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ギルド機能の検証

 ヒロトが顔を上げると、そこには握手を交わしたまま困ったような顔をする友人の姿があった。


「あれ? なんでまだ居るの?」

 バトル終了後も二人はいまだに握手を交わしたままだった。


「悪い、言い忘れてた。俺は俺自身がダンジョンそのものだからバトルが終わってもそのままなんだ……」

 ケンゴはバツが悪そうに言う。


「補足しますと<王の剣>はダンジョンの入り口を持ちません。そのため特例としてダンジョンバトル開始時にダンジョン入り口に転送される仕組みになっています」

 転送は一方通行で、バトル終了後も元居た場所に戻れるわけではないらしい。


「だから交渉が決裂した場合、危険だと……」

「申し訳ありません、対戦相手の情報を漏らすことは禁止されておりまして。注意喚起程度しか許されていないのです」

 もちろんディアは二人の性格や相性や異世界転移前の交友関係を熟慮した上で紹介していた。万が一、交渉が決裂した場合にはペナルティ覚悟で二人を引き離そうとは思っていたが。


「まあ、もっと話したい事もあったから良かったかな。そうだ、ケンゴ君、しばらくここに住まない?」

 少し照れくさそうにヒロトが尋ねる。


「それじゃあ、遠慮なく」

 ケンゴが頷いた事でしばらくの滞在が決定した。こうして<迷路の迷宮>には別のダンジョンが居候する事になった。







 ギルド加入手続きを終えたヒロト達は、話題のギルド機能を試す事にした。


 特に注目されている<市場>はきちんと仕様を把握しておきたいところである。


 ダンジョン機能にはごく稀に漏れがあったりする。それは設計者が想定しない使い方をされた時にバグを起こし、それがダンジョンマスターが有利に動く事があるのだ。


 例えば<迷路の迷宮>が利用した<奴隷の奴隷>はその最たる物と言えるだろう。他にも配下モンスターがダンジョンから出されて一日以上経過すると野生化する仕様――維持コストが届かなくなるため主従関係が切れる――を利用して、<渦>などを使って野良モンスターを量産、好物や雌モンスターを使って誘き寄せ、ダンジョン内で討伐する事でDPを稼いでいたダンジョンもあったそうだ。


 ちなみに現在は仕様変更が入り、自ダンジョンで生まれたモンスターを倒してもDPは獲得出来ないようになっている。この裏ワザを使用していたダンジョンは、野良モンスターによって周辺地域の人間はおろか在来種のモンスターまで全滅させられてしまったらしく、侵入者が全く来ない状態になってしまったという。


 なお、野生化したモンスターの子孫を倒す分にはDPは入るようで今はその制度を利用して細々とやっているらしい。


 この話をディアから聞いた時、「悪い事はするもんじゃないね」とヒロトは他人事のように言ったという。


「ケンゴ君、とりあえず<シルバードール>を最低販売価格で置いたよ」

 <市場>では商品を提示した場合、システムで最低販売価格を設定されてしまう。これはギルドマスターなどの力あるダンジョンが、下位ダンジョンに不当な取引をさせないための措置であった。


「ああ、見えた。五万DPか……結構するんだな」

「召喚モンスターの場合、召喚コストと同じになるんだね」

 <シルバードール>は三ツ星級中位の戦闘能力を持つ<シルバーゴーレム>の亜種だ。召喚コストもそれなりに高くなる。


「最低価格で出すと手数料分で赤字になるね」

 更に<市場>では販売価格の一割が手数料としてシステム側に徴収される。ヒロトが赤字にならないためには若干の価格を上乗せする必要があった。ちなみに一〇DP未満の低価格商品の場合には取られないようだ。


 ちなみに上限価格も決められていて召喚コストの二倍までしか設定できない。こうする事でギルドマスターからのギルド員への搾取を防ぐ狙いのようだ。


「俺も<リビングアーマー>と<リビングソード>を出品した」

「それぞれ二五DPだね」

「最低販売価格は召喚コストと同一で確定だな」

 ケンゴは一度注文をキャンセルし、武具モンスターを装備して<魔物部屋>へと入っていった。一分ほどが<シルバースライム>を狩ってから改めて出品する。


「レベル五の状態で出品した」

「うん、やっぱり変らないね」

 続けてレベル一〇、一五、二〇と順次レベルアップをさせながらモンスターを出品していく。いずれも販売価格は二五DPから五〇DPのままだった。


「じゃあ、進化させるぞ」

 一ツ星級のモンスターはほとんどの場合、レベル二五で成長限界に達する。そこから上位モンスターに進化させる事が出来る。個体によっては特殊なルートへ進化する事もあるようだが、今回は通常進化したらしい。<彷徨う鎧>と<呪いの剣>という魔物になった。


