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戦略会議

 メンバーが揃ったところで第二回<宿り木の種>の<会議>が開催される。<会議>はギルド機能の一つで、出席者を<会議室>と呼ばれる謎スペースに転移させて打ち合わせを行うというものだ。


 ちなみに内部での戦闘行為は禁止されており、破れば最悪はコア没収――事実上の極刑――などの厳しい罰則が科せられる。破れない訳じゃないというのがミソだろう。


 会議室の内容はギルドランクによって変更されるようで、最低の一ツ星級ギルドである<宿り木の種>の場合は簡素な長机と椅子が並んでいるだけの狭い空間だった。無味乾燥とした雰囲気はそこはかとなく学習塾の教室を連想させた。


 座席は一〇席しかないため、出席者はダンジョンマスターと同伴者一名までとした。


 ギルドマスターである<迷路の迷宮>からは当然の如くヒロトとディアが参加する。


 サブマスター的なポジジョンにある<王の剣>は会長こと大野謙吾ケンゴと装備品の眷属達。


 続いて<ガイア農園>からは園長こと田畠雄大ユウダイとサポート役の大地母神ミルミルの新婚夫婦が参加する。会議中にいちゃつかれないかが心配だ。


 <大漁丸>の船長浜崎勝マサルはサハギン族の長老――眷属にしたそうだ――のコポゥ氏。ちなみに人間族の言葉は喋れないそうで実質はいないのと同じ。単なる興味本位で付いてきたようだ。


 <俺も乗せて>の大佐室岡吾郎ゴロウはダンジョンマスターのみの参加予定だったが、喋れなくてもいいんならとハーピィ族の恋人ピッピちゃんを連れてきた。白い尾羽が特徴の可愛らしい少女だった。なお、ハーピィ族の手足の造形については良し悪しが分からないのでノーコメントとする。


 奇遇な事に<大漁丸>と<俺も乗せて>を担当するサポート神は同一人物だったそうだ。やたらとその担当神の悪口で盛り上がっている。ディア曰く迷宮神派閥の一柱だそうで、傲慢で居丈高な物言いをするようだ。


 しかも平和に暮らしたい彼らに一斉スタンピードへの参加を進めてくるなど全く馬が合わず、盛大に仲違いしているらしい。今は最低限の連絡事項だけして帰っていくそうだ。


「では、第二回ギルド会議を行います。今回の議題は<ギルドバトル>についてです」

 ヒロトが口を開く。<宿り木の種>ではメンバーが揃ってから毎週月曜日の午前中に定例会議を行う事になっている。顔合せ目的の第一回とは打って変わって皆、難しそうな顔をしていた。


 ヒロトが目配せをすると、ケンゴが口を開く。


「まず参加するかどうかだが……」

 生徒会長だったこともあり、会議やディスカッションなどに慣れているため司会進行をお願いしているのだ。


「そうだな、まずはギルマスの意見から聞かせてくれ」

「うん、まず僕は少なくとも参加だけはするべきだと思ってる」

 ギルドバトルは順位に関わらず、参戦するだけでも賞金や副賞が貰えるようだ。ギルドバトルに敗北した場合、使用したDP分を徴収されてしまうわけだが、そもそもDPを使わなければいけないという決まりもない。


「そうだな、俺も参加でいいと思うぜ」

 園長ことユウダイの言葉に残りメンバーも頷いた。


「じゃあ、参戦で決定。次はどれだけ投資するかだ」

 ケンゴは言いながら壁に『参戦』と書き付ける。会議室は亜空間らしく壁に文字を書き込んでも次回には消えてしまう。そのため後々の事を気にせず壁に落書きが出来るわけだ。もちろんしないが。


「ちなみにギルマスは他のギルドがどれくらいの額を投資してくると思ってるんだ?」

「……常識的に考えたら八五〇万までだと思うけど、無茶をしてくる人もいるからなぁ」

 ギルドバトルでは資本金額までギルドダンジョンに投資可能だ。二ツ星ギルドの場合、一般会員は二〇〇万DP、ギルドマスターは四〇〇万DPまで出資出来る。出資上限額があるため最大二二〇〇万DPまでは使用出来る計算になる。


 ただしギルドバトルで下位に甘んじれば優勝者に、ギルドバトルに投資した分の資本金を奪われるというルールがある。するとギルドの等級が下がったり、最悪の場合、ギルドが解散するという可能性が出てきてしまう。


 勝利を得るためには投資が必要だ。しかし資本金を使いすぎればギルドの等級を落ちてしまう。二ツ星級の会員枠は一〇枠。五枠しかない一ツ星にランクダウンした場合、メンバーの半数を追放しなければならない。


 追放された側からしてみれば何の落ち度もないのにギルドを首にされた訳だ。等級を戻した後も再び加入させてくれる保証はない。例え戻れたとしても遺恨が残る可能性は大いにある。次に等級が下がった場合、再び追放される事を考えれば不安を覚えて当然だろう。


 メンバーの追放はギルマス側としても憂慮するべき事態だ。例えば追放されたギルドの情報を持ってライバルギルドに加入するメンバーも出てくるかもしれない。


 移動したギルドメンバーからギルドの情報が流れる可能性は高い。自らギルドを辞めたわけでもないし、裏切り行為には当たらないと考えるのがほとんどだろう。


 そんな中で出てきたのが<八五〇万の壁>である。リスクを最大限考慮した場合――例えば最下位でもギルド降格が起きないようにするためには出資額は最大でも八五〇万DPまでとなるのである。


 次の基準値、ブービーまでを考慮するのなら一一三〇万DPあたりが基準値になる。最下位でさえなければ降格は起きない。


 しかし確実に上位に入る絶対の自信があるのなら一七〇〇万DPを使用するという手もあった。下位に甘んじれば使用DPに応じた出資金を奪われ、ギルドを強制解散させられてしまうが、上位に入れば問題はない。


