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勝利

 パブリックビューイング会場と化した指揮所から歓声が上がる。


「あはは、馬鹿でー!」

「はっはっはっ、まさか奴も城門の先がないとは思わなんだろう!」

 マサル船長とゴロウ大佐が肩を組んで声を上げる。


 鬼の軍勢が多くの被害を出しながら破ろうとしていた銀製の扉は、城壁に埋め込んだだけのダミーだった。


 城壁で突破しやすいのは城門だ。敵はそこを中心に攻めて来る。攻城戦のセオリーを逆手に取った作戦だったのだが、敵は見事にそれに嵌ってくれたというわけである。


 ダミーの城門は銀製扉がある分、むしろ他の壁より頑丈なぐらいである。おかげでこちらは迎撃戦力を集中でき、大量のスコアを稼ぐ事が出来たわけだ。


「城門があるのは出入りのためであって、必要がないならわざわざそんな弱点は作らないよ」

 城門は人の出入りが必要な街を運営していくために用意されたものである。ダンジョンのしかも<決戦場>なんて物にそんな機能は必要ない。壁を乗り越えたいのなら縄梯子でも降ろせばいいだけである。


「さて、そろそろ戦いを終わらせようか……」

 ヒロトはそう言って伝令を走らせた。






「嘘……だろ……」

 呆然とコウキは呟く。扉の向こう側は空洞ではなく分厚い城壁だった。


 城壁に篭る敵から一方的な攻撃を受けつつ、ようやく破壊した城門はダミーだったのである。


 無機質な灰色の壁を見てオーガ達もまた自らが騙された事に気付いたのだろう。猛り狂うような咆哮を上げている。破城鎚を使って先ほどよりもより一層激しく城壁を叩いているが表面を削り取るような成果しか上げられていない。


 敵の迎撃も激しさを増す。雨あられと降り注ぐ弓矢の数は開戦当初と変わりがないように思える。一体どれだけの矢玉を用意していたのだろう。


「撤退だ、撤退の指示を出せ」

 伝令を走らせる。このまま城壁を攻め続けたところで砦を攻略することは出来ない。既に部隊の数は一五〇〇を切ってしまっている。開戦当初の落とし穴を含め、死者は二〇〇〇を超えている。


 この砦を攻め落としたいなら梯子や縄などを用意して乗り越えさせるしかない。


 五〇〇万DP分もの犠牲を払って得た情報はたったそれだけだった。割りに合わなさすぎてもはや笑う気も起きない。


 ここは撤退しかない。何せこの城を攻め落としたところで得られるのは僅か三〇〇万DP程度のスコアしかないのだから。


「クソ、クソクソクソ!」

 <指揮所>の机を殴り、椅子を投げ飛ばす。あえて自制はしない。指揮に怒りは必要ない。全力で暴れてストレスを発散させるのだ。


 意識の切り替えが終わる。


 この防衛戦で得た<宿り木の種>のスコアは少なく見積もっても一五〇〇万DPを超えてくる。下手したら二〇〇〇万DPを超えてくるかもしれない。それでいて被害はゼロ。このまま時間を過ぎるのを待てば優勝は確実だ。


「ここは標的を変えるべきだな……伝令! 攻撃目標を変更するよう伝えろ!」

 コウキは伝令役を呼び寄せ、指示を出す。


 幸いな事に召喚コストの高いオーガシャーマンやコマンダーといった上位種にはほとんど被害はない。


 落とし穴攻撃を受けてから部隊を引かせ、再集結をさせた<オルランド最前線>だけが組織的な戦闘を行えていた。しかも城壁を攻めている間も破城鎚を盾持ちで守らせることで被害を最小限に抑える事が出来ている。


 城壁を攻めている三ギルドの中で戦力が残っているのだ。そんなオーガ部隊をしてこれほどの被害を受けたわけで、ずるずると散発的な戦いを続けた<ラッキーストライク>や<マツリダワッショイ>の被害はそれどころじゃないだろう。


 モニターからもう一度、他ギルドの軍勢を観察する。やはりこちら以上の被害を受けているように見えた。流石にここから逆転優勝する事は難しいだろうが、他のギルドダンジョンに攻め込めば上位入賞ならば充分に狙える。


 そうだ、優勝できないなら後は二位を狙っていくしかない。ギルドバトルで下位に甘んじればペナルティを支払わなければならない。三位ならギルドダンジョンに使用したDPの半分を、最下位では使用DP分を資本金から奪われる。


 二位までならペナルティは発生しない。バトルへの参加賞や副賞で、投資分くらいは取り戻せるはずだ。少なくともギルド解散という最悪の自体だけは避けられる。


「遅い! 伝令は何をやってるんだ!」


 ――そもそも何で他の連中も引かないんだ? 馬鹿なのか?


