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明日に種を撒こう

「うーん、確かに、ルー君の言う通り」

「ウチにはダンジョンに親を殺されたり、故郷を追われた連中も多いからな……」

 クロエとキールが頭を抱える。


「そうだね、僕も人殺しを積極的に行う人達と付き合いたくはないかな……子供達の教育にも悪いし」

 ヒロトは人類の敵ダンジョンマスターだが、望んでなった訳じゃない。例え身体が人食いの怪物であったとしても、心まで染まってやる必要はないのである。


「まあ、こちらの都合で子供達を戦場に送り出しているこの僕が言える台詞じゃないんだけどね」

 苦笑交じりにヒロトが言えばクロエが立ち上がった。


「主様は悪くない。それはあたし達が望んだ事だし!」

「そうですよ! ご主人様は僕等に戦う力をくれました。そしてそれを誰かのために使いたいんです」

 抜刀隊は志願制だ。今や二〇〇〇人以上にまで増えた子供達のほとんどが志願していると聞く。


「自分を卑下するのは大将の悪い癖だぜ」

 眷属達に諭され、ヒロトは困ったように頭を掻く。助け舟を求めて銀髪の美女に視線をやればなにやら生暖かい笑みを向けられる。


「ええ、皆さんの言う通りかと。もっと胸を張ってください。ヒロト様の背中こそ子供達は見ているのですから」

「……はい、気をつけます」

 ヒロトがそう言って玉座で胸を張ればクロエが歯噛みする。


「くそう、一番、美味しいところを持っていかれた気がする……」

「すいません、クロエさん。ダンジョンマスターの心のケアも私の役目ですから」

「間に合ってるし! 私達だけで充分だし!」

 じゃれ合う美少女二人を眺めながら、ヒロトは考えを巡らせる。


 ギルドに関わらないか否か。設立するか所属するか。参加しないという考えはヒロトの中にない。ルークの言うように設立だけして、ソロで活動していくというのもありかも知れない。


 しかし、そのためだけの多額のDPを支払うメリットはあるだろうかとも思う。ギルド機能は他ダンジョンと交流する事で初めて利益が得られるようになっている。特に<市場>などはそのダンジョンの特色を生かした魔物やアイテムが手に入るビックチャンスだ。これを活かさない手はない。


「けどなぁ……」

 だからといって普通の――積極的に人類に敵対する――ダンジョンマスター達と徒党を組んだところで上手くやっていける自信がない。


 そんな時、不意にディアが咳払いを入れる。


「現在、設立済のギルドはほとんどが人類と敵対している……失礼、積極的に活動をしているダンジョンが発起人となっています。しかしそれは仕方がない事でしょう。ギルド設立には最低でも一〇〇万DPもの資金が必要です。運用益の高い、戦闘に特化したダンジョンでもない限り、用意出来る額ではありません」

 上位ランカーというのは大抵の場合、年に一度の一斉スタンピードに参加している。もはや恒例となりつつある年末の一斉スタンピードに参加する事は、自らの存在を周辺地域に知らしめより多くの冒険者達を誘引するためのコマーシャルの役目も果たしているのだからある意味、当然の事といえる。


 それはもはやランカーに上がるためのセオリーといってもいいだろう。ダンジョンが危険であればあるほど侵入者の数も増える。なぜならダンジョン内で積極的に狩りを行えば行うほどスタンピードに使える魔物の数が減るからだ。一〇〇の敵と一回戦うのと、一の敵と一〇〇回戦うのとでは難易度が全く違うのだから冒険者達だって必死である。


 こうして積極的に活動する事で増えたDPをダンジョンに投資して回して防衛力や攻撃力を高める。


 もちろんリスクはある。周辺地域に軍事拠点があったり、優れた冒険者を多く保有している地域ではひっきりなしに現れる侵入者を撃退し切れずにダンジョンコアを奪われるなんてケースも多発しているのだ。


 正にハイリスクハイリターン。現在、ランキング上位に君臨するダンジョンのほとんどがこの危険な運営方針を選び、生き抜いてきた成功者なのであった。


 むしろこうした運営方針に合わせるようにシステムが作られているという方が正しいのかもしれない。正しいダンジョン運営をしていたダンジョンがランキング上位を独占するのはある意味自明だったわけである。


 そこまで説明を終えて、ディアがこちらを見た。

 青く凪いだ湖面のような瞳でヒロトを見つめるのだ。


 まるで何かに気づけと言わんばかりに。


「……ディアさん、質問です。ランキングに乗らないダンジョンの中にはどんなのがあるのかな?」

 ヒロトは思考を巡らせ、尋ねた。


「色々です」

「……色々?」

「はい、ランカーダンジョンと同じように冒険者を積極的に狩っているダンジョンもあれば、人里離れた場所でひっそりと隠れているダンジョンだってあるでしょう。<迷路の迷宮>のように人間社会に溶け込んでいるダンジョンがある可能性だってゼロではありません」

 その答えに、ヒロトはがつんと頭を殴られたような気がした。


「そうか、そうだよね……」

「どうしたの、主様?」

「いや、当たり前の事に気付いたんだよ」

 ヒロトは続けた。


「ダンジョンマスターの全員が戦いを望んでいるわけがない」


 ――そうだ、僕は何を驕っていたのだろう。


 一〇〇〇人ものダンジョンマスターが居て、その全員が力に溺れ、破壊と支配の欲望に駆られていたと思っていたのだろうか。


 ――僕だけが特別だと思っていたんだろうか。


「ランカークラスには居なくとも中間層ぐらいには平和に暮らしているダンジョンだって……」

「ええ、少数派ではあります。が、皆無というわけでもありません」

 ディアは穏やかに笑う。何にだって例外はあるのだ。少数派である事は間違いないだろう、しかし皆無ではないのだ。その少数を集める事が出来れば――。


「ディアさん、ギルドを設立します」

 ヒロトは言いながらギルドを設立するための手続きを行う。


「例えこの身が人を食らう化物ダンジョンマスターになったとしても、その心までは変らない」

 人で在りたい。

 在り続けたい。

 同じ志を持つ人達に出会いたい。


――――――――――――

この設定でギルドを設立します。本当に問題ありませんか?

⇒はい

 いいえ

――――――――――――

決定ボタンを押す。



「ん、主様、それが正解だと思う」

「流石、僕等のご主人様です!」

「ああ、やっぱウチの大将は最高だな」


 古参三人組の明るい表情を見れば、この選択が最善であると思えて仕方ないのだった。


―――――――――――――――――

宿り木の種ミストルティン

 GM:迷路の迷宮

 一言:僕は人とダンジョンが共存する社会を見てみたい。

―――――――――――――――――


 願わくばこのギルドが希望の種と為らん事を。


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