リザルト
ヒロトはリザルト画面を眺め息を吐く。
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【C組対戦結果】
優勝 宿り木の種 二八七七万Pt
二位 マツリダワッショイ 七二八万Pt
三位 オルランド最前線 一五二万Pt
四位 ラッキーストライク 六九万Pt
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この日、一〇日間にも及ぶギルドバトルが無事、終了した。
「ようやく終わったね」
「ん、完全勝利」
「流石、ご主人様です!」
「まったく無駄に長い戦いだったぜ」
コアルームのコタツで寛ぐ古参三人組は口々に言った。
ギルドバトルは続いていたが、<宿り木の種>の順位については初日を終えた段階でほぼ確定していた。残りの時間は手を組んだギルド<マツリダワッショイ>への支援に終始したぐらいである。
「まあ、今回はたまたま上手くいっただけで、次回以降は難しいんじゃないかな」
今回の結果はある意味、初見殺しなところがある。
ヒロト達が使用DPを少なくしたのはギルドメンバーの経済状況を鑑みただけでなく、使用DP量をあえて少なくする事で戦力を低く見積もらせるためだった。
投資額を見誤った弱小戦力と油断させたかったのだ。
そして大部隊が展開可能な<決戦場>に敵を誘引するのだ。ギルドバトルでは自陣地内で配下のモンスターが倒されると誰が倒したかに関わらずポイントが入る仕様だった。攻め込むよりも攻め込ませるほうがスコアを稼げるのである。
全ての勢力を<宿り木の種>に集め、戦端を開かせる。一度、戦い始めたら簡単には退却は出来ない。四つ巴の戦いで背中を見せれば他勢力から確実に追撃を受けてしまうからだ。
そうなれば敵ギルドが泥沼の殴り合いを続ける中、防御陣地に篭って体力を温存させる事が可能だった。そして敵が消耗してきたところで攻勢に転じ、一網打尽にする作戦だった。
<ゴブリンウィザード>などの魔法使い系を出さなかったのも魔力の消耗を避けるためだ。もっとも今回は予想以上に作戦が上手く行き過ぎて出番なしで終わってしまった。
「まあ、今回は敵の無能に助けられたようなもんだしな」
キールが呆れたように言う。
軍略を修め、<メイズ抜刀隊>で実績を積んだ有能な指揮官たるキールからすれば、他ギルドのそれは見るに耐えない最低な指揮だっただろう。
敵を牽制するための落とし穴に嵌ってしまったり、ダミーの城門を破ろうとしたり、重要な伝令を護衛も付けずに走らせたり、更には伝令が潰されている事にいつまでも気が付かなかったりと敵はミスを重ねていた。
しかも対戦したギルドのギルドマスターはいずれも名の知れた上位ダンジョンである。全員が一〇番台だったはずで特に<オルランド最前線>の<渡る世間は鬼ヶ島>に至っては序列第九位のナンバーズだ。
もちろんギルドに加入しているメンバー達だって百戦錬磨の強者ばかり。ほぼ全員が序列百位以内が常連のランカーダンジョンである。
「ったく、少し慎重に行動していれば気付くような事ばかりだってのに。偵察を出す、攻め易い場所を調べる、伝令には護衛を付ける、特別な事じゃない。全部普通の事だろうに。
何故、当たり前の事をしないのか理解できん。こんな無能共に従わなければならないモンスター共がいっそ哀れなくらいだ」
そんなトップの連中が揃いも揃って自滅しているのだから無能と言われても仕方がない事だった。
「まあ、僕等はもともと学生で、職業軍人じゃないからね」
「だがよ、大将。指揮官なら基本的な戦術くらい抑えておくべきだろうに」
「それを知る術がないんですよ」
振り返るとコアルームの出入り口に目をやれば銀髪碧眼のサポート担当であるディアが立っていた。深い湖面を思わせる瞳には悪し様に言われたギルドマスター達への憐憫が宿っている。
「ディアさん」
「おはようございます、皆さん」
口々に挨拶を返すなか、ディアが口を開く。
「キールさんの仰る通り、今回の対戦したダンジョンマスター達の指揮はひどく稚拙なものでした。しかし彼等は学生で、正規の軍人ではありません。しかも外界とは切り離されて生活しています。外の情報を手に入れる術がないんです」
普通のダンジョンマスターはダンジョンに篭っている。
戦術を学ぶ機会がないのである。
これまで過ごして来た二〇年足らずの人生経験だけで指揮を執らねばならなかった。文化レベルが低いとはいえ、正規の軍事教練を積んだ本職の軍人と比べるのはあまりにも酷な事だろう。
