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仕様漏れ

「そういえば侵入者って冒険者じゃなければダメなの?」

 ふとヒロトが尋ねた。


「いえ、一定以上の知性や魔力、戦闘能力を持った者であれば大丈夫ですよ? 犬猫程度では侵入者になり得ませんが、ゴブリンなら間違いなく侵入者ですし、人間なら一〇歳程度の子供でも侵入者と見なされます」

「じゃあ、例えば奴隷を購入してダンジョンを出たり入ったりさせたら経験値って貰える?」

「いいえ、貰えません。過去に同じような事をしたダンジョンマスターがおり、迷宮神によりすぐさまルールを改正させられてしまいました。現在はダンジョンマスター(・・・・・・・・・)が保有する奴隷の場合、殺害しない限り経験値やDPは一切得られない仕様になっています。

 奴隷は安くとも五〇〇ガイアはしますから経験値を得るためだけに毎回毎回殺していたのではいくらお金があっても足りませんよ? 奴隷商人達にも怪しまれるでしょう」

 ヒロトの脳裏に一つのアイデアが浮かんだ。


「……試してみる価値はあるかな。よし、奴隷商の所に行こう!」





 再び王都に出かけた二人は二等区にある評判の良い奴隷商の所へ向かった。


「ここか……」

 奴隷なんて物を扱っているとは思えないほど質素な佇まいの店であった。クリーム色の土壁が暖かな雰囲気を醸し出している。


 店に入るとほのかにアロマの香りがした。


「いらっしゃいませ」

 来客に気付いた店員が裏から出てくる。黒服を纏った穏やかな雰囲気の商人だった。二人はすぐに応接間に通され、ソファーを勧められる。打ち合わせ通り、ヒロトは座り、使用人役のディアはその後ろで姿勢を正して立っている。


「初めまして。奴隷商を営んでおります、ジャックと申します。本日はどのようなご用向きで?」

「はい、ヒロトお坊ちゃまの護衛を探しております」

 ディアが言えば、ヒロトも元気のなさそうな顔で頷いた。


 ヒロトの着ている制服は生地も縫製もしっかりしており、異国の貴族令息や交易商の跡取りぐらいには見えているはずである。そんな坊ちゃんが護衛も付けずに戦闘用の奴隷を求めに来たのだから多少頭の回る者ならば訳ありだと察してくれるのだ。実際には何もないが。


「……なるほど。腕の立つ元冒険者が数名おりますのですぐに連れて参りましょう」

 ジャックは足早に応接間から出ると五人の男女を連れて来た。


 ディアが頷く。全員、それなりに戦えるようだ。

 ダンジョンマスターはその特性上、侵入者の実力を測る能力が備わっている。精度はあまり高くないので不安があるが、隣に立つディアのお墨付きを得られた事から問題はないと判断出来る。


 奴隷達が自己紹介を始めた。一人目は剣士の男、それなりに名の売れた冒険者だったが、依頼中に仲間が大怪我をして神殿で治療を受けた。その治療費が思った以上に高かったらしく、払いきれずに奴隷落ちした。お値段五〇〇〇ガイア。


 その隣の女性は一人目の男のパーティメンバーで彼の恋人だった。依頼中に大怪我をした仲間というのは彼女の事だそうだ。出来れば剣士の男とセットで購入して欲しいとの事。

ちなみに職業は魔法使いだそうだ。お値段五〇〇〇ガイア。二人セットで購入してくれるなら二割引との事。


 三人目は大柄な戦士である。剣だけでなく盾や槍、弓矢に乗馬と幅広くこなせるそうだ。かつては隣国のアルマンド帝国の軍人だったらしい。国境付近で起きた小競り合いで捕虜になり、奴隷落ち。酒と美味い飯を用意してくれるなら何でもやる、との事。お値段四〇〇〇ガイア。


 大男の隣で不機嫌そうに眉を潜めるのは元騎士様との事だった。魔法と剣を高いレベルで使いこなせる。更には部隊運営や政治的な知識もあるそうだ。流石は元エリート軍人である。政敵に嵌められてお家没落、奴隷落ち。お値段は一〇〇〇〇ガイア。