「……――ッ、まさか!」

 コウキは命令を伝えた個体を確認する。結果は死亡ロスト。どうやら命令を伝える前に殺されていたらしい。


 ダンジョンバトルやギルドバトルでは味方モンスターに被害が出ると倒された場所などを含めたログが出力されるのだが、決戦場で倒されてしまった場合、見分けを付けられないのである。


 そもそも被害報告のログだって城攻めによって定期的に魔物が殺されしまっている現状、よほど入念に確認していない限り、ログは流れていってしまう。


「伝令潰し……」

 古典的な戦術のひとつである。いくら優れた指示を司令官が下したところで現場指揮官に伝わらなければ意味がない。


 ダンジョンバトルやスタンピードと同様、ギルドバトルでもDPを支払う事で遠距離にいる魔物にも命令を届ける事が出来る。しかし一時間ほどのタイムラグがあるのは変わらない。そのため前線部隊との距離が近い場合には伝令を使うのが一般的だ。今回の戦いでも一〇〇メートルほどの通路を走らせればすぐに決戦場に着くので伝令を使用していた。


 しかし自ダンジョンから決戦場への出入り口は決まっている。入り口付近に伏兵を配置すれば簡単に潰す事が出来てしまう。こちらが再集結の命令を届けられたのは増援部隊が来ると読んだからだ。あえて手を出さなかった。始末に手間取れば伏兵の存在が露見してしまう。


「伝令! 護衛を連れて撤退を伝えろ! 急げ!」

 上位種を含めた一〇〇匹の部隊を走らせる。伏兵といえど存在に気付かれないほどの小勢力だ。まとまった部隊を投入すれば伝令は届く。


 予想通り伏兵部隊は姿を見せなかった。しかしながら伝令部隊は本隊への合流を果たす前に、敵ギルド<マツリダワッショイ>の軍勢に襲われてしまう。


 <マツリダワッショイ>の軍勢はゴブリンやオークなどの妖魔、グレイウルフのような四足獣、ビッグスパイダーのような毒蟲、大鷲のような飛行ユニットなど雑多なモンスターから攻勢される一〇〇〇〇匹ほどの大軍だった。その数は半分ほどにまで削られていたが、一〇〇匹程度の伝令部隊程度なら一蹴出来る。


「野郎、手を組みやがったな!?」

 不安は的中し、<マツリダワッショイ>は部隊を半分に分けると、未だに伝令が届かずに無意味な攻城戦を続けるオーガ部隊ともう一つの対戦相手<ラッキーストライク>の軍勢へと襲い掛かった。


 砦からの反撃で傷ついた攻略部隊に後方から襲い掛かる魔物の群れ。さしもの両部隊も前後から挟み撃ちにされてはたまらない。しかもマツリダワッショイの軍勢には流れ矢の一本も飛んでいかないばかりか、まるで彼等を支援するかのような攻撃が度々行われている。


 徐々に被害報告が増えていき、その内に目で追えないほどの速度でログが流れるようになった。


「くそくそくそおおおおぉぉぉ――――ッ!」

 オーガ部隊は全滅した。


 <マツリダワッショイ>の使用DPは一一三三万DP。<オルランド最前線>や<ラッキーストライク>に比べて少ない。


 資本金を奪える立場の<宿り木の種>からすると一七〇〇万DPもの大金をギルドバトルに投じた<オルランド最前線>や<ラッキーストライク>が下位に落ちるのが望ましい。


 つまり<マツリダワッショイ>の戦力だけを生かしておくのは戦略上、正しい選択という事になる。


「すべてお前の手の平か……迷路の迷宮メイズ・メイズ……ッ」

 コウキは指揮所のテーブルを殴りつけるのだった。


「いつか必ず殺してやるぞ!!」

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