ギルドバトル 開幕
準備に追われること一ヶ月。ギルドバトルの開催日がやって来た。ディアはいつも変わらず午前一〇時ぴったりに姿を見せる。
「おはようございます、ヒロト様」
いつもの表情、いつもの仕草、普段と変わらないのだと、緊張するヒロトへ言い聞かせているように思えた。
「お、おはよう、ディアさん……緊張するね」
「ヒロト様なら大丈夫です。早速ですがこちらを」
そう言って手渡されたのはギルドバトルの組み合わせ表である。
この日までに設立された全一七ギルドが参加表明をしている。ここ最近、掲示板の話題の中心はこのギルドバトルだった。このイベントに参加するためだけに設立されたギルドも多いらしいようだ。
ヒロトの設立したギルド<宿り木の種>はC組となった。
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【C組対戦表】
オルランド最前線
使用DP:一七〇〇万DP
ラッキーストライク
使用DP:一七〇〇万DP
マツリダワッショイ
使用DP:一一三三万DP
宿り木の種
使用DP:四〇〇万DP
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「やっぱりミスリードだったね」
各ギルドがどれだけのDPを使用するか、掲示板では探りあいやら予想やらが飛び交っていた。その中でしきりに議論されていたのが<八五〇万の壁>である。
出資額に制限があるためどれだけ出資しようが使用可能DPは二二〇〇万DP以下となる。しかしギルドバトルで資本金が五〇〇万DPを下回れば等級が落ちてしまう。同様に敗北した場合にも使用DPと同額を優勝者に奪われてしまうわけでギルドが解散するという可能性が出てくる。
リスクを最大限考慮した場合――四位に落ちてもいいようにする――場合は八五〇万DPまでとなる。掲示板の話では八五〇万DPが有力であるという声が大きかった。
しかし、よくよく考えてみれば上位入賞が確実ならリスクを考慮する必要はない。つまり一七〇〇万DPまで使用出来るわけだ。使用額の半分まで没収される三位までを考慮するなら一一三〇万DPまで使用するという手もある。
掲示板ではあえて選択肢を狭めるような言動が多かったが、やはり幾つかのギルドが競合してミスリードを誘っていたようである。もしかしたらC組のギルドメンバー達も誘導に参加していたのかもしれない。
「投資額の違いが、戦力の決定的差ではないことを教えてやる」
クロエの上から目線の発言に、ヒロトは苦笑いを浮かべた。
二人は連れ立ってダンジョンでいうコアルーム、ギルドバトルで指揮を執るためだけの施設<指揮所>へ移動するのだった。
「ケッ、エンジョイ勢が」
渡瀬光輝は吐き捨てるように言った。待ちに待ったギルドバトルの日、組み合わせ表を見た瞬間、ひどい落胆を覚えた。
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【C組対戦表】
オルランド最前線
使用DP:一七〇〇万DP
ラッキーストライク
使用DP:一七〇〇万DP
マツリダワッショイ
使用DP:一一三三万DP
宿り木の種
使用DP:四〇〇万DP
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コウキは二ツ星級ギルド<オルランド最前線>のギルドマスターにして序列九位のナンバーズ<渡る世間は鬼ヶ島>の主であった。
ガイアでも屈指の大国であるオルランド王国の北部ロンスヴォー地方に拠を構え、精強な王国軍や領主軍、冒険者達を返り討ちにしてきた実力者である。
その戦略は単純明快。主力モンスターである鬼種の渦を量産し、数を揃えて一方的に蹂躙するというものだ。
<オーガ>を始めとする鬼系モンスターはコストパフォーマンスに優れた魔物である。召喚コストは二〇〇と比較的少ないにも関わらず、高い攻撃力と耐久性を誇っている。
筋骨隆々、体長三メートルを超える巨躯から繰り出される棍棒の一撃は岩をも砕く威力があるし、分厚い表皮は革鎧にも使われるほどの強度を誇る。並みの冒険者では傷を付ける事すら出来ないような天然の鎧を標準装備しているのだ。
