ギルド会員
ギルドへの加入が決まったところで再び会話に戻る。
「ところでケンゴ君、普通じゃないモンスターなら召喚出来るんだよね?」
「さすがヒロトだな。直ぐに気付くとは」
保管庫とは武器や食料といったアイテム類が保管できるゲームでいうところのストレージやアイテムボックスと呼ばれる存在である。これはダンジョンというよりダンジョンマスターに与えられたスキル扱いのようだ。ダンジョンレベルによって格納できる量が決まってくる。
保管庫には生き物は配置出来ない。アンデットも同様だ。
しかし、生きていなければ――。
「<リビング入る>だったっけ?」
「……よく知ってたな、こんなマイナー情報」
掲示板にはダンジョンに関する様々な裏技や知識が上がっている。それらの情報はインターネットのそれと同じく玉石混交であり、検証もされていない偽情報から知ったところで何の意味もない無駄知識まで無数に存在していた。
この<リビング入る>もそんな無駄知識の一つであった。<動く鎧>などの一部の武具系モンスターは魔物というより、意思を持った武具という扱いになるようだ。
保管庫には魔物は入れられないが、当然ながら武具は入る。
これは一般的なダンジョンからしてみれば無駄知識もいいところで、ダンジョンに入り切らない魔物は待機部屋に置いておけばよかった。容量は無制限で、待機中モンスターを一覧で見られたり、画面からダンジョンマップにドラッグ&ドロップでモンスターを素早く配置出来るなど利便性がある。
逆に容量に制限のある保管庫に入れると、空き容量は取られてしまうし、維持コストだって取られるわけでメリットが全くない訳である。
しかし配置スペースや待機部屋を持たない<王の剣>の場合、召喚場所を保管庫に指定することで召喚可能になるというわけだ。
「もしかしたらその鎧も?」
「ああ、三ツ星級の<混沌の甲冑>だ。リビングメイルが進化してこうなった。ネメアって名前だ」
漆黒の西洋甲冑の右手が動いてグーパーと挨拶してくる。<混沌>というスキルを保持しているそうだ。敵から魔法攻撃を確率で反射したり、MPとして吸収出来たり、方向を狂わせたり、受け流したりと様々な妨害行為をランダムで行ってくれるらしい。
続いてケンゴは腰に佩いていた長剣を鞘ごとテーブルに置いた。
「こっちは<魂喰らいの剣>。リビングソードの進化体で名前はデュランだ」
すると剣がおもむろに起き上がり、挨拶をしてくる。こちらは敵を傷付けた分だけ使用者のHPを回復してくれる<吸収>の効果があるらしい。
「初めまして……? 二人ともちょっと硬そうな雰囲気だけど案外お茶目さんなんだね」
「ああ、無口だがな。気のいい奴等だ」
ケンゴはそう言って厳しい兜を撫でた。ヒロトは何となくいい歳してお人形さんとお話しているような気分になり、なんかこう胸が苦しくなった。
「ディアさん、たしか武具系モンスターって<隠れ種族>で、召喚出来るダンジョンってかなり少ないんだよね」
「はい、詳細は申せませんが、かなり厳しい条件をクリアしない限り召喚リストに乗りません」
特殊な条件をクリアしないと召喚リストに乗らない種族を隠し物とかけて<隠れ種族>と呼び、武具系はそのうちの一種族だった。もちろん解放条件は運営側の機密情報である。
「<渦>なしでダンジョンレベルを一〇にするか、ダンジョンバトルに勝利する……またはそのどっちもだっけ?」
「……すごいな、ヒロトは」
「掲示板に流れてた情報を分析した結果だから確証はなかったけど、どうやら正しいっぽいね」
「ああ、渦なしでのダンジョンバトル勝利で正解だと思う。俺はそのタイミングでリストに上がったからな。ちなみに武具系は<リビングソード>や<リビングメイル>は一ツ星級だが、召喚コストの割りに戦闘能力は高くない」
元となる素材が道具であるため、武具系は頑丈なだけで動きは鈍い。隠れモンスターではあるものの武具系はハズレ枠だと思われていた。
「けど、装備としてはすごいんだよね」
「ああ、ヒロトは何でも知ってるな」
武具系モンスターは単純な迎撃戦力としてではなく、武器として装備させた時は大きく変わって来る。モンスターとしては戦力不足でも、単純な武具としては破格の性能を持っているのだ。
まずメンテナンス性が異様に高い。武器というのは消耗品だ。例えば剣なら一回の戦闘で切れ味が鈍り、三回も戦えば研ぎに出さなければいけなくなる。<疾風剣フェザーダンス>のような魔剣でもない限りすぐにダメになってしまう。