 最後の一人は元密偵兼暗殺者だ。黒豹の獣人という変わった種族らしい。とある貴族の屋敷に入り、家人を皆殺しにした。その後、捕縛されて奴隷落ち。お値段は三〇〇〇ガイア。


 奴隷契約により言動に制限がかけられるガイアだが、忠誠心があるに越した事はない。奴隷とて心を持った人間である。主人に尽くす気がない奴隷の場合、本当に言われた事だけしかしないなんて事もあるらしい。


 そういった意味では能力的に一番強い元騎士様は奴隷という身分に納得しておらず、またプライドも高そうなので使い辛そう。


 剣士とその恋人なら剣と魔法が揃っているのでバランスが良い。セット割も効く。しかしお互いを大切に思う余り、主人であるヒロトにはにあまり懐いてくれないだろう。


 ヒロトは早速この三人を除外した。


 帝国兵士は中々いい物件な気がする。単純そうだし、見た目も強そうたから護衛役にも向いている。まあ、護衛を求めてるわけじゃないけど。


 獣人の女性はよく分からない。密偵や暗殺なんて仕事をしてきたからか表情がない。ただ汚い仕事でも躊躇いなくやってくれそうという意味では期待度が高い。


 ディアにその旨を話してみると、彼女も大きく頷いた。


「ええ、お坊ちゃま。私もそれが良いと思います」

 なので帝国兵士と獣人娘だけを残してもらう。


 後は値段交渉だ。二人で七〇〇〇ガイア。二等区であっても武器屋や奴隷商なんかは値引き交渉が通じるのだ。


 最初は渋った奴隷商ジャックだったが、即金可能であることを伝えた上、念のため他の店も見てみたいとヒロトが言った所で落ちた。二人で五〇〇〇ガイアだ。


 高価な戦闘奴隷を二人も購入してくれるような顧客なら、いずれ大口に化けるかも知れない。今回は多少儲けを捨ててでも、なんていう判断が下されたようである。


 購入に前向きな姿勢を見せたところでディアが尋ねる。


「そうでした、お坊ちゃまに似た奴隷などおられませんか? ええ、それこそ身体的特徴しか知らない輩が見間違えてしまうような」

 ジャックは納得の笑みを浮かべるとすぐに探してくるといった。






 ディアと奴隷達を連れて屋敷まで戻ってくる。


「それでは私は次の担当の所へ行ってきます」

 玄関を入ったところでディアが別れを告げた。

「今日も長々と付き合わせてしまってすいませんでした。あとこれ、よかったら食べてください」

 ヒロトは今朝方、作り置きしておいたサンドウィッチを差し出す。


「あ、おいしそう……って、ダメです。ダンジョンマスターからは受け取れません!」

「そうですか……ちょっと作りすぎてしまったので食べ切れなくて。捨てるしかありませんね……なので拾ってくれると嬉しいです」

「貴方はまたそんな事を……分かりました。食べ物を粗末にするのはいけないことですからね」

 ディアは深く腰を折ってから、サンドウィッチを受け取った。


「今日はありがとうございました、ディアさん」

「こちらこそご馳走様でした。明日も一〇時頃にお伺いします」

 折り目正しく頭を下げると転移して去っていった。


「あの、ディア様は……」

「まあ、それは後で話すよ。とりあえずお昼ご飯にしよう」

 奴隷達をリビングに通し、食卓を囲む。奴隷と同じ卓を囲むのは主人を軽んじる事だと三人は恐縮したが、面倒なので無理矢理座るよう命令させた(・・・)。異世界転移物のあるあるという奴である。


 部屋は余っているので奴隷達には個室を与えた。地下室か屋根裏で十分とか言われたが、お客さんが来たら出て行ってもらう、それまで住み込みできちんと掃除してもらうために使えと命令させた(・・・)


 奴隷達には服と下着を何着か与えてある。節約のため三等区にある古着屋で状態の良さそうなものを選んでもらった。奴隷は身分が分かりやすいようボロ切れと変わらないような物を着ている場合が多いらしい。三人は気前のいい主人に拾われたと大変に喜んだ。