「これまでは力押しだけで戦果を上げられてきただろうから、その辺の油断もあったのかもね」
「それもあるかも知れません。ダンジョンシステムには未熟な指揮を覆すだけの力があります」
ダンジョンマスターにはダンジョンコアという無尽蔵に戦力を生み出す機能がある。これまでずっと圧倒的に有利な状況で戦いを進めてきたわけで研鑽を積む機会がなかったに違いない。
「キール、僕の立場から言わせて貰うと皆も迷宮神という化物に誘拐されて、無理矢理戦わされている哀れな被害者なんだ。少しだけ大目に見て欲しいかな」
皆、生き残る事に必死なのだ。見知らぬ世界に人類の敵として放逐されたら誰だって恐ろしい。命の危険に晒されていれば攻撃的にもなる。
ガイアに住まう人々を不幸に陥れてでもダンジョンの拡張を続ける方針にはとても賛同できないが、悪神によって人間性や倫理観を狂わされた可哀想な子供達なのであった。
「悪りい、大将。少し言い過ぎた」
「いや、キールの気持ちも分かるよ。いずれにせよ、ガイアの人からすればはた迷惑な話でしかないわけだし」
ヒロトは悲しげに笑うと、キールの肩を叩いた。
「やーい馬鹿キール。お前調子乗りすぎ、猛省しろ」
「んだとやんのかドラ猫!」
「私は黒豹だ!」
「二人とも抑えてください、マスターの前なんですから」
すぐに始まる口喧嘩。歯を剥き出しに牽制しあう二人とそれを止めようと慌てるルーク。いつものやりとりのおかげで場の雰囲気も元にも戻った。
「ありがとうよ、クロエ」
「ん、あとで飯奢れし。で、ディアは今日何しに来たの?」
クロエがさりげなくコタツの隅により、ディアを招き入れる。
「お邪魔します、クロエさん。今日の要件ですが、まずはおめでとうございます、ヒロト様。遅くなりましたがギルドバトル優勝報酬を持ってまいりました」
ディアは金のトロフィーをコタツの上に乱雑に置いた。かなり精緻な作りなのだが、大嫌いな迷宮神が作ったものなのでぞんざいに扱われる傾向にあった。
「効果は?」
クロエが嫌そうに尋ねる。
「ギルドの<市場>で発生する手数料が割引されます。例によって目立つ場所に置くほど高い割引率が適用されるそうです」
「はぁ……クロエ、例の棚に飾っといて」
「へーい」
クロエは顔を顰めながら玉座後ろ――ヒロトからは見えない場所にある飾り棚にトロフィーを飾った。
「続いて副賞です。一〇〇〇万DPとレアガチャチケット、原初の渦、眷属チケットが一〇枚ずつをギルドマスターにお渡しするルールとなっております。後で分配をお願いします」
ちなみに受け渡しはギルドメニューから出来るそうだ。
「相変わらず性格が悪いね」
<宿り木の種>ではバトル前に勝利しようがしまいが、これまでのギルドへの出資比率によって分配する事で決めていた。
ちなみに<宿り木の種>の出資額はギルドマスターたる<迷路の迷宮>が二〇〇万DP、<王の剣>が一〇〇万DP、残り三ダンジョンで一〇〇万と一DPとなっている。これで四〇〇万飛んで一DP。解散させられたらまたギルドを設立すればいいだけなので資本金のほぼ全額をダンジョンバトルに投資していた。
元々自分の趣味に走っているメンバーばかりなので報酬の分配で揉め事は起こらないだろう。
しかし他のギルドではどうだろうか? その報酬の分配を予め決めていなかったり、自分だけ特別扱いするよう求める輩がいれば面倒な事になる。
勝利出来たギルドの場合はまだましだ。報酬額はかなり大きいし、ギルドダンジョン構築はギルドマスターの専用機能なので実質的に総指揮官になる。多少、強引に決めてしまっても不満は出ないだろう。
一方、敗北したギルドでは敗軍の将たるギルドマスターの発言力は低迷しているわけで、ただでさえ少ないパイを取り分けることになる事から更なる不和を生みかねない状況でもある。
「相変わらず、性格悪いなぁ……」
理由は面白いからとかそんな感じだろう。紛糾するギルド会議の様子を盗み見てニヤニヤしているはずだ。
「更にボーナスとして今回獲得したスコアをDPとしてお渡しします」
「うわ、しまった。知っていたらもっと強気に攻めていたのに」
今回のギルドバトルでは<宿り木の種>は二八七七万という圧倒的なスコアを獲得していた。
バトル勝利が確定したところで方針転換を行い、より多くの資本金を手に入れるべく使用DPの比較的少ない<マツリダワッショイ>への攻撃を弱め、交渉の末に共闘する事にしたのだ。