「よし、二五から五〇〇まで選べるようになった」

「上位種の召喚コストは二五〇?」

 ヒロトが尋ねればケンゴが頷く。


「維持コストは進化前と同じ……だから何って話だけど」

 それからヒロト達は召喚モンスターだけでなく、ダンジョン内で生産した武具や町で購入した食料品なども出品してみる事にした。


「食料品は一律一DP、銀のインゴットが五DP、<フェザーダンス>は一〇〇DPね……」

 アイテム類の場合は希少性や市場価値によって最低販売価格が決まってくるようだ。上限価格も同じく二倍まで設定可能だ。


 今度は<彷徨う鎧>を一〇〇DPで出品してもらい、シルバースライムからドロップする魔剣<疾風剣フェザーダンス>での支払いを持ちかける。交換枠には制限がないようである。


「許可するか、拒否するかのダイアログが出た」

「物々交換の場合は手数料を取られないんだね」

「はい、元々はギルド内での交流活性化が目的の機能ですから。一方的な取引にならないように幾つかルールを加えているそうです」

 ディアの回答に、ヒロトは疲れたように笑う。


「全然、防げてないけどね」

「どういう事でしょう?」

「召喚DPをベースにしているなら、DPの割に価値の低い魔物と、希少だけどDPの低い魔物のトレードとかが出来るじゃない? 例えばトロールとリビングソードなら交換可能になる」

 大抵のダンジョンで召喚出来るトロールと、滅多に手に入らない隠れ種族のリビングソードでは実際の価値は大きく異なるだろう。


「それに一〇DPで召喚したゴブリンを二〇DPで売却を迫るなんてことも出来る」

「さすがヒロトだな。よくそんな事をポンポンと思いつくな」

「まあ、ウチではそんな事しないし、させるつもりもないから関係ないけど……」

「他に思いついた事はあるか?」

「……ぱっと考え付くのは手数料のカットぐらいかなぁ」

 ヒロトが呟く。


「どういう事だ?」

「例えば<銀のインゴット>は五DPで販売出来るでしょ? これをギルド内の共通通貨にするんだよ」

「ああ、そういう事かそれなら手数料も掛からない」

 <銀のインゴット>はシルバースライムのノーマルドロップだ。およそ一割の確率で出る。ヒロトのダンジョンでは<メイズ工房>で作られる武具の材料や、食料買い付けの資金として使っているが――不安定な情勢のおかげで現物価値のある銀や金は値上がり気味だ――それでも消費し切れなかったインゴットが山のように積まれている。


 これを通貨として使用する事で手数料を省こうという訳である。一割という手数料は割りと馬鹿にならない。例えば<シルバードール>を五〇〇〇〇DPで出品すると五〇〇〇DPもの手数料が取られてしまう。


 そこで事前に<銀のインゴット>を一万個を五万DPで購入しておいてもらう。単価五DPなので手数料は掛からず、ヒロトの手元には五万DPが残る。


 そして<シルバードール>と一万個のインゴットとを手数料なしの物々交換とする事で手数料を節約する事が出来るわけだ。


「問題はみんながその交換ルールに従ってくれるかだね」

「それはヒロトの信用次第だな」

 ギルド内通貨の発行者はギルドマスターである<迷路の迷宮>が担当することになる。しかし通貨というのは発行者への信用が第一だ。発行者がその価値を保証し、全員が信用する事で価値が生まれる。


 例えばビットコインなどの仮想通貨を巡る最近の事件を考えると分かりやすい。


 国際的な信用度の高い日本が「貨幣」として認め、公的な決済手段として閣議決定した。そんなニュースが流れるやいなや途端に値上がりした。つまりみんなが仮想通貨の価値を信用し始めたのだ。一コイン二〇〇万以上の高値で取引されるようになったのだ。


 しかしその後、仮想通貨がハッカーによって盗まれる事件が発生する――これはビットコインの話ではないが――と途端に市場価格が暴落した。これは仮想通貨の価値を信用できなくなったためだ。


 ともあれこの検証でヒロトが発見した事といえば、ケンゴに大量の在庫インゴットを渡せば、DPのやり取りなしにモンスターを交換する事が出来る事くらいだ。


「今は必要ないが、いずれそういった整備も必要になるな」

 現状、ギルド<宿り木の種>には二つダンジョンしか属していない。両者は召喚モンスターを融通し合う関係なので物々交換が可能だし、そもそもDPにも余裕があるため手数料うんぬんはあまり気にしなくてもいい。


「そうだね、責任重大だ。じゃあ、部屋まで戻ろうか」

 ヒロトが言うと、ケンゴは進化した武具系モンスターを保管庫に収納した。そして愛用する漆黒の鎧ネメア長剣ディランを装備する。


 ギルドメンバーが増えていくに従い、こうしたルール作りは必要不可欠になっていくだろう。失敗すればギルド員からそっぽを向かれてしまう。今更ながらにギルドマスターに課せられた責務にヒロトはため息を吐く。


 そして開きっぱなしになっていたダンジョンのステータス画面を見て、とある数値が変化している事に気付いた。


「あれ、この状況って……もしかして?」


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