし、使い捨ての割に量産も出来ない貴重品なんだけど……ほら、こうしておけばお互い何かあった時の避難場所として使えるじゃない? 勝手に登録しちゃったけど……いいよね?」

「はい、もちろんです」

「うん。ピンチになったらじゃんじゃん使って」

「はい。これさえあればいつでも先輩の元に駆けつけられますね」

「あたしが助けられるのが前提になっている!?」

「冗談です。メラミ先輩、色々とありがとうございました」

 三年間以上もの間、寝る間も惜しんで作り上げた研究成果を託してくれたのは素直に嬉しい。危険なものも多いけど、ダンジョン運営に利用できそうな技術もあったし、便利な魔導具まで頂いてしまった。


「こちらこそだよ。日本食は美味しかったし、久しぶりに会えて嬉しかった。後ろの皆も本当にありがとうね」

「ん、私達?」

「もちろん。クロエちゃんやキールさん、ルーク君。それにここには居ないけどディアさんもね。ピロト君のこと助けてくれてありがとう、笑顔にしてくれてサンキューなんだよ。

 メラミ先輩としてはピロト君が元気になって本当に嬉しいのさ。異世界に転移してからさ、可愛がってたというか勝手に愛でてたピロト君の事だけが心残りだったんだ」

「えっと僕、元気になりました?」

「そりゃもう、だって君今も楽しそうに笑っているじゃない? 昔はさ、あたしが何言ってもそりゃもう上の空でさ、いつも笑ってるのに泣いててさ、あたしはさ、いつかピロト君が遠いどこかに行ってしまうんじゃないかってずっと心配してたんだよ。愛でつつ」

「愛でつつ?」

「うん、愛でつつ。そりゃもうあたしら三年生女子は大変だったよ。あと一年生まれてくるのが遅ければって何度思ったことかって。だって文武両道の正統派イケメンの生徒会長のケンゴ君、爽やか系ジャニーズイケメンのハッちゃん、そしてそんな二人の後ろをしずしずと歩く薄幸系美少女のピロト君。君達の一挙手一投足におばさん達は一喜一憂一汁一菜一攫千金千客万来していたわけ」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「でしょうねえ! メラミ先輩だって分かんないよ! まあとにかく推しメンの君が今心から笑えているのは後ろに居て支えてくれている君達のおかげなんだろうなって! ピロト君がそういう人達に巡り会えた事が、お姉さんは嬉しいんだよ! 本当だよ、ありがとうね、生まれてきてくれてありがとう!」

 メラミ先輩はそう言って三人の手を握り締め、ぶんぶんと振り回す。三人組は困ったような微苦笑を浮かべてなすがままにされている。


「それじゃあね、皆、元気でね」

 そしてダンジョンバトルが終了し、メラミ先輩は帰って行った。


「何だかすごい人でしたね」

「ああ、ある意味で化物だったな」

「まさに紙一重」

 ダンジョンの出入り口で呆然としていた三人は、メラミ先輩をこのように評した。


「でも、いい人でしょ?」

 三人が頷けば、ヒロトは途端に笑顔になり、胸を張って続けた。


「僕も大好きな先輩なんだ」








「で、お泊り中に恋の相談をしたところ、この自白剤を渡されたと?」

「ち、違うし。メラミから貰ったのは<思った事をついぽろっと口に出しちゃう効果のあるお薬>だし」

 ディアの詰問に、クロエは慌てて否定するが自分でも無理があると思っているのだろう気まずそうに顔を逸らしている。


「それを世間は自白剤と呼びます」

「で、でもメラミは主様は言いたい事を我慢してストレス溜めちゃうからタイプだからたまにはこうやって吐き出させることも必要だって……」

 クロエは普段、ヒロトの食事の給仕しているため、食べ物に混ぜるくらいわけはなかった。


「だまらっしゃい! 本人の同意も得ないでそんなことしていいはずがないでしょう。黙って薬を飲ませて本心を聞き出そうなんて悪質すぎます」

 ディアのド正論の言葉に、クロエはぐうの音も出ない。


「ごめん、つい出来心で。でも、流石に悪いと思ったから中和剤を飲ませようと思ってた」

 クロエが持って来ていたトレイには水差しとコップ、小皿に丸い錠剤が置いてあった。


「はぁ、もうやらないと誓えますか?」

「うん、反省してる」

「あとでヒロト様には事情をお話し、謝るんですよ」

「一緒に謝ってくれる?」

 クロエが上目遣いに尋ねてくる。この視線にディアは弱かった。喧嘩ばかりしている二人だったが、クロエは面倒見がよくて優しい女神を姉の様に慕っていたし、ディアは可愛くて頑張り屋さんでいたずら好きの獣人娘の事が可愛くて仕方がないのだ。


「今回だけですよ」

「ありがとう、ディア。大好き!」

 クロエがトレイを置いてディアに抱きつく。


「あれ、二人ともどうしたの……?」

 未だに薬で意識が朦朧としているのか、ヒロトが近づいてくる。


「ねえ、主様。ディアとあたし、どっちが好き?」

「こら、クロエ!」

「ディア、この質問だけ。あとできちんと謝るから。ねえ、主様、出来ればどっちを恋人にしたい?」

「どっちもかな?」

「来ました! まさかのゲス発言!」

「クロエ、いい加減にしなさい」

「だめ、まだ質問答えてもらってない。ねえ、主様、強いていえばどっち? どっちのほうが好き? 誰か一人しか選べないとしたら誰と交尾したい?」

 力づくでも止めるべきだと分かっているのだが、彼女もヒロトが誰に好意を抱いているのか聞きたかった。悪いのはクロエだという言い訳も働いてディアはどうしても動けなくなってしまう。


 ヒロトは唸るようにして二人を見比べ、最終的に二人の胸の辺りを凝視すると――


「どちらかといえばd「そーい!!」――ん、ごくん」

「く、クロエさん!?」

 クロエは中和剤の丸薬を口に放り込み、ギリギリのところで答えが出るのを防いだ。


「ふぅ、危ない所だった……」

 クロエ的には胸部装甲の厚みで失恋とかありえない。人間は中身が大事だと思う。決して負け惜しみではない。


「クロエさん、あ、あなたって人は……」

 怒りに震えるディアに向かって、クロエはいい笑顔で返す。


「ごめん、ディア。ディアに言われて反省した! この手のいたずらは、よくない!!」

「そうですけど! 確かに私が言いましたけどっ!」

 薬を飲んですこしふらついているヒロトを介抱しながら、クロエは自分の胸に手を添えた。


「まだまだ、これからだし」

 ダンジョンマスターの眷属は不老の存在であるため、これ以上肉体的に成長しない事を彼女はまだ知らない。


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