「すいません、私も不注意でした。ギルドバトル終了後の会合で迷宮神が突然言い出しまして。奴がこういった手を打ってくる可能性はありえたのに注意が不足していました」
迷宮神曰く最後まで果敢に攻め続けたギルドを優遇するためだという。もちろん建前だろう。迷宮神はダンジョン同士を競わせるのに血道を挙げる悪党である。稼ぎ出したスコアを報酬に含めるのは予測出来た事だった。
「こちらこそ責めるみたいになってしまってすいません。僕もギルドバトルの準備で忙しくて頭が回っていませんでした」
今後、ギルドバトルに限らず、似たようなイベントの際、参加するダンジョンマスター達は特別ボーナス狙いで最後まで果敢に戦い続ける事になるだろう。例えそれがダンジョンマスター同士の不仲を誘う物であっても。
「そして最後ですがバトル第三位と四位のギルドの資本金が<宿り木の種>に加算されます」
これにより<宿り木の種>は三位のオルランド最前線から八五〇万DPを四位となったラッキーストライクは一七〇〇万DPを手に入れる事が出来た。
「トータルで二五五〇万DPか」
「おめでとうございます、ヒロト様。<宿り木の種>は三ツ星級ギルドにランクアップする事となりました」
「今回勝利したギルドは軒並みランクアップするんだろうね」
「ええ、そうなります。そして次回のギルドバトルは今回勝利したギルド全員での戦いとなります」
ランクアップのカギはギルドバトルへの勝利だった。これまでは出資額の制限があって二二〇〇万DPまでしか供出出来なかった。
しかし他ギルドから奪った資本金のおかげで三ツ星級への昇格条件である二五〇〇万DP以上を資本金として出資出来るようになった。
「更に今回のギルドバトルにおいて<宿り木の種>は三賞のうち殊勲賞、技能賞を受賞しました。各賞につき専用のトロフィーと賞金五〇〇万DPとレアガチャ、眷属、原初の渦チケットが五枚ずつが贈られます」
「トロフィーの効果は?」
「ギルドダンジョン内の配下モンスターのステータスが少しだけ上がります。殊勲賞は攻撃力と魔力が、敢闘賞は耐久力と防御力が、技能賞は俊敏性と器用度があがるようですね」
「はぁ……クロエ……お願いね」
「ほーい」
それぞれの賞の受賞条件だが、殊勲賞は使用DPが少ないギルドが、多くのDPを使ったギルドを破った場合に贈られる賞だ。技能賞はモンスターによるごり押しではなく罠やダンジョン構成など戦術を以って勝利したギルドに渡される。最後の敢闘賞は敢闘精神に溢れる――要するに殊勲賞にも技能賞にも選べないけど――好成績を挙げたギルドが選ばれる。言うなれば審査員特別賞みたいな枠である。
「ちなみにMVPはどこになったの?」
「最高スコア五一四二万DPを叩き出したギルド<闇の軍勢>に決まりました」
「……なるほど、僕等じゃどう逆立ちしたって勝てないや」
C組の対戦では<宿り木の種>を除いた三ギルドの総使用DPが四五〇〇万DPほどだった。自陣地内での戦闘では追加ポイントが稼げるとはいえ、武器や罠などがある以上、他ギルドが保有する全戦力を単独で倒しても届かない数字である。
「対戦会場がたまたま五組でのギルドバトルが行われた会場でしたからパイが大きかったのも要因でしょうが……」
「それでも、圧倒的だな」
キールの言葉に誰もが頷く。
参加ギルドが一七ギルドだったため一組だけ対戦表からあぶれており、A組の対戦会場だけが五ギルドによるバトルロイヤル戦になっていた。ギルド<闇の軍勢>はその利を生かし、五〇〇〇万超えのハイスコアを叩き出したわけだ。
しかしそれでも異様なまでのハイスコアである事は疑うべくもない。例えば全ギルドが一七〇〇万DPを使用していたとしても総DP数は六八〇〇万DPとなる。更に三割程度はダンジョン構造やトラップ、装備品などで割かれていたはずで<闇の軍勢>はほぼ単独で四ギルドの保有戦力を全滅させた事になる。
「こことだけは当たりたくないね」
ヒロトの言葉に全員が頷く。しかし、次回のギルドバトルは勝利ギルドのみによる年間王者決定戦だ。このまま行けばどう考えても対戦する事になる。
「ん、どうせ勝てないからリタイアしよう」
「これ以上の出費をしないぐらいいいと思うぜ。それでもギルドランキングは四位確定だろ?」
「でも……たしか<闇の軍勢>ってケンゴさんがリベンジしたいっていう<魔王城>が率いてるんですよね」
ルークの言葉にコアルームが沈黙に包まれるのだった。