 戦闘奴隷の二人には二等区の高級武器屋で購入した武器や防具を身に付けて貰っている。


「で、坊ちゃん、俺達ゃこの武器で誰を殺せばいいんです?」

 長槍をしごきなら帝国兵士キールが尋ねた。


「あーここから話す事は絶対に秘密で。他人に漏らしたら即死ね」

「――ッ!?」

 三人の顔が途端に引き締まる。奴隷紋の制約は絶対だ。奴隷紋は左胸の真上に有り、主人に危害を加えようとしたり、主人が定める禁則事項を破った場合、紋の中に描かれた魔法陣が発動して心臓を食い破るように出来ている。紋を傷つける行為も厳禁だ。死ぬほど辛い激痛に苛まれる事となる。


「ルーク君、復唱」

 ヒロトはそう言ってルークに命令した。帝国兵士キールと獣人暗殺者クロエを購入する際、オマケとして購入した少年である。


「……はい、これからご主人様が話す事は絶対に秘密です。他人に漏らしたら即死です」

 ルークには戦闘奴隷二人の主人になってもらっている。


 奴隷紋には<連座制>というオプションが付けられる。主人が死ぬとその奴隷も死亡するように出来るのだ。例えば冒険者が奴隷を使役してダンジョン攻略に乗り出しても働いてくれない事が多い。主人が死ねば開放されるならむしろ積極的に陥れるだろう。それを防止するための措置である。こうすれば死にたくなければ主人のために必死に戦うしかなくなるという寸法である。


「これからキールとクロエの二人には、このダンジョンに入ってもらう」

 獣人の暗殺者クロエが尋ねると、ヒロトはウォークインクローゼットの中を開けた。


「なんです、坊ちゃん……これ……」

「……これは、ダンジョンの入り口……何故、こんな所に……」


「ああ、それは僕がダンジョンマスターだからさ」

「な、なに!」

「――ッ!」

 暗殺者クロエが激痛に呻く。見れば与えたばかりの短剣が抜かれている。おっかない少女である。


「ああ、大丈夫だから」

 ヒロトは笑って説明した。自分が異世界から拉致された人間である事、無理矢理ダンジョンマスターにさせられ困っている事、この世界の人間を害するつもりはなく身の安全を確保したいだけである事を。


「今は信じられなくてもいい。多分、僕の生活を見てたら納得してくれると思うから。

 さて、これから二人にはモンスターのいる部屋に入ってもらいます。そこで戦ってください。モンスターは弱いのしか出さないから安心して」


「はい、ルーク君、復唱」

 ヒロトは状況についていけず未だに口を半開きにしている奴隷少年に命令をする。


「は、はい! キールさんとクロエさんはご主人様が帰って来いというまでダンジョンでモンスターと戦ってください」

「……ああ、分かったぜ……が、坊主に命令されるのは何か釈然としねえな……」

「ごめんなさい……」

「……いい、ルークは悪くない……じゃあ、行って来る」

 戦闘奴隷二人はそう言って渋々ダンジョンの中に入っていった。


 ヒロトは<迷路の迷宮>地下一階にある最初の部屋を魔物部屋に変更した。魔物部屋は魔物の召還・維持コストが半分になる特殊な部屋だ。


 そこにスライムを二匹配置しておく。


 そしてコアのある玉座のコアルームへ転移し、数時間待つ。


「よし! 狙い通りだ!」

 ステータス画面を開いたヒロトは歓声を挙げるのだった。


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ダンジョン情報

 レベル:2 階層:F

 魔物 :F 罠 :F

 称号 :ー

成績

 順位  15位

 戦績  0勝0負0分

 撃破数 0

 撃退数 10

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[気になる点] 何故恋人同士の奴隷を両方買ったら割引きされるのかよく分かりません。 複数人買ったら割引というなら恋人同士の奴隷だけがそういう条件なのはおかしいですし、両方とも買うとイチャついてまともに…
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