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ギルド創設

「新年早々、ごめんね」

 ヒロトは早速、眷属であるルークとキールを呼び寄せた。この時間帯は子供達の戦闘訓練やら抜刀隊の集団戦闘訓練などで忙しいはずなのでまずは謝っておく。


「いえ、マスターのご命令とあらば」

「それにこの面子が集まるってことだ。よっぽどの事だろうしな」

 二人から寄せられる信頼にヒロトは胸が少し暖かくなった気がした。


「あ、そうでした。明けましておめでとうございます、ディアさん」

「今年もよろしくな、姐さん」

「おめでとうございます。今年も宜しくお願いします」


 新年の挨拶もそこそこに二人はコタツに入ろうとする。しかしコタツは正方形。既に三人が入っているわけで誰か一人があぶれてしまう。


「クロエ、お前今朝からずっと入ってんだろ、退けよ」

「うるさい、馬鹿キール。廊下に立ってろ」

「止めなよ、二人とも。ご主人様やディアさんの前で。僕が立ってるから」

 ルークが大人気ない二人を止める。年少者だが彼が一番大人のような気がする。


「子供が遠慮すんな、入ってろ」

「その通り。遠慮すべきはこのデカ物。スペース狭くなるから」

「んだと、このダメ猫」

「やんのか、デカ物」

 キールが言えば、クロエは歯をむき出しにして威嚇する。


「仕方がありません。それでは私がヒロト様の隣に入るとしましょう。ヒロト様、ちょっと寄ってくださいませ」

 ディアは言いながらヒロトの座る一角に移動しようとする。


「おい待てそこの淫売。主様に近づくな」

「誰が淫売ですか! 清廉な女神です」

「ふん、いい歳して処女おぼこか」

「クロエさんだってそうでしょうが!」

 今度はヒロトの居るスペースを巡ってキャットファイトが始まる。


 ヒロトは黙って玉座に移動、申し訳なさそうにこちらをみるルーク少年を安心させるべく優しい笑みを浮かべるのだった。




「ディアさんさっきの話をもう一度、お願い」

 ヒロトが仲裁をし、ディアに説明を促す。サポート役は先日行われたダンジョンシステムの仕様変更について説明した。既に話を聞いていたクロエはともかく、残りの二人は難しそうに顔を顰めた。


「大変な事になったな」

「ご主人様はどうなさるのですか?」

「うん、これからどうしようか考えてて。それを相談したいんだ」

 ヒロトが言うと古参組の三人は満面の笑みを浮かべる。


「微力ですが頑張ります」

「俺達に任しときな、大将」

「ん、あたしも頑張る」

 眷属には一部のダンジョンメニューの操作権限を付与する事が出来るのだが、ダンジョン運営に関わる重大な決定はヒロトとディアの二人が相談して決める事が多かった。


 この重要な会議に呼ばれたという事はつまり敬愛する主人の信頼を勝ち得たという証明に他ならない。その事が嬉しくて仕方がないのである。


「まず考えるべきはギルドとどう関わっていくかだと思う」


 自らギルドを設立する、誰かが設立したギルドに加入する、あるいはギルドには関わらずソロでの活動を続けるなどがある。


「まずはギルドを設立する場合ですね。設立者であるヒロト様、ひいては<迷路の迷宮>がそのギルドマスターとなります。メリットはギルドの機能を利用出来るようになること。その上で組織を自由に運用出来ることでしょうね」

 ディアが口火を切り、ヒロトが続ける。


「そうだね。さらにギルド員であるダンジョンマスター達の行動にある程度の影響力を持つ事が出来ると思う。

 逆にデメリットは設立のために多額のDPが必要な事かな。後は人間関係のリスク。下手な組織運営をすればギルドメンバーは離脱しちゃうし、トラブルでも起きようものなら敵対する事もあるかもしれない」

 得られるメリットは大きいものの、組織を運営するのは大変な労力がいる。


 しかも競争相手でもあるダンジョンマスター達をまとめるのだ。


 彼等の利害関係を調整し、集団としてのメリットが生まれるように適切に運用していかなければならない。


 過去のトラウマから極力他人と関わらないように生きてきたヒロトが最も苦手とする分野といえるだろう。


「ご主人様、誰かが設立したギルドに加入するのはどうでしょうか? ギルドの機能を使えますし、設立のためのDPも要りません。気に入らなければ抜けてしまえばいいわけですし」