 それ以上の投資はギルドバトル開始時点で自動的に降格になる事から選択出来ないだろう。


「その計算でいけば俺達は最大で一二〇〇万まで出せるな」

 ケンゴが言う。<宿り木の種>は一つ星級ギルドである。会員数は五つのまま。今のメンバーで金を出し合えば最大で一二〇〇万DPまで資本金を増やすことが可能である。


 資本金がゼロになっても問題ない。元々<人類と共存したい>というヒロトの思想を元に集まってきた集団であるわけだから、解散したところですぐにギルドを設立すればいい。小回りの聞く小所帯ならではの特権といえるだろう。


「悪いが俺ん所にはそんな余裕はねえな」

 園長ことユウダイが発言した。<ガイア農園>の主な収益は飼育している家畜から齎されるDPだけだ。ランキングだって三〇〇位台を行ったり来たりしている状況なのでヒロトやケンゴのような上位ランカーと比べて出せる額には限界があった。


「俺っちの所はギリギリだけど、勝算もなく二〇〇万は出せねえよ」

「私もだ。少なくとも作戦くらいはここで提示して欲しい」

 続いてマサル船長とゴロウ大佐が口を開く。サハギン族やハーピィ族といった部族を丸ごと乗せている<大漁丸>や<俺も乗せて>の場合は<ガイア農園>よりもDP取得量が多いわけだが、それでも上位ランカーの基準で考えられては困る。


 現在の資本金は三三〇万DP。内訳は設立時に<迷路の迷宮>が投資上限額である二〇〇万DPを出し、次に加入した<王の剣>が上限額の一〇〇万DPを出資。残りの三ダンジョンが一〇万DPずつを出し合っているという状況である。


 二ツ星級ギルドになったとしても追加されるギルドメンバーは<ガイア農園>のような生産系ダンジョンになるだろうからDPに余裕はないはずだ。そもそも今の投資額だって彼らからすれば大変な負担であった。


「ヒロト、本気で戦うとした場合、どんな作戦を考えているんだ?」

 ケンゴが期待に目を輝かせて尋ねてくる。<迷路の迷宮>は全ダンジョンの中でも指折りの戦巧者だ。ダンジョンバトルでは連戦連勝、迷宮神の支援を受けた元ナンバーズ<ハニートラップ>を跳ね返した実績がある。


 しかし、ヒロトが申し訳なさそうに頬をかく。


「いや、むしろそれを相談しようと思ってたんだよね」

 圧倒的な戦績を誇ってきた<迷路の迷宮>だが、これらの功績はダンジョンの戦闘能力が高いために為せたわけではないのだった。


 巨大な迷路で足止めをし、集中力の切れたところを命中率の高い罠で僅かでもダメージを与えていく。二四時間という短い時間制限の中、僅かでもダメージを与えた方が判定勝ちになるルールに適合したからこそ無傷の一〇八連勝――<王の剣>とのダンジョンバトルで引き分けたため記録はストップしたものの――という偉業を達成出来たのである。


 しかしギルドバトルでは迷路を使った戦法が通用しない。なにせ複数のダンジョンが同時に戦うバトルロイヤル形式である。自軍への被害は無視して、敵軍に多くの損害を与えた者が勝者となるルールなのだ。


 つまり敵同士が戦い合って勝手にスコアを重ねていくわけで、迷路による足止めという消極的な戦術では後れを取る可能性が高かった。どれだけ上手に敵軍を足止め出来たところで他ダンジョン同士でスコアを稼ぎ合われたら意味がない。


「上手くやれば同士討ちで勝てるかも知れないけど……まあ、難しいよね」

 他ダンジョン同士が自ダンジョン内で殺しあった場合、スコアの二五%が手に入る仕様になっている。自陣地で敵同士で殺し合わせてポイントを稼ぐという戦略もあるが、敵を招き入れるだけのメリットを提示しなければならない。


 ダンジョンバトルに比べ、ギルドバトルはルールが複雑すぎて確実に勝てるという戦略を打ち立てるのが非常に難しいのだ。


 ルールが複雑化すればするほど勝敗は読めなくなっていく。オセロならコンピュータは先手さえ取れば確実に勝てるわけだが、囲碁や将棋では未だに必勝法は生み出されていない。それは取れる選択肢が多すぎるからなのだ。


 ふいにケンゴが口を開く。


「ディア殿だったか? 例えば……人間の奴隷戦士を投入した場合、召喚コストはどうなる?」

「僕は子供達をそんな事に使うつもりはないよ」

 ヒロトが鍛え上げた子供達はダンジョン防衛の切り札であると同時に守るべき対象でもある。ギルドバトルのような命の掛かっていない――言い方は悪いがお遊びのような――戦いに投入するつもりはなかった。


「まあ、待て。あくまで例えばの話だ」

「……人間や亜人といった種族の場合、個人による戦闘能力が違いすぎるため侵入者ランクに応じたコストが掛かります。ダンジョン運営では野生のモンスターをテイムして配下にする事が可能ですがその場合でも同様でその魔物の等級に応じたコストになるようです。

 逆に召喚したモンスターやダンジョン内で繁殖した場合は通常召喚した場合と同じコストが必要となります」

「召喚された<殺戮蜂>と産卵で生まれた<殺戮蜂>で同じコストなわけだ」

「はい。個体毎のレベルがどうであれ同一のコストが掛かります。<市場>に出品する際の最低販売価格・・・・・・の一〇倍というルールは変わりません」

 ディアが答えると、それまで難しそうに俯いていたヒロトが顔を上げる。


「あ、」

「どうした、ヒロト?」

「うん……このバトル、普通に勝てるかも」


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