そのため冒険者の剣士は驚くほど少ない。一回の探索で何度も戦う冒険者だと何本もの剣を持っていくことになるからだ。結局、ダンジョンに潜る冒険者達は研ぎの技術でも持っていない限り、メイスや斧といった耐久性の高い武器に乗り換えてしまうそうだ。
しかし武具系モンスターの場合、彼等自身にHPが設定されているためどれだけ酷使しようとも回復ポーションや回復魔法などで簡単に修復できてしまう。戦闘中でさえも瞬時に切れ味を取り戻せるというのだからその出鱈目っぷりが分かろうというものだ。
またレベルがあるため使い込むほどに強くなるというのも特長の一つだ。武具であると同時にモンスターでもあるためレベルがあり、また進化条件を満たせば上位種になる事もある。要するに戦えば戦うほど攻撃力や防御力、耐久性が上がっていくのである。
加えて彼等は自我を持っており、自力で動く事も可能だ。戦闘を繰り返す内に装備者の意思を読み取り、攻撃動作を補強したり、回避動作を助けてくれたり、不意打ちを防いでくれたりする。
更に恐ろしい事に<呪われた武具>という設定――俗に言うフレーバーテキストというやつ――を持っている事が多く、剣であれば<毒攻撃>や<呪い攻撃>、<吸収>、鎧であれば<闇属性無効>や<ダメージ返還>といった特殊属性を持っていたりする。
「欲しいな、それ」
「欲しければ<市場>に卸す」
「とりあえず剣と鎧で五〇〇セット売って欲しいな。よさそうなら五〇〇〇セットくらい買うから値引きもよろしくね」
一度に大量召喚のモンスターを召喚すると召喚コストを下げる事が出来る。万単位の召喚だと通常召喚の半分のコストで可能だ。
「もちろんだ。すぐに用意しよう」
まずは抜刀隊の古参組やお庭番達に使い心地を見てもらい、良さそうなら抜刀隊や一般戦闘員にも使ってもらおうとヒロトは思った。ダンジョンモンスターのため外に出すのは<進攻チケット>、つまりスタンピード対応の時だけだが、それでも充分すぎるメリットだろう。
「逆にケンゴ君が欲しいのは通常モンスターってことだね?」
「ああ、<眷属>にしてしまえば単独行動できるからな」
一般的な配下モンスターの場合、<進攻>のような特殊な状況でも限り、ダンジョン外で長期間活動する事が出来ない。ダンジョンシステムにより保たれていた主従関係が切れてしまうからだ。しかも一度、野生化したモンスターをダンジョンに連れ戻したところで再び配下にはならない。
逆に<眷属>の場合、通常モンスターとは異なる主従関係が結ばれているためダンジョン外で活動しても主従関係が切れることはない。維持コストの先払いも可能なので長期間の単独行動が可能になるのだ。
ちなみにケンゴの場合、モンスターを置いておくスペースがないから召喚出来ないだけで維持する事は出来る。手を繋ぐなどの接触があればDPが補充できるそうだ。
「ちなみにどんなモンスターが欲しいの?」
「ああ、戦闘能力の高さはもちろん、人里に入っても怪しまれない種族がいいな」
「最近、三ツ星級の<シルバーゴーレム>を軽量化した<シルバードール>ってモンスターを作ったんだけどどうかな?」
ヒロトはここぞとばかりに営業を開始する。最近変異で作り出した<シルバードール>を呼び寄せ、盾と槍を装備させた上で素振りなどをさせてみる。シルバーゴーレムほどの耐久性や怪力はないが、その分だけ素早く小回りも効く。ゴーレムは錬金術などで作りだせる魔法生物なため連れ歩いても問題は発生しない。
「ひとまず一〇体ほど貰えるか? チケットが増えたら更に買う」
「毎度あり!」
ギルド加入後の展望を話し合っている内に時間が過ぎ、ケンゴはヒロトの用意した来客用の宿泊スペースに泊まる事になった。
そして何事もないまま二四時間が過ぎ、ダンジョンバトルは終了する。
「このダンジョンバトルが終わったらすぐに加入申請を出す」
「うん、待ってる」
ヒロトとケンゴは握手を交わした。
ヒロトも久しぶりの級友との会話に心が弾んだ。話す内容はダンジョンの事ばかりだったけどまるで学生時代に戻ったような気持ちになった。
「また会えるよね」
「ん? ああ、もちろんだ、なにせ――」
別れを惜しむヒロトの耳に、無情にもバトル終了を知らせるブザーが無情に響いた。
結果は引き分け。
両陣営ともノーダメージだったためだ。
その後、ギルド<宿り木の種>に<王の剣>が加入する。この一連の出来事からダンジョン<迷路の迷宮>は同盟を騙る危険な侵略者でないと認知されるようになった。