 ルークは自信なさげに言う。


「デメリットは我慢しなきゃならねえ事もあるってこったろうな。組織である以上、上の方針には従わなければならねえだろうし、ギルドマスターの意向に沿わないようであれば脱退させられる事もある。ギルドメンバーとトラブルが起きる可能性だってゼロじゃない。よっぽどいいギルドに入れなきゃ意味がねえ」

 キールは苦虫を噛み潰した表情で言った。帝国軍に務めていた頃に色々あったようである。


「主様、いままで通りっていうのは?」

 これまで通りソロのダンジョンとして活動して行くという案もある。メリットは特にないが、強いて挙げればギルド関係のためにDPが不要な事くらいである。


 デメリットはギルド機能を使えなくなることだ。今後、ギルド専用のイベントもあるそうだから加入しない場合、ライバル達に大きく差を付けられる可能性があった。


「ちなみに今はどんなギルドがあるんだ?」

「ちょっと待ってね。今開くから」

 メニュー欄に追加された<ギルド>メニューをタップする。


―――――――――――――――――

■闇の軍勢

 GM:魔王城

 一言:勇者よ、我と共に来い。世界の半分をくれてやろう。

■聖なるかな

 GM:逆十字教会

 一言:あらゆる創造は破壊を前提とする。

■_:(´ཀ`」 ∠):'s

 GM:_:(´ཀ`」 ∠):

 一言:パンデミックスと読みます。アンデット系ダンジョン集まれ!

■メラゾーマでもない

 GM:メラではない

 一言:また一緒に研究しよう!

■オルランド最前線

 GM:渡る世間の鬼ヶ島

 一言:オルランド王国のダンジョンよ、集まれ。一緒に王国を蹂躙しよう。

…………

―――――――――――――――――


 設立されたギルドが一〇個ほど並んでいる。気の早いダンジョンマスター達は既に動き出しているようだ。


 何となく焦る。


「うーん、どこも主様とは反りが合わなさそう」

「大将は変わり者だからな」

 キールとクロエがメニューを覗き込みながら言う。


「……でも、本当にこんなダンジョンだけなんでしょうか」

 悲しそうに眉を下げるルーク。多くのギルドが一緒に人類と戦う事を前提に誘っている。僅かに日本に居た頃の部活メンバーを誘うサークル的なギルドもあったが、希望者を元○○部の人のみと限定してしまっている。


「まあ、設立費も馬鹿にならないからね。どうしても好戦的なダンジョンが集まるよ」

 ギルド設立には一〇〇万DPという大金が必要だ。メリットも定かではないこの段階でギルドを設立している事から考えればDPに余裕のあるナンバーズ、あるいは上位ランカーだけになるだろう。


 上位陣のほとんどが積極的に人類への敵対行動を行っている。一斉スタンピードを始めとする各種イベントには必ず参加し、村々を壊滅させたり、軍事拠点を破壊したりしてDPを稼ぐ。そして自らを危険なダンジョンであると喧伝した上で冒険者達を誘い込み、喰らい尽くすのだ。この負のスパイラルを正しく回す事が、現状、最も有効な運営手法とされているのだ。むしろ、そうなるべく調整されているという方が正しいのかも知れない。


「私はギルドを設立するべきだと思う。主様はこんな連中の下に付くべきじゃない。主様ならきっと素敵なギルドを作れる」

「同感だぜ。どこの馬の骨とも知れねえ、ダンジョンからの命令のために命を張るなんざまっぴらごめんだ」

 クロエとキールはダンジョン設立派のようだった。


「ルークは?」

 ヒロトがルークに話を振ると、彼はゆっくりと話始めた。


「……すいません、僕は参加しないほうがいいと思ってます。今でも充分に収益は上がってますし」

「それじゃギルドの機能を使えないし」

「そうだ。今は良くてもいつかライバル共に置いていかれるかも知れねえ」

「そうですね……例えばギルドを設立するだけしてイベントに参加するくらいならいいと思います。でも、ご主人様のダンジョンは他のダンジョンのそれとは違いすぎてて、子供に優しくて、賑やかで、穏やかで、きっと誰と組んでも上手くいかないと思うんです」

 ヒロト達はダンジョンマスターだ。一攫千金を夢見る冒険者達を誘き寄せ、罠を仕掛け、魔物をけしかけ、捕え、奪い、喰らい、大きく強くなっていく怪物なのだ。およそ一〇〇〇個あるダンジョンのほとんどがこんな方針で活動している。


 ヒロトの方針と合致するはずもない。

 その後、話し合いを続けるが中々妙案は出てこなかった。

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