バトル準備
ダンジョン唯一の迎撃施設<決戦場>には汗水を垂らして働く<ハイコボルト>達の姿があった。
「ヒロト、どんなもんだ?」
ギルドダンジョンにある指揮所からケンゴが顔を出す。
「うん、今の所、順調だよ」
一ツ星級モンスター<ハイコボルト>は無印モンスターである<コボルト>がレベルアップの末、進化する上位個体である。能力的にはコボルトの上位互換で同じ等級のモンスターに比べて戦闘能力自体は低めに設定されている。
しかし彼等は真面目で従順、手先も器用な種族なので環境さえ整えてあれば優秀な職人や労働者になる。
ギルドバトルの準備のためヒロトはまずコボルトを主力とする<ガイア農園>からコボルト一〇〇〇匹を召喚してもらい、ケンゴに買取りさせる。
そしてスタンピードの群れとして登録させて<迷路の迷宮>にある<シルバースライムの渦>がある魔物部屋でパワーレベリングを実行する。
同一ダンジョンに所属しているモンスター同士が戦っても経験値はもらえないのだが、運のいい事に<迷路の迷宮>には現在、<王の剣>が逗留中であった。所属ダンジョンが違うため<シルバースライム狩り>でのパワーレベリングが可能なのだ。
別名<冒険者ホイホイ>と呼ばれるその恩恵は凄まじく、一〇〇〇体ものコボルトは僅か三日で進化を終えられた。
ちなみにコボルトの召喚コストは五DP。ギルドダンジョンに使用される場合、最低取引価格の一〇倍が適用されるのだがそれでも五〇DPしか掛からない。上位種である<ハイコボルト>の場合、召喚コストは一〇〇DPとなり、ギルドダンジョンに配置しようとするとそれだけで一〇〇〇DPも掛かってしまう。僅かな手間で二〇分の一ものコストダウンが図れた事になる。
進化した<ハイコボルト>には<銀のインゴット>を加工する鍛冶場を建設させた。迎撃モンスターのための武器や防具、弓矢などを製造させるのだ。
銀製武器は性能が高く市場価値も高いため長剣一本で二五DPもの値段が付けられてしまう。そのため原材料である<銀のインゴット>をダンジョンに配置し、そこから加工してもらう事にしたのだ。
五DPのインゴットだけで二本は作れるためそれだけで一〇分の一の価格にまで抑えられる。
更に銀のインゴットにはウーツ鋼のような高性能な鋼鉄を同量加えることで不純物の多い<鉄のインゴット>になる。銀でも鋼鉄でもないというわけだ。こうすることでインゴットの単価を一DPまで値段を抑える事が可能だ。
一度ダンジョンに配置してしまえばこっちのもので、<鉄のインゴット>九九個に対して<銀のインゴット>を加えれば銀の割合が五〇%を超えることになる。
そうするとシステム上は不純物の多い<銀インゴット>として認識されるわけだ。このインゴットを使って作られた武具は純銀製に比べて性能的に一段落ちるそうだが、素人目にはほとんど分からないレベルらしい。混ぜ物が超硬金属で知られるウーツ鋼である以上、大きな性能劣化は起きないのである。
これはダンジョンで働くドワーフ奴隷から聞いたテクニックで鍛治屋では昔からされている合金技術らしい。<メイズ工房>が人気なのは職人の腕もさることながら、貴重な純銀装備である事も要因らしい。
性能はもちろん資産価値も高いというわけである。そんな貴重な品を普通の銀装備の相場以下で販売していたのだから人気も出ようというものである。
ともあれ装備品の使用コストは通常の五〇分の一程度にまでコストダウンが可能となった。
問題は加工である。<ハイコボルト>は生まれながらの職人なわけだが、設備が必要になってくる。地球だと銀の融解温度は九六一度だが、大量の魔力を含有できるこの世界では二〇〇〇度近くまで耐えられるそうだ。
そのため魔導炉と呼ばれる特殊な反射炉が必要になってくる。そこで活躍するのが一ツ星級モンスターである<ゴブリンウィザード>達である。
もちろん<ゴブリン>から進化させた個体である。<ゴブリン>から<ゴブリンシャーマン>を経て二段階進化したその個体は豊富な魔力と多彩な魔法攻撃を行使出来る強力な魔法ユニットである。
<ゴブリンウィザード>は戦闘時における魔法支援はもちろん、平時には豊富な魔力を使って魔導炉を起動させるなどの生産活動を助ける役目を担っている。
ハイコボルト達は高熱を発する魔導炉の前に立ち、槍や鏃といった武器、兜や胸当て手甲、脛当てといった防具を作っていく。
その向こう側では別のハイコボルト達が<大蜘蛛>から進化した三ツ星級モンスター<巨大蜘蛛>が吐き出す糸を織っている。蜘蛛系モンスターが吐き出す糸は非常に強靭な事で知られている。
その上位個体である<巨大蜘蛛>の糸から作られた布地は高い防刃性を持ち、優れた魔法防御力まで備えている。最高級の装備を揃える事で知られる<メイズ抜刀隊>のアンダーアーマーにも使われるほどの高級品だ。
この高級素材を重ね合わせ、要所を銀製防具で保護すれば王都でも滅多に出回らない最高級防具の出来上がりである。
「これは、すごいな……ゴブリンに使わせるのが勿体無いくらいだ」
「<巨大蜘蛛>の布地ならダンジョンにも大量に在庫があるから、欲しかったら持っていっていいよ」
ヒロトはレアガチャチケットで<巨大蜘蛛>を数体手に入れており、毎日、弱らない程度に糸を吐き出させては高級布を生産している。
<巨大蜘蛛>はその巨躯もあって毎日大量の糸を吐き出す事が可能だ。維持コスト分を支払っているのだから少しでも元を取りたいという勿体無い精神で生産させているのだが、特に販売していないため在庫は増えていく一方であった。ちなみに肌触りはシルク以上に滑らかなので子供達の普段着として評判は上々だ。
「言い値で買おう。むしろ売ってくれ」
「了解。そんなに人気ならギルドの<市場>に流そうかな。皆買ってくれるといいけど」
そんな事を呟きつつ、一〇〇〇匹ものハイコボルト達による製造現場の視察を終え、ヒロトは砦の建設地に赴く。
決戦場の中央部分では大量のゴブリン達が汗を流していた。その数なんと一万匹。大量のゴブリン達が倉庫にある大量の資材を運び出す様はさながら蟻の行列のようだ。
ヒロトは<宿り木の種>の主力モンスターを<ゴブリン>にしている。理由は召喚コストが異常に安い事だ。一体あたりの召喚コストは五DP。しかも雑魚モンスターであるが故に成長速度が速く、個体差が大きい事から豊富な進化先があるのもありがたい。
ヒロトは今回のギルドバトルのために四万匹もの<ゴブリン>を大量召喚した。ちなみに大量召喚時にはその数に応じて割引が効き、一万匹以上の場合、召喚コストが半分になる。
ちなみに召喚時にはオプションをつけて<強化召喚>している。強化召喚とはDPを追加してその個体に特殊なスキルを付与した上で呼び出すというものだ。
追加DP額は呼び出す魔物の召喚コストとスキルの等級――例によって星の数でレア度が決まる――によって変化する。スキルは三ツ星級だと召喚コストの倍、二ツ星級は召喚コストと同額、一ツ星級では召喚コストの半分、無印の場合は四分の一が必要となってくる。
通常、ゴブリンのような使い捨てのモンスターで行われる機能ではないが、大量召喚による割引が効くようなので強化召喚に踏み切っていた。
各個体には三ツ星級の<成長補正>と一ツ星級の<経験値取得量増加>と<魔力強化>を付けた。召喚コストは一五と三倍近くになった。大量召喚割引で八DPで済んでいるが、それでも結構な出費であった。
しかし最弱種とされるゴブリンだけに<成長補正>や<魔力強化>といった強化スキルは必須だった。レベルアップや進化時のステータス上昇量が段違いだ。低コストの雑魚モンスターを育成する事を前提にしているため、このようなスキルをセットしたほうが結果的に戦力値は高くなる。
<迷路の迷宮>では子供達を育成するために討伐時に莫大な経験値を与えてくれる<シルバースライムの渦>を複数用意していた。<経験時取得量増加>によって成長速度を極限まで高められた個体は瞬く間に成長していった。
また今回の大量育成で<成長補正>や<魔力強化>などのオプションスキルをセットすると特殊進化を遂げる可能性が高まるという事も分かった。
ゴブリンは通常、戦士系の<ゴブリンファイター>へ進化する。更にもう一段階進化可能で一ツ星級の<ゴブリンウォリアー>、更に一%の確率で二ツ星級の<ゴブリンナイト>にまで進化する個体が出てくる。
戦士系への進化確率は八〇%程度だと言われているが、今回は拠点に寄って戦うつもりなので出番は少ない。
逆に防衛戦向きの進化先は弓矢の扱いに長けた<ゴブリンアーチャー>で確率は一〇%。そこから<ゴブリンハンター>、レア個体が<ゴブリンアサシン>にまで進化する。
更に残りの一〇%を回復役や魔法系、指揮官系と均等に割り振られるというもの。
しかし今回の強化召喚により特殊個体への進化が促進されたようで戦士系は五〇%程度にまで抑えられ、狩人系が二〇%、残りを回復系と魔法系と指揮官系で一〇%という分布に変化した。
ちなみに各ルートだが、回復系だと<ゴブリンヒーラー>→<プリースト>→<クレリック>となる。魔法使いルートなら<ゴブリンシャーマン>→<ソーサラー>→<ウィザード>で、指揮官系は<ゴブリンリーダ>→<キャプテン>→<ジェネラル>となっていた。
この三段階目への進化率は通常全体の一%程度なのだが、<成長補正>のおかげで五%ほどにまで上昇している。
更に嬉しいのが突然変異種である三ツ星級<ゴブリンキング>の発生率増加である。<ゴブリンキング>は進化ルート関係なく一万匹に一匹程度の確率で進化する激レア個体だ。
三ツ星級モンスター<ゴブリンキング>は高い戦闘能力もさることながら<王の統率>という強力なスキルを保有している。王の指揮下にあるゴブリン族の全ステータスが一%もアップするというものだ。
筋力も耐久性も素早さも魔力も魔法耐性もアップする。レベル換算で二くらい上がっていると考えていいだろう。しかも効果は重複するため数を揃えれば揃えるほど個々の戦闘能力が上がる。
<宿り木の種>ではそんな<ゴブリンキング>が一五匹も誕生している。四万匹を召喚しているため確率は三倍強。流石に<成長補正>が突然変異種の発生率にまで影響を及ぼすとはヒロト達も考えて居らず単純に驚いていた。
恐らくノーマル召喚した場合に比べ、戦力差は十倍では効かないレベルになっているように思われる。充分に元は取ったと言えるだろう。
「後は拠点の建築かな」
ヒロトはそう言うとゴブリン達を動かし、縄張り――建設予定範囲を縄で囲んで作った目安――の所まで大量の石灰と砂利を運ばせる。さらに<巨大蜘蛛>が吐き出す糸もばら撒いた。
魔法系に進化したゴブリンウィザードやソーサラー達が水魔法を使ってそこいら中を水びたしにする。そこからゴブリンウィザード達が一斉に魔法の詠唱を始めるとその場に巨大な城壁が屹立した。高さ一〇メートル超、厚さ三メートルの分厚いコンクリート壁の出来上がりだ。
コンクリートを敷設することで城壁を作ったのだ。ガイアでは魔法によって起こった現象は魔法が切れた後も残り続けるという法則がある。魔法で作った水も飲めるし、火球で起きた火災もそのままだ。
そこで各国では戦争の時などにコンクリートの材料を運び出して<土壁>を発動させる事で簡易な防衛拠点を作ることがよくあるのだ。ちなみに<土壁>には鉄筋を入れられないため強度は低くなるのだが、そこを<巨大蜘蛛>が吐き出す糸でツナギをする事により強度を高める事が出来る。
しばらく魔法効果が切れるのを待ってゴブリンウォーリアやハンター達が石切鋸を使って階段や足場を作っていく。他にも城壁にあえて小さな穴を空け、弓矢を射るための狭間を作っていく。かなり地味で根気のいる作業だが、ゴブリンキングの指揮の下、彼等は文句一つ言わずに一心不乱に作業を続けている。
更に城壁の向こう側では進化したゴブリン達が隊列を組み、戦闘訓練を行っている。銀製の槍と盾を構え、巨大蜘蛛の布鎧を装備して完全武装の状態だ。ゴブリンキングの号令一下、方円陣を組んだ。続けて魚鱗の陣に変化して突撃を行っていた。
別の場所では魔法系のゴブリン達が<連鎖>の訓練を行っている。同一系統の攻撃を同一タイミングで射出する事で威力が倍増するというものだ。千を超える軍勢から放たれる火炎魔法は凄まじいものがあった。
目が眩むほどの爆発、耳を聾するような轟音、最終的には砂煙で何も見えなくなってしまう。すぐに風魔法の連鎖が行われ、砂煙が吹き飛んでいく。残された着弾箇所は隕石でも落ちてきたかのように抉れており、その威力は近代兵器でさえ凌ぐほどだった。
「これだけ戦力が揃っていれば問題ないな」
「うん、多分大丈夫だと思うよ……他のギルドが同じ事をしていなければだけど」
ヒロトが取った作戦は正攻法と言えるものだろう。雑魚モンスターを大量召喚し、パワーレベリングで急成長させ、高品質な武器を作って戦力の底上げを図る。防衛拠点を作り、常に有利な状況で戦えるようにする。
「まあ、それもヒロトのダンジョンだからこそ出来る事だがな」
「ケンゴ君が一緒に居てくれるからだよ」
シルバースライムというレアモンスターの渦を大量に用意し、信頼出来るギルドメンバーが近隣に居なければ到底不可能な事だった。
これだけの条件を兼ね備えたダンジョンが他にあるだろうか。
負ける気がしないね。そんな確信を抱きつつも、心配性のヒロトは完成したばかりの城門の前に巨大な落とし穴を作るように指示を出すのだった。
[内訳]
四〇〇万DP→実質四〇万DP
コボルト :一〇DP×一〇〇〇匹 一万DP
進化 ハイコボルト★
大蜘蛛★ :五〇〇DP×二〇匹 一万DP
進化 巨大蜘蛛★★★
ゴブリン : 八DP×四〇千匹 三二万DP
進化 ゴブリンウォリアー★ ×一九千匹
進化 ゴブリンナイト★★ × 一千匹
進化 ゴブリンハンター★ ×七六百匹
進化 ゴブリンアサシン★★ × 四百匹
進化 ゴブリンプリースト★ ×三八百匹
進化 ゴブリンクレリック★★ × 二百匹
進化 ゴブリンソーサラー★ ×三八百匹
進化 ゴブリンウィザード★ × 二百匹
進化 ゴブリンキャプテン★ ×三八百匹
進化 ゴブリンジェネラル★★ × 二百匹
進化 ゴブリンキング★★★ × 一五匹
決戦場拡張(1キロ) : 一万DP
コンクリ(石灰、砂利): 一万DP
インゴット : 四万DP
※なお、石灰や砂利、インゴットは在庫あり