ゴーレム種に次ぐほどの攻撃力や防御力を持つにも関わらず、動きも軽快だ。原始的な狩猟生活を送っているためその体躯からは考えられないほど俊敏に動けるのだ。
更に知性もあった。狩猟生活の中で道具を作り出すようになったからだ。飛び道具を使ったり、罠を仕掛けたり、原始的ながら戦術に近い思考を持つ程の知能を持つ。
彼等は優れた戦士であると同時、狡猾な狩人でもあるわけだ。強く硬く鋭く賢い。何故、地上が鬼族に支配されていないか不思議なくらいである。
もちろん理由はあって鬼族が原始的な狩猟生活を営んでいるせいだった。その巨体を維持するためにはどうしても大量の食料を必要になる。そのため広い縄張りが必要だし、家族単位レベルでの集団でしか生活が出来ない。また寿命も五〇年ほどと長いため、子供の成長速度も人間のそれと変らない。
数を揃えられないため、どうしても人間族との生存競争に負けてしまうのだ。
しかし繁殖力という鬼族唯一の弱点はダンジョンシステムの<召喚>や<渦>といった機能で簡単に補えてしまう。
安定性に欠ける狩猟生活を営むが故に繁栄しきれない鬼族であるものの、ガイアにおいては人族との生活圏が近いため割と知られたポピュラーな魔物でもあった。そのためレアリティという観点から戦闘能力に比べて召喚コストが低めに設定されているのだろう。
その事実をサポート担当から聞かされたコウキはとにかく鬼系モンスターを召喚しやすいダンジョン作りを心がけた。
初年度から<オーガの渦>を作り、数を揃えてスタンピードによってポイントを稼ぐ。稼いだポイントで更なる戦力を召喚する。一般的なダンジョンの拡張方法を用いて頭数を増やしていったのだ。
そして一〇〇〇を超える鬼の軍勢を手にした<渡る世間は鬼ヶ島>は向かうところ敵なしの存在になった。ダンジョンバトルでも一〇連勝をして迷宮神から表彰されたほどである。
これまでのダンジョンバトルの戦績は一二勝一敗。回数こそ少ないものの全員が一〇位台の上位ダンジョンという事を考えれば素晴らしい戦績と言えるだろう。
そんな<渡る世間の鬼ヶ島>において唯一の汚点が本年度初めに挑んだ上位者、序列第八位<迷路の迷宮>とのダンジョンバトルであった。コウキが誇る強力無比な軍勢はしかし巨大な迷路を攻略し切る事が出来ず、罠によるダメージで判定負けを喫してしまった。
正々堂々戦い合って敗北したならともかく、あの戦いには未だに納得のいかないコウキだったが、それでも腐る事無く精力的に活動を続け、ギルド<渡る世間は鬼ヶ島>を運営してきた。
今回のギルドバトルでもそうだ。コストパフォーマンスに優れた鬼の軍勢を用意する事で他ギルドを叩き伏せてみせると豪語し、ギルドダンジョンの実質的な上限額まで投資させ、実質的な上限額である一七〇〇万DPまで使用させる事への合意を得た。更には彼等のギルドメンバーを使って掲示板を使ったミスリードを誘うなどの謀略まで使っている。
そして初めてのギルドバトルの対戦相手にあの<迷路の迷宮>率いる<宿り木の種>が入っていた事にコウキにとって運命めいたものさえ感じてしまった。
「……それが、たったの四〇〇万DPだと……」
コウキがミスリードを誘ってきた八五〇万DPであったなら問題なかった。むしろライバルを陥れられたと胸の空く思いを味わっていただろう。
それが僅か四〇〇万DP。<八五〇万の壁>にさえ届かない額のDPしか投入してこなかったのである。きっと人類との共存なんて世迷いごとをほざいていたから出資を集められなかったに違いない。
しかし、一方でコウキにはそれがまるで本気なんて出さなくても余裕だと言われている感じられた。
「……舐めやがって……絶対に後悔させてやる!」
もはや手加減する理由もない。毎日必死こいて侵入者を退けているコウキ達、一般的なダンジョンマスター達を尻目に、人間共と仲良くしようなんて寝言をほざくふざけた連中である。
コウキはこの日のために用意したオーガ部隊を<宿り木の種>に差し向けるのだった